キ:出店で遊ぼう
挨拶が終わると広場のプレイヤー達が動き始めたから、僕らはしばらく防壁の上でそのまま待つ事にした。
「蟻の行列みたいだねぇ」
「人間が多すぎる」
聖女様目当てのプレイヤーがかなりいたっぽくて、待っているとさっきよりはかなり広場と通りの人が減った。
これなら軽く出店を見て回れるかな。
「まぁ少しなら」
相棒のオッケーも出たから、塔を降りて通りに戻る。
おおー、左右に出店がずらり。
食べ物系の出店に鉄板が多いのは、やっぱり外で使いやすいからなのかな?
のんびり歩いて、僕らはさっき気になっていた店を見つけた。
「あ、ここだ『フランゴ焼き』」
「おおー」
フランゴ焼きは、人形焼き……というか、たい焼きの亜種?みたいな感じの物だった。
ちょっと大きめなデフォルメフランゴ君の生地の中に、粘度の高そうなジャムとかカスタードクリームが詰まっている。
金型、わざわざ作ったのかな……?
凶悪な使徒のはずなんだけど、デフォルメしてるから割とカワイイ見た目になっていて、不機嫌そうな顔をしている頭から冒険者達にガブリと齧られていた。
「……本人が見たらキレ散らかしそう」
「それな」
まぁせっかくだから、ひとつずつ買ってみよう。
「僕はイチゴジャムにしよ。相棒は?」
「んー……カスタードクリームで」
イイ笑顔のおっちゃんから注文したフランゴ焼きを受け取って、歩きながら齧る。
「普通に美味しい」
「うん……たい焼きとかパンケーキ系だな」
お互いのをひと口ずつあーんして味見。
うん、カスタードクリームも美味しいね。
「その内さ、『フランゴクジ』とか『フランゴすくい』とかも出そうじゃない?」
「フランゴの扱い」
でもこの予感はたぶん間違ってないと思うんだ。
通りすがったくじ引きの屋台に、でっかいデフォルメフランゴ君のぬいぐるみが景品として置いてあったから。
「フランゴ焼きと同じデフォルメじゃん」
「誰かデフォルメフランゴを流行らせようとしてる絵描きがいるな?」
なんて話しながらくじ引きをやってみたら、僕は絵本を引いた。
その表紙にはドドンとデフォルメフランゴ君の姿が!
「えー、タイトルは……『滅ぼせないフランゴ君』」
「滅ぼせない」
脇に避けて軽くページをめくると……悪巧みに使う大事な結晶を持ち去られたり、海の上で足場から落ちかけてジタバタするフランゴ君が描かれていた。
「フランゴ君せつないっ!」
「悲しいね」
そしてこれ、どっちも原因が僕だね???
だって敵なんだもん……しょうがないじゃんすか。
そしてフランゴ焼きとかぬいぐるみの元は間違いなくこの絵本だなーと思って、背表紙を確認してみた。
作者名『ロワゾ・ブルー』……
「あ……これ、屋台本屋さんの名前だ。買った絵本の作者と一緒だもん」
「マジかよ」
フランゴ君ブームの火付け役はあの青い鳥のおっちゃんかぁ〜。
……使徒のフランゴ本人に、バレないといいね?
* * *
かわいい『ウサボール飴』を舐めながら、僕はもうひとつ気になっていた出店をやっと見つけた。
「あったあった。『ゴロロックジ』」
「これか」
露店には、底の浅い木箱の中にゴロロックの形をした握りこぶしくらいの大きさをした石の人形がズラッと並んでいる。1回500リリー。
……どのへんがクジなんだろ?
小さな金床を前に座ってるドワーフの店主さんに聞いてみた。
「いらっしゃい」
「これどんなクジですか?」
「【石魔法】で作ったゴロロックの中にちょっと良いものが入ってるクジだよ。選んだらここで割って、中身をプレゼント」
「へぇ~」
ゲーム内の出店は、プレイヤーがアイデアでオリジナリティを出そうとしてるから面白いねぇ。
せっかくだからおひとつ買ってみる。
「じゃあ……このゴロロックでお願いします」
「はいよ。ちょっと待ってな」
ドワーフさんは金床の上にゴロロック人形を置いて……
「ふんっ!!」
力強く、なんのためらいもなく金槌で殴り、バギャッ!っとゴロロックを叩き割った。
なんて豪快な。
……遠くから『キョェエーッ!? 岩ちゃーん!?』って聞き覚えのある声が聞こえた気がした。気のせいかな?
「はいよ」
「わー」
中から出てきたのは……ビー玉サイズのルビーの原石だった。
「お、そこそこの当たり枠だな。運がいいな」
「わー、やったー!」
「へぇ……他にはどんなのあるんですか?」
「色々入れたからなぁ……宝石の原石の他は小せぇ魔石とか、ハズレ枠だとしょーもないドロップ品とかな」
「なるほど」
試しに相棒もひとつ買った。
バギャッ!
豪快にゴロロックが割られる。
「はいよ、『甲虫の麻痺牙』。しょーもないドロップ枠な」
「……どーも」
今日は僕の方がクジ運よかったみたいだねぇ。




