キ:石板大好き研究者系NPCと、弟子入りプレイヤー
僕らが石板オジサンの研究所に入って最初に目に入ったのは、広いホールにズラーッと並んだ大量の剥製だった。
「わぁ〜……壮観」
「すげぇな」
熊とか鹿とかウサギとか、大きな蛇とかフクロウなんかも。……あ、ウサボールの剥製が群れになってる。
執事さんの後に続いて廊下に踏み込むと、くねくねした枝が壁に固定されてて、その上に小動物の剥製が飾ってあった。
絨毯も燭台も綺麗なんだけど、剥製の自己主張がすごくて全然目に入ってこないや。
そうして案内されたのは、廊下に入ってすぐ近くの部屋。
広い部屋の壁は全面が棚になっていて、本とか器具とか瓶とかがビッシリ並んでる。
そして部屋の中央にはものすごく大きなテーブルがあって、その上に石板が大量に載せられていた。
部屋の主は、そのテーブルの向こう側。
立派な革張りの椅子に腰掛けて、真剣な顔で石板を眺めているお爺ちゃん。この人がハークレンズ伯爵家の先代当主さん。
そしてもう一人、ポケットまみれのベストを着てポーチがたくさん並んだベルトを何本もあちこちに巻いている男性がひとり。猫足のスツールに座って本を読んでいる。
こっちの人は見たことある。
ダンジョン召喚の時、抜け毛千本ノックさんと一緒にいた検証勢の1人だ。
僕らと一緒に入ってきた旅人っぽい人が、その二人を見てフレンドリーに片手を上げた。
「御隠居ー、オイスター、おひさー」
その声に2人が顔を上げる。
「ロードオブザピッグか……どれ、石板は何枚持ってきた?」
「開口一番石板なのブレないね御隠居は。で、G・オイスター君はまーだ懲りずに押しかけ弟子志望してるん?」
「甘いな、もう弟子になって部屋貰った」
「マジで!?」
「そやつとうとうここで寝泊まりし始めおったからな……空き部屋をくれてやっただけじゃ」
「御隠居根負けしてるじゃんよ」
「オレの粘り勝ち」
「やかましいわ青二才共が」
おー、この2人。名前的にプレイヤーだと思うけど、相当ここに入り浸ってる感じの気安さだね。お爺ちゃんも素っ気ない物言いだけど、楽しそうにニヤニヤしてる。
そして会話がひと段落したところで、お爺ちゃんが僕らを見た。
「で、そこの夫婦は石板か?」
「あ、はい」
「何枚持ってきた?」
「あー、初めて1枚拾ったんで……何と交換出来るのかなーと」
「ふむ、交換リストはそこじゃ、見ておけ。欲しいものに届かんくてもこっちで数を控えて預かっておいてもいい」
どれどれ……?
僕と相棒は壁に貼られたリストの前にスススッと移動する。
後ろから「夫婦だったのか」「どう見ても夫婦の空気じゃろ」とか聞こえてきたけど、気にしない。
交換品は……
1枚で睡眠バフが増える小動物の剥製。
3枚で暗視装置みたいな魔道具付きの単眼鏡。
そして5枚で……
「はい御隠居。これで5枚目!」
「……よし、良いぞ。持ってけ」
「よっしゃー! やっと貰えたぜ『ヒアピン』!」
5枚でもらえる『ヒアピン』は、綺麗な石のついた金属のピンで……地図と組み合わせて使うと、地図上の自分の現在位置がわかるアイテムなんだって。
コレ系、イベントのポイント交換にも無いなーと思ってたけど、ここにあったんだねぇ。
(僕らはベロニカがいるからあんまり困ってないけど、そのへん不便だもんね、エフォって)
(まぁあれば助かるよな)
人数の多いクランだと割とすぐ集まるらしいけど、ソロだと難しそうだねぇ。
それ以降は10枚単位で景品がランクアップしてる。
枚数多いのだと大きな望遠鏡とか天球儀なんてのもある。
(……意外とちょくちょく見つかる物なのかな?)
(かもしれない)
(僕らはあんまり見ないけども)
(……たぶん、次元違いのフィールドには無いんじゃない?)
(あー! 確かにそんな感じするかも!)
あっちでしか拾えない石板とかあったら困るもんね。
僕は石板が気になって、広いテーブルの上の石板を眺めてみた。
まだそんなに集まってはいないのかな?
何個かを組み合わせた塊がいくつか置いてあるだけで、全体の絵はまだまだ全然わからない。
「なんだ、石板が気になるか?」
「あー、まぁ少し」
「まだまだ数が足りんが……使われておる言語が我々の物と違うのは明らかじゃ。おそらくは別世界の代物。しかし、その言語も複数あるからな。割れる前の石板も複数あったと考えられる。つまりピース探しから始まるパズルは、その後に翻訳作業が待っておるわけじゃ。まったく遊びがいのあるおもちゃが見つかったもんだ。儂の頭がハッキリしとる内に数が揃えばいいが……」
あ、途中から専門家の独り言になっちゃった。
ブツブツと喋り続けるお爺ちゃんを見て、プレイヤー2名が苦笑い。
「あー、御隠居の長話始まったわ」
「運が悪いと新しい石板がこない限り数時間平気で喋り続けるから、放っておいていいぞ」
そんなに???




