キ:魔女集会へ行ってきます
※コメント見て『ほんまや!』ってなったので、座席の番号決定の下りを修正。
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今日の僕は、魔女集会に行ってきます。
マリーに作ってもらった黒い魔女衣装を装備、MPポーションも一応持つ。
後は招待状と……手土産に、夢守の卵を孵すことが出来る豆と、森で採れる鬼灯みたいな『千夢の果実』を籠いっぱいに持っていこう。
……よく考えたら、『千夢の果実』の方も夢の結実って書いてあるから、夢守の卵を孵せそうな気はする。試してないからわからないけど。
まぁ、見た目は『千夢の果実』の方がカワイイからね。
「じゃあ行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
なんでか見送ってくれた相棒にやたらスクショを撮られた。
なんだよぉ〜。
お返しに僕も相棒のスクショを撮る。ふふん。
MP温存にって相棒が貸してくれた光学迷彩マントを着て姿を隠した状態で、転移オーブを使って『☆フェアリータウン☆』へ移動した。
今日の魔女集会は、この『☆フェアリータウン☆』のカフェを貸し切って開催している。
闘技場みたいにシステム的な完全プライベートには出来ないけど、秋イベント真っ最中でピリオノートに人が集中している今なら、店を貸し切れば内緒の集まりには充分みたい。
招待状の地図に従って、花が多いメルヘンな街並みの中でも、裏路地なんだろうなーって所へ移動すると、目的の店があった。
Cafe『割れた砂時計』
いわゆる隠れ家的スポットみたいな目立たない位置にあるお店。
小声でネモに透明人間化の指示を出してから、声変わりシロップを飲んで、準備はオッケー。
暗い色の扉を開けると……店内は薄暗く、シックで落ち着いた雰囲気の木造の店で、ほんのりとお茶の香りが漂っている。
僕が光学迷彩中だから、誰もいないのに扉が開いたように見えたみたいで、店員さんが『おかしいな?』って顔でこっちにやって来た。
そこで光学迷彩マントをインベントリに収納すれば……ジャーン! 何も無い所から現れた体が透明な魔女の登場ってわけよ!
驚いた店員さんに招待状を見せれば、さすがプロ、動揺を隠しつつお席へご案内。
案内された店の奥は……大きめの黒いテーブルクロスがかけられた大きな丸テーブルが用意されていて、それぞれの席に数字が大きく金の糸で刺繍されていた。
そのテーブルを囲む猫足の椅子に、魔女スタイルのプレイヤーが数人座っていた。
カワイイ系、カッコイイ系、ゴシック系、民族系……おお、小人の魔女さんや黒猫の獣人な魔女さんもいる。魔女の見本市かな? なんという眼福。
そこへやって来た透明人間の、僕です。
「えっ? ……ええっ!?」
「……!? ……???」
「え、すごい……透明人間だ……」
「何で? どうやって??」
「魔女の服が動いてる……?」
参加者の皆さんがビックリしました! 僕の大勝利です!
