ユ:夢の中の戦い
仕様を確認して、夢の中の洞窟を進み始めると、そう行かない内に敵モンスターがわらわらと出現した。
石爪土竜(虚像) Lv24
前に落下しながら見た巨鳥はレベル80超えだったから、夢によってレベルはかなり差がありそうだな。
そして虚像って事は、これが夢の登場人物って事だろう。
対して、卵が孵ったばかりのペタはレベル1。
さすがにキツいか? ……と思っていたのだが。
──もぐぁあああ!
「撃退完了。周辺の敵性存在の殲滅を確認」
「「「「おおー」」」」
……ペタはとんでもなく強かった。レベル差20程度なら余裕らしい。
というか、戦闘可能なフィールドがかなり限定されているから、その分強く設定されてるんだろうな。
夢の中にやってこない限り、夢守はただの睡眠バフ用インテリアだ。その分特化した性能なんだろう。
凶悪な石の爪をガンガンと打ち鳴らして迫ってくるモグラの攻撃を、巨大化したペタが広げて卵の殻のようになった手の平で受け止める。
そのまま振り払った尾がズアッと三又になってモグラを薙ぎ払い、深い裂傷を与えて吹き飛ばす。
ペタの体はイモリっぽい見た目こそしているが、割と変幻自在な戦い方が出来るようだ。そのへんは夢っぽい。
そして悪魔らしく容赦が無い。
剣のように長く伸びた爪で倒れたモグラを串刺しにすれば、モグラはポリゴンとなって消えていく。
「撃退完了」
「すごーい! ペタちゃんめっちゃ強い!」
「肯定。ペタちゃんは夢の中ならば強い」
表情は特に変わらなく見えるのにドヤ顔の気配。
まぁゴリゴリにレベルアップしてるから、現在進行型でさらに強くなっているのは間違いない。
ただし、今は反撃のみ命令しているから、こっちが敵を一方的に認識出来ていても、命令しない限り先手を打たない。
これがジャック達やネビュラだったら、指示が無くても有利に戦うために奇襲するんだけどな。
これも悪魔の特徴でありネックか。
とはいえ、うっかり夢主がどこかの住人NPCだった場合、巻き込みたくないからな。何でもかんでも攻撃するような命令は、俺も相棒も出したくない。
しばらくそうして進むと、洞窟の中でも広い空間に出た。
そこでドッタンバッタンと戦っていたのは、一際大きなモグラと蛇。
──もぐぅうううおおおお!!
──キシャアアアア!!
ラージ石爪土竜(夢) Lv30
ラージポイズンスネーク(虚像) Lv30
(……これって、『巣穴に蛇が入ってきてピーンチ!』って感じの悪夢をモグラの親分が見てるって感じかな?)
(たぶん?)
割とモグラ劣勢だしな。
そして頂上決戦みたいな戦いをしている二匹を、ペタが容赦無くぶちのめした。
──もぐぅうううおおおお!?
──キシャアアアア!?
……うん、ライバルっぽい蛇と戦ってたら、得体のしれないイモリに瞬殺されるのか。これは悪夢だ。
蛇もモグラもポリゴンとなって消える……すると、洞窟のフィールドが白んで消えていき、目の前にあのアーチが現れた。
「なるほど、夢の主を倒したら、お帰りはこちら」
「わかりやすい」
アーチを潜ると、目印を残したアーチから元の平原に戻って来た。
そしてアーチのヒビ割れの光は消えている。
「繋がってた夢が消えたら光も消える感じかな」
「だろうな」
ペタはアーチを潜ると、元のシルエット卵に戻っていた。
「色んな所に行けるのは面白いネ」
「しかし敵の強さが入ってみるまでわからぬと言うのハ、中々に危険デスナ」
それな。
まぁたまにやる分には有りか。
せっかくだから、今日はこのままランダムダンジョンとしていくつか楽しむ事にしよう。
* * *
そうしていくつめかのアーチを潜った時……その夢の景色は、どう見ても人工的な建物の中だった。
「おやぁ?」
「……住人NPCの夢か?」
「パターン悪夢です!」
「今のところ敵対してる住人NPCって会ったこと無いんだよなー」
どこぞのアングラな街のNPCなら敵対してる事もあるかもしれないが……
「……なんか、城っぽくない?」
「それな」
そう、今いる廊下の感じが城に似ているんだ。
ただ廊下にしてはやたら長い……それが夢特有のおかしさなのか、それとも別の建物なのかはわからない。
ペタが卵モードから戦闘モードに切り替わったのを確認して、俺達は廊下を歩き出す。
廊下の両側には等間隔に扉が並んでいた。
試しに、手近な扉をひとつノックし開いてみる。
そこには、メイド服を着た女性の後ろ姿。
「誰かいる……メイドさん?」
キーナがそう言ったのが聞こえたのか、メイドは……いや違う。振り向いたメイドは顔が無かった。
悪夢の刺客 Lv50
「わあっ!?」
「っ!」
悲鳴を上げる相棒。
咄嗟に犬笛を吹く。
掴みかかってきたメイドモドキに噛み付く猟犬型の闇魔法。
抑えた所へ、ペタがトドメを刺した。
「怖っ! 何いまの!?」
「あれは呪いが形をとったモノ」
「「呪い!?」」
相棒の動揺を質問と受け取ったペタが、聞き捨てならない単語を出した。
「呪いって……ここの夢主さん呪われてるの?」
「肯定。何者かに悪夢を見る呪いを受けている」
「マジか」
「なるほど、どうりで目覚めると何も覚えていないわけだ」
ため息混じりに聞こえた、聞き覚えのある声。
振り返ると、若干顔色の悪い魔術師団長が、壁に寄りかかるようにして立っていた。




