ユ:やれるところまで
本戦トーナメント、最初の列の試合が全部終わった。
8人に絞られた選手達でベスト4を決める試合が始まる。
ここからは順当なトーナメント勝ち抜きだから、俺の相手はもう決まっている。
相棒の激励を背に、会場へ移動。
やってきたのは顔の見えない赤の戦隊装備。
「戦隊レッドだ、よろしく」
「……ユーレイです。よろしくお願いします」
システム的に握手ができないから、お互い軽く一礼してコートイン。
……さて、どうやって戦おうか。
予選のアーカイブは全部見たが、戦隊レッドは本当に隙らしい隙が無かったんだよな……
カウントダウン
……2……1……開始
即、トップスピードで思考加速に突入。
戦隊レッドは俊敏が100には到達していない。
そこで優位が取れればなんとか……!
すれ違いながら、ワンドを向ける。
──それを見越したように、俺にも向けられるワンドの先。
だよな! 追い付いて来るよな! 知ってた!
これで勝てるならスレにあんな書かれ方するわけない!
ここで引いたら逆に不利になる。
2,3発もらう覚悟で、こっちも3発叩き込む。
──27-27
普通に思考加速に対応してきたな。
あれは俊敏が普通に高い。
他ステを優先してるからまだ100じゃないってだけで、限りなく100には近い。プレイヤースキルで速さに適応している。
戦隊レッドが距離を取る。
今度は追いかけない。
互いにワンドを構えての撃ち合いが始まった。
銃弾よろしく飛び交う球。
FPSか?
なんて思ったのも束の間、ラリーストライクだからガチの打ち合いが始まった。
──21-25
被弾は俺の方が多い。
球数はとっくに20を超えている。
クソッ、上手いな!
お互い一定の距離を保ちながら、移動しつつの打ち合いが続く。
──18-22
ランダムウォークと回避がしっかりしてるから、偏差撃ちも当たってくれない。
球数減らしたらこっちの不利が加速するだけだ。
……そもランダムウォークが必須の球技ってなんだよ!?
FPSか!?
──15-19
「……『ストライク』ッ」
減った分の球を補充ショットしながら、合間にストライクを叩きこむ。
戦隊レッドは崩れない。
そのまま『ストライク』で打ち返して来やがった!
ストライクモードを維持、さらに打ち返す!
お互い回避し切れない跳弾を浴びながら、絶対に喰らうわけにいかない『ストライク』を返し合う。
──5-7
『ストライク』の応酬をしながらさらにショットを撃ちあう、クロスカウンターじみた殴り合い。
俺から始めたストライクラリーは、当然俺の方が先に『ストライク』の回数制限が終わる事になるだろう。
だから3発返して、残り2発のところで光線を壁にするようにサイドへ抜けた。
思考加速のトップスピード
抜けたサイド、別角度からの『ストライク』
……これも打ち返すのかよ!!
とはいえここが正念場だ。
いま打った『ストライク』の光線に、重ねるようにして撃っていた2発の『ショット』
──1-2
戦隊レッドが打ち返した光線と、俺のショット2発が交差する。
『ストライク』は『ショット』の倍速。
間に合うか……っ!
──0-1
『試合終了ー!! 勝者『戦隊レッド』選手ー!』
あー……あとちょっと遅かったか。
解除されていくコートの壁を背景に、戦隊レッドが俺に向き直る。
「良い勝負だった。ありがとう」
「……ありがとうございました」
お互い、開始と同じように軽く一礼して背を向け、控室に向かう。
実際にやると『レッドはとにかく上手い』って評価がよくわかった。
あれは上手い。
FPSとかの対人ゲーで、常にトップ争いにいるようなタイプじゃないか? 動きがそんな感じだった。
エフォ内のラリーストライクっていう縛りがあって、俊敏ステが上だからギリギリやりあえたってだけで、それが無かったらたぶんもっと早く差をつけて負けてたな。
まぁ、今の俺だと、ここまでだ。
* * *
控室に戻ると、待っていたキーナが抱き着いてきた。
「お疲れさま。惜しかったね」
「うん、賭けに負けた」
抱き締め返してキーナの頭に顎を乗せる。
あー……これこれ。
「悔しい?」
「ん? そうでもない。『今の俺の実力はこんなもんか』って感じ」
「そっか。試合は負けたけど、めちゃくちゃカッコよかったよ!」
「本当に?」
「ウソなわけないじゃんすか。頑張ってくれてありがとうね」
「ん」
だったらいい。
「……てか、何十万人って同接するオンラインゲームの大会で、色々制限あるとはいえベスト8入りってめっちゃスゴくてカッコイイと思うけど?」
「まぁ……そうか?」
「そうだよ」
そのおかげでしばらくは少し騒がしいかもしれないけどな。
その辺は織り込み済みで出場したから、甘んじて受けるしかない。
「あー、でも……」
「何?」
「しばらくPvP戦闘はやらなくていい……」
「……これPvPだったの?」
「そーだよ」
ガチでやるとわかる。半分どころじゃない、8割くらいPvPだったよ。