* * *
時間になりまして、穏やかに魔女達のお茶会が始まった。
招待状を出した相手と主催を含めて、用意されていたのは12席。
その内、不参加は3席。
不参加3名の内の一人がアルネブさんなのを僕は知っていたりする。
匿名参加OKだから、特に自己紹介とかはしない。
12席にそれぞれ番号が付いていて、数字の刺繍入りテーブルクロスがかかった丸テーブルを時計に見立てて、『○○時の魔女』もしくは『○○時の』って呼び方をするルールのお茶会なのだ。
ちょっとわかりにくいけど、どうせ外ではそんな呼び方しないからね。
このテーブルに着いている時だけの、ロマン優先。
僕は『6時の魔女』
案内されて『空いてるお好きな席に』って言われたから、6時の席に座った。
「3時の魔女さんのお店の新作のブックカバーが……」
「港の露店で時々変わった茶葉が売りに出される事があってー」
「8時の魔女さんは、いつも一緒の剣士さんとの仲はどうなの?」
「……!」
まぁ魔女とは言っても怪しい儀式とかしてるわけじゃないからねぇ。
なんとなく趣味の合う女性が集まった女子会というか、そんな雰囲気でだらだらとお菓子食べながらお茶飲んで駄弁ってるゆる~い感じ。
皆それぞれ自分好みの魔女スタイルなんだろうなーって感じの装備を着ている。
その中で完全に顔も声も隠しているのは僕の他にも3人くらいいた。
僕の異形感に皆が面食らったのは最初だけで、僕が普通に会話に参加していれば皆も早々に慣れてぎこちない感じは消え去った。
「ダンシング柳っていう素材をちらほら見るから……ぜひ本物が見て見たいんだけど、どこにあるのか知ってる人いる?」
「あー、あれねー」
「ちょっと遠い島に拠点持ってる人の所が原産ですよ。まだピリオからの方角は確定してなかったはず」
「防衛の援軍募集はちょくちょくしてる所よねぇ? ならワンチャン待つしかないかなぁ」
「そっかー」
「あの木で箒作ってみたら踊ったりしないかなーと思って作ってみたらさー、陸に上げられた魚みたいになっちゃった事あるよ」
「なにそれー」
ケラケラと和やかに笑う面々。
何人かは、名前は知らなくても見た事のある顔もいた。
1時の魔女さんは、僕に招待状をくれた仕立て屋のハニーカプチーノさん。
3時の魔女さんは、占いに使うインクやペンを買った雑貨屋さんの店主。
8時の魔女さんはフリマとか占いとかに来た魔女好きの女の子だと思う。あの胸の大きさと無口さは忘れてない。
顔見知り程度の相手がいるなら、やっぱり透明人間ごっこしてきて正解だったね。
不参加も複数人いるから、これならそんなにすぐ身バレもしないだろうし。
会話は猫の取り換えっこの店の話になって、検証勢から鍵言葉の情報が出たから行ってみた経験者が、どんな店なのかを語って。
そこから、『ここだけの話……』みたいな感じで、とっておきの話をするような流れになった。
「……そんな風に、ずーっと外にある水盆が月の光をチャージしてるような感じになってきたの。まだ特に何か起きたわけじゃないんだけど、このまま水が枯れないように気を付けて置きっぱなしにしておくつもり」
「わー、楽しそう」
「良い事聞いた」
興味深い話が続いて、ふと会話が切れた隙間。
僕はなんでもない感じにお茶のカップを持ちながら口を開く。
「知ってたらごめんだけど……エフォの職業、あるでしょ? 剣士とか、テイマーとか。その中にね……魔女ってあるんだよ」
魔女達が一斉に動揺する。
ふむ、この感じだとやっぱり他になってる人はいない感じかな?
アルネブさんは最近ピリオで難しめのクエストを頑張ってこなして魔女になったって言ってたから、やっぱり占いがネックなのかも。
僕はシーッて感じに人差し指を立てて、内緒話の空気を作る。
「この世界の魔女はね、御伽噺に出てくる良い魔女の事を指すんだって。だから色んな人達に『魔女』って認識される事が条件のひとつ」
「ひとつ……って事は、他にも?」
「死霊か星か悪魔。その3つの内のどれかを使えて、それに関わるアイテムを作る事が出来るのがふたつめ」
「……みっつめは?」
「占いが出来ること」
視界の端で、3時の魔女さんがピクッとして目が泳いだ。
ふふふ、そうだね貴女は占いができるよね。
アルネブさんが、お手製の【占術】スキル書を僕が紹介した雑貨屋さんに放り込んできたー、って楽しそうに言ってたからね。
「知ってるのはこれだけ。そしてこれは……プレゼントのお土産」
インベントリから、普通の木の籠に山盛りにした豆と鬼灯みたいな実を取り出してテーブルに置いた。
「『夢守の卵』っていうアイテムは、悪魔の……夢魔の卵なんだって。夢魔の卵は夢が足りてないと孵らない。だから、これと一緒に置いておいたら孵ると思う」
魔女志望の女性達が、興味深そうに籠の中身をしげしげと眺めた。
「お好きに持って帰っていいよ。おすそわけ」
僕の身バレの心配は……あんまりしてない。
話をしてて、根掘り葉掘りガツガツ訊いてくる感じの人はいなかったから。匿名のロマンを理解してくれると信じたい。
さてさて……ここから何人くらい新しい魔女が生まれるだろうね?
 




