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ユ:押し寄せるゴリラ


 拠点襲撃。

 元マタギさんから報告を受けて、元教授さんは俺と相棒を振り返った。


「どうするお客人。終わるまでピリオに戻ってもらっても構わないが……」


 いや、現地にいるのに何もしないで終わるのを待つだけってのはいくらなんでも心苦しい。

 武芸之翁さんがこっちに来るのかもしれないが、それにしたって放棄するって選択肢は無いだろ。


 参戦する旨を伝えると、元教授さんは嬉しそうにニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


「そうか助かる。ではここの襲撃の定番を伝えておこう。まず、ここはジャングルに近いのでな……」


 その時、防壁の向こう側にボゴォッと音を立てて山菜のゼンマイを巨大にしたようなやつが伸び上がった。


「あ、さっきゴリラが投げてきたやつのもっとデカい版だ」

「うむ。ジャングルに生えるあれと、例のゴリラが徒党を組んで押し寄せ、防壁の中に直接攻撃を試みてくるので気を付けてもらいたい」


 マジで言ってる?



 * * *



 拠点襲撃の規模は、拠点の資産と住んでいるプレイヤーのレベルで決まる。


「ここは人数こそ少ないのだがな……孫曰く、どうも貯め込んでいるアイテムにNPCが好む高級品が多いらしい」


 なんと言ってもリアルが人生の大御所。

 登山をすれば山頂で珍しい石や植物を採取し。

 森を歩けば様々な草花を薬草含めて採取し。

 香り高く美しい花を持ち帰っては見事に繁殖させ。

 珍獣を仕留めれば完璧な下処理の末に見事な肉や毛皮を作り。

 それらを素材に、長年培った腕前でそれはそれは素晴らしい物を作り上げる。

 良い物を見極められる御隠居達が全力で趣味に走った結果、ここは宝の山となっているらしかった。


 その結果が、所有プレイヤー達のレベルに見合わない襲撃の規模。


 丸太を地面に並べて突き立てたタイプの防壁。その内側に付けられた足場に跳び乗った。

 うわ……ジャングル方向からゾロゾロとゴリラが歩いて来てる。


「もう少ししたら孫関係で援軍が来るから、それまで耐えればなんとかなるぞ!」


 その言葉を嘲笑うかのように、巨大なゼンマイの腕がブオン!と防壁に振り下ろされる。

 丸太の先端が尖らせてあるのはそのためか。

 攻撃の勢いで丸太が突き刺さり、数カ所抉れたゼンマイが大きく仰け反った。

 そこに矢を撃ち込めば、巨大な茎はメキメキと自分の重さを支えきれずに倒れて折れる。


 そうして巨大ゼンマイを片付けていると、同じく防壁の足場にいた元マタギさんがスリングショットを手に頷いた。


「よし、狙撃は任せる。ワシは罠に専念しよう」

「……了解です」


 元マタギさんは「猟銃をよこさんかい」とブツブツ言いながら走って行った。


 ……任せられたからには頑張るか。



 ──なんて思った次の瞬間。



 拠点の中に、弧を描いて飛んできた大きな質量。



 ぶん投げゴリラ Lv35



 うわ、ゴリラがゴリラを投げて壁を越えてきやがった。


「【トリック・オア・トリート】!!!」


 そこに響くキーナの【死霊魔法】

 怒り狂いながら防御がダウンするゴリラ達。

 そして……


「うわわわわっ!? 何これ……ゼンマイ!?」


 贄扱いで大量の山菜のゼンマイを押し付けられたキーナ。

 さらに敷地内に降り立つゴリラ達。


「ネビュラ! 中を頼む!」

「承知!」


 相棒も慌てて足場に上がってくる。

 そうだな、近くにいてくれた方が守りやすい。


 そうして外も中も入り乱れて戦い始めると、続々とインターネット老人会のメンバー達が外に出てきた。


「あらあらあらあら、ゴリラさんまた入って来ちゃったのね。大変だわ」

「言うとる場合か!」


 髪に花を引っ掛けたエルフの女性と、釣り竿を担いだ男が飛び出してくる。


「『元トリマー』は!?」

「いつも通り犬連れて貴重品部屋に立て籠もったぞ!」


 そうか、犬は仕舞われたか。

 俺の精神衛生上、大変助かる。


 中は任せて、俺は外の敵をひたすらに撃ち続けた。

 衝撃波が乗せられるようになったから、ある程度の数をまとめて片付ける事は出来る。


 ……ただそれでもゴリラ多いな。

 ゴリラはそれほど密集せずに、遠距離から投擲してくるから余計にまとめて当てにくい。

 ワンパンで倒せるからまだいいが。拠点のサイズに対して数が多すぎる。


「【ツリークリエイト】!」


 キーナが【木魔法】を唱えると、外に生えているのとそっくりな巨大ゼンマイが防壁の中に数本生えた。


 相棒の巨大ゼンマイは、茎をブオン!と振り回して、飛んで来ようとするゴリラをベシッとハエ叩きのように叩き落とした。

 そうだな、コダマ爺さんとマリーがいないから、最近よくやる籠みたいな防衛は強度も隙間埋めも足りなくて効果が見込めないんだよな。


「このっ! 来るなっ! 来ないでっ!」


 でも大丈夫かそれ? ゴリラのヘイト買ってないか?

 ……買ってるわ。

 ゴリラがゴリラ以外の岩だの丸太だのを相棒に向かって投げ始めた。


「ムギュエ!?」

「はい、じっとして」


 抱きかかえて回避。


 しかし防壁がその役を果たしていないのはやりにくいな……完全に乱闘だ。各々が目の前のゴリラと戦っている。

 フレンドリーファイアが無いとはいえ、建物にはダメージが入るから拠点に入られると戦いにくい。


「……【ダークネスクリエイト】」


 拠点内の地面に闇を展開。

 入り込んだゴリラに継続ダメージを入れる。


 ……MP消費がキツいな。

 ただ、いくらか持てばいいってのが本当なら、これでなんとか……


「そろそろ来るか? 『元写真家』の孫が所属しとる傭兵団」

「あら、違いますよ。確か傭兵団は裏のお仕事で、本業は……」


 聞こえてくる老人会メンバーの会話。

 その合間に、トンと拠点の屋根に降り立つ足音。


 視線を向ける。


 仮面と仮面で視線がカチ合う。


 そこにいたのは金と紺のピエロ。 



「本業はサーカス団ですよ」



 ラリーストライク大会第4位の男が、そこにいた。


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― 新着の感想 ―
相棒のヘイトもピエロさんにいきそうね
草しか言わないギョッピー!
サーカスならゴリラ自体テイムしてそう ゴリラのゴリラ投げがあるならノックバック戦法みたいにしてある程度減らせねえかなーとか思ってしまうが 戦闘力的に平押しで殲滅しちゃうか
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