ユ:溜まり場危機一髪
さて、石板の交換ラインナップも見たし、そろそろ俺達はどうするか決めないとな。
「石板どうしよっか?」
「任せる」
俺は割とどっちでもいい。
キーナが楽しみたいなら自分で集めてもいいし。交換するなら、俺達がそれなりの数を集める頃には交換アイテムの使い勝手なんかがもっとスレなりwikiなりに出てくるだろうから、それを参考に欲しいものを決めるし。
そう言えば、キーナは「ん〜」と少し考えて口を開いた。
「預けちゃっていいかなー。自分で揃えて石板出来上がったところで、翻訳出来る気がしないしね」
「それな」
せっかく来た事だし、プレイヤーが買い取れる重複した石板とやらも見せてもらった。
「うわ、本当に同じ形が何個かある」
「書いてあるモノも同じだな」
「え、怖い怖い。同じ石板叩き割ってもまったく同じ割れ方なんてしないじゃん、何これ怖い」
それな。
研究者NPCもプレイヤー達もそこは同意見だったらしく、うんうんと頷いて同意した。
「そうなんだよな」
「それがこの石板の奇妙で興味深いところじゃ」
「深く考えると本当謎」
ゲームだからって言えばそれまでなんだが。それにしてはNPCも同意するのか……なんなんだろうな?
まぁ気になるけど深く考えてもまだ答えは出ない。
俺達は謎の石板を研究者NPCに渡した。
──クエスト『謎の石板集め』をクリアしました。
あ、これ毎回クリア扱いになるのか。
自分で集める場合はずっと残るクエストって感じなんだろうな。
研究者NPCは俺達が渡した石板をじっくり色んな角度から眺めると、何度か頷いて他の石板との嚙み合うかどうか確認しはじめた。
「お、御隠居のそのムーヴ。新しい形だった?」
「うむ。材質的にはこのあたりと……おお、こいつか」
既存の石板の一つとピッタリ噛み合ったらしい。
そのままテーブルに置かれた石板を、その場の全員で覗き込む。
「ヒトの絵?」
「棒人間一歩手前だけどヒトっぽいな」
「少なくともヒト型の知的生命体が存在する世界の物であることはこれでハッキリした」
石板に描かれていたのは、簡略化されたヒトっぽいもの。
とはいえ、二枚組み合わせてやっと人の形になっているから、それ以外の所は何もわからない。
「なぁに、物が揃えばおのずと見えてくる。予備もあるから失われとる心配も無い。気楽なもんじゃ」
「よく言うよ。『儂が死ぬ前に全部集めてこい!』って散々急かすくせに」
「インドアなオレとか爺様よりはピッグの方が向いてるのは間違いない」
「そういう事じゃ。わかったら早く集めてこい」
「ひでぇ」
ワハハ、ハハハと和やかなやりとり。
相当ここに入り浸ってるのがわかる。
……それを裏付けるように、勢いよく駆け込んでくる誰かの物音。
流れるように執事が開けた扉から、これもやっぱりダンジョン召喚の時に見たような気がするプレイヤーが飛び込んできた。
「オイスター! リンゴ手に入った!!」
「「なにぃいい!?」」
「それはいつもの知恵の林檎とやらか」
喉から変な声が出そうになるのをなんとか飲み込む。
「あ、御隠居どーも。そうその知恵の林檎! 買ったくせにインベントリに入れて忘れてた奴がいて、そいつから売ってもらった!」
「でかした」
「なんだ、森夫婦の露店が出てたわけじゃないのかー」
((気まずい))
当の本人がここにいるんだよなー。
相棒も顔に出るのを防ぐためか『周りの棚に興味があります』みたいな感じで壁の方を向いてうろうろし始めた。
「思ったんだけどさ。リンゴもトマトも、入植先の環境に合わせて変質してるっぽいじゃん? 他の野菜ってどんなんなってるんだろうね?」
「それ! それ気になってた!」
「他にもヤバイものありそうだよな。MPを共有するとかいうヤバイポーションの材料の事もあるし」
「割とお願いしたら種とかも売ってくれそうな気はするけどね」
「結局リンゴがこっちで育たなかったから、種があってもどうにもならんと思われ」
「どこにいるのかなー」
((気まずい!))
当の本人がここにいるんだよなー!
この状況もしかして結構まずいか?
俺は腰に矢筒あるから弓手だってのはすぐわかるし。相棒に至っては杖こそしまってるが、どう見ても魔法職だ。
「あの夫婦がどういうルーチンでピリオに出て来てるのか知りたい」
「あー、さっぱりわからんよね」
「イベントにはなんだかんだ参加してるけど。イベント最前線で戦えるくらいのレベル上げしてる所は見た事ないし」
「あ、でも論丼は草系オープンダンジョンで偶然会ったって言ってなかった?」
「言ってたな。ってことはマイナーダンジョン選んで潜ってるのかね」
「まーフリマと同じで、あの服脱いじゃえばわかんないから。案外普段はそこらへんにいるのかもしれないけど」
(ダメだ撤退!)
(イエッサー!)
もしかしなくてもここは検証勢の溜まり場だ!
これ以上ここにいたらボロが出る!
「じゃあ石板見つけたらまた来ますー」
「……お邪魔しました」
「そうか。見つけたらまた来るといい」
「あ、ごめんねこっち勝手に盛り上がっちゃって。気軽に来て大丈夫な場所だから」
「騒がしくして悪いな」
「あ、石板ご新規いたんだ!? サーセンした!」
和やかに手を振って、部屋を出る。
執事に案内されて屋敷から出て。
平静を装いながら転移広場に移動、そこから拠点に帰って……
……そして俺達は「ぶはーっ!」と息を大きく吐きながら崩れ落ちた。
「……しばらくあそこ行くのやめようね」
「行かねーよ……」




