ユ:アナタのプリティシマエナガ
はぁ……やっとメッセージの返事を出し終えた。
ずっと寝室で作業をして、顔を上げるとキーナがシマエナガのシロが入った籠を覗き込んでニマニマしているのが目に入る。
……そうだ。
「そういえば、シロはどう運用する予定?」
「うん?」
「睡眠バフ用のペット系従魔だから、とりあえず寝室に置いてるけど。連れ歩いたりはする?」
そう訊くと、キーナは「ん〜……」と天井を見上げて考えてから口を開いた。
「ペット系は特にレベル上げとかいらないんだっけ?」
「そう、ペット系は基本ただ可愛がるだけ」
「……じゃあ、寝室に寝床置いて飼う感じかな。昼間は拠点を好きにうろちょろしてて良いと思う」
まぁベロニカは好きにしてるしな。
夜に寝室にいるなら、そこは自由でいいと思う。
「あー、でも買い物に連れ歩くくらいはしたいかも。肩とかに乗せて」
「うん、せっかくゲームだしな」
リアルだと飼えない鳥を飼うなら、それはそういう事はしたいだろう。
「……でも、相棒がシロちゃんを獲得してくれたのは、変装してない格好での事だからー……」
「うん」
「変装してない時に……ちょっとピリオに買い出し行く時とかくらいにしておいた方がいいかな」
「だな、それは気を付けて」
森夫婦スタイルに変装してる時にシマエナガを連れていたら、言い訳のしようがないくらい一発でバレるだろうからな。
なんて話をしていると、キーナが「ん?」と首を傾げた。
「そういえば……」
「何?」
「相棒って、シロちゃんの言ってる事わかるの?」
「……まぁ、わかるよ」
「マジで!?」
【ワイルド・ファクター】の効果で……わかってはいる。
わかっては……いる……んだけどなぁ……
『ジュリリ』という実に可愛い小鳥の鳴き声の代わりに俺に聞こえているのは……
「アナタの眠りをお守りします! ワタクシが、そう! ワタクシがアナタのプリティシマエナガ! いくらでも愛でてくださってかまいませんぞ! なにせワタクシ! とってもカワイくプリティであるからして! 愛でずにいられないその感情は、しっかりと理解しておりますとも!」
これだよ。
相棒にはどうやら短く「ジュリリ」って聞こえているだけみたいなんだが……その後ろでこんな長文喋ってるんだこのシマエナガは。どんな圧縮言語だよ。
しかも、プリティシマエナガなんて名前の通りにカワイイ見た目しておいて……声は激渋な男のイケボ。
なんでだよ。
「なんて言ってるのー?」
「ハッハッハ、ワタクシのマスターは旦那様と実に仲睦まじくてなによりでごさいますな。ご安心くだされ、夜半はワタクシ、しっかりと静かな置き物となりますので。そう! ワタクシは! 空気の読めるプリティシマエナガ! いくらでもイチャイチャしてくださって結構でございます! そんな主人の幸せを見守る事こそ、プリティシマエナガの本懐なので!」
「……俺達が仲良しで良いねって」
「おー、そうだよ、僕らは自他共に認めるバカップルだからね!」
……これはやっぱり伝えたらキーナの中のシマエナガのイメージが崩れるんだろうか。大丈夫な気もするが……ちょっと伝えるのためらうんだよな……
「シロちゃんも知恵の林檎食べたら喋るようになるかな?」
「あー……」
「ふむ、ワタクシとってもプリティではございますが、この麗しき美声がいわゆるギャップ萌えという部類に該当しているという自覚もございますので。もしもマスターが真にワタクシと会話を望むのならばやぶさかではございませんが、相応の覚悟を決められてから挑むのがよろしいかと存じます。具体的には旦那様からワタクシの美声についてお伝えされてからになさるのがよろしいかと」
「……まだ早いって」
「そっかー」
まぁ……会話したいって言い出したら考えればいいだろ。
「とりあえず、シロの寝床でも作るか? 受け取った鳥籠のままだったし」
「そうしよっか。シロちゃん寝床はどんなのがいい?」
相棒が希望を訊くと、
「おお! 希望をきいていただけるとはありがたき幸せ! ではそうですな。壁材はクルミなどの硬い木を使用し、部屋数は4部屋以上、床にはふかふかの毛などを敷き詰めていただきまして、通気性を調整可能なように窓が多いと助かります。全体的に華やかな美しい装飾で飾られていますとシマエナガの可愛らしさが引き立てられて良いと思われますな! 寝室にはダウンを使用した羽毛布団を敷いていただければ!」
また『ジュリリ』程度の鳴き声なんだろう裏で長い長い要望が返ってきた……
「……どんな寝床だ。城か?」
「城!?」
細かい要望を相棒に伝えると……相棒はケラケラと笑ってシロをつついた。
「ドールハウス探した方がいいかも!」
「ああ、確かに」
プレイヤーがドールハウス売ってる店がピリオにあるって有志wikiで見かけた事があった。
本鳥連れて行って選ばせるのが1番いい。




