ユ:練習の日々、集会の準備
さて、キーナの好きなシマエナガを獲得するために、ラリーストライクの大会で予選突破を目指す事になった。
まぁ優勝を目指すとかじゃないから、難易度は希望がある方だろう。動画を参考にしつつ、強いAIのNPCを相手に練習する事にする。
大会はイベントの中盤。
それまでは、気になるイベントの観光以外は練習に充てよう。
幸いだったのは、球はそれほど力を入れなくても打ち返せる事。
フルダイブアクションゲームの戦闘でよくある、攻撃をパリィする動作と感覚がほぼ同じだから、テニスなんかの経験が少なくてもどうにかなった。
球を『ショット』するのも銃みたいなものだ。
……そう考えると、大会は純粋にアクションゲーム慣れしてるプレイヤーが上がってくるだろうな。
大会エントリーは忘れない内にさっさと済ませた。
エントリーの時にされた説明によれば、夏のトライアスロンとは違って、ラリーストライクの大会は装備や魔法や薬での補助は適用されないらしい。
闘技場の専用コートに入ると、効果が無効になっているそうだ。
だから、純粋なステータスの俊敏で勝負するって事になる。
後は、予選でうっかり強いのと当たらないように祈るしかない。
* * *
そうして練習の日々を過ごしていたある日。
キーナがマリーと何か描きながら話し合っていた。
「何してるの?」
「魔女集会の準備だよ」
ああ、そういえば装備を買った店で招待状を貰ったって言ってたな。
「行くことにしたんだ?」
「うん。せっかくだから、いつもより魔女っぽい変装して行こうと思って」
「ほう?」
まぁ確かに、いつもの森夫婦って呼ばれる変装は民族系だからな。ハロウィンとかの魔女のイメージとは少し遠い。
相棒は、黒い布や黒い糸をインベントリから出して、マリーに魔女っぽい服を作って貰うつもりらしい。
今着てるのも魔女っぽいが、それは招待状をくれたハニーカプチーノさんが作った服だからな。顔を隠した程度だと変装にはならないか。
「オリジナルの魔女衣装を着て〜……で、コレよ」
そう言いながら、キーナは首飾りの籠に入れたネモを見せてくる。
「ネモ」
相棒が呼びかけると、その意を汲んだネモがケタケタと笑いながら相棒の肌を覆い隠して……魔女服だけが浮かぶ透明人間みたいになってしまった。
「おおー」
「相棒の光学迷彩マント見てさ、ネモなら出来るかなーと思ってやってみたら出来たの。MPは使うけど」
そうだな、マントはMP消費無しだから実に助かる。魔道具だから、たまに【光魔法】のチャージは必要だが。
「その透明人間スタイルで行くのか」
「そう! 手首とか足首とかが出る感じの服にして、透明人間なのよ〜ってわかる状態にしたいなって」
マリーがうんうんと頷きながら紙にペンを走らせている。
マリーは秋イベントのパレードの準備は、張り切って早々に終わらせていた。だから相棒の服を作るのは何の問題も無いんだろう。
「なるほど……いいんじゃない?」
「ふふふー、参加者がビックリしたら僕の勝ち」
何の勝負だ?
「あ、そうだ。それでねー、参加してみて大丈夫そうだなーって思ったら、魔女職の事とか知らなそうならこっそり教えたいなーって思うんだけど、いい?」
「好きにしなー」
その辺は、俺は特にこだわりは無いからな。
「ま、身バレ?しないようにだけ気を付けて」
「うむ、それはもちろん」
マリーとキーナが一緒にあれこれ言いながら描き込んでいる紙を覗き込む。
黒いワンピースは首まで覆っていて、肩の布が無い形をしていた。それでいて、袖は布が多くヒラヒラしている。
「オープンショルダー……だったかな? 肩の出るワンピースにしてー、付け袖をヒラヒラにして、黒い手袋を着ける感じ」
……うん、コーヒー屋の呪文かな? 服の事は俺にはわからない。
「レースとかいっぱい着けても良いですか?」
「いいよー」
「じゃあこう……こんな感じに……」
「おおー! カワイイー!」
「三角帽子にもレースをたくさんつけたいです」
「カワイイけど、作業量大丈夫?」
「編むのは得意です。手も足りてます」
「まぁそうだね」
そうだな、背中に蜘蛛の手がワキワキしてるもんな。
紙の中のイメージ図は、レースが細かく描き込まれて、どんどんドレスのような魔女衣装になっていった。
「ヤバい、すーごいカワイイ! ……コレ僕が着るのかー……似合うかな?」
「大丈夫です」
「大丈夫大丈夫」
「そお? 普段レースのついた服とか着ないから、あんまり自信無いけども……」
「相棒は何着ても可愛いよ」
「好き」
それでもキーナは自信が無いのか、「まぁ……透明人間になるからいいか」なんて呟いていた。
……よし、絶対に着た所をスクショに撮ろう。




