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ユ:卵の中は


「……というわけで、買ってきた卵がこちらです」

「うん、卵だな」


 またよくわからん物を買ってきたキーナから卵を受け取る。

 ……うん、卵だな。



夢守(ムモリ)の卵】

夢守(ムモリ)の卵。

枕元に置いておくと睡眠バフに微量のボーナスが入る。



夢守(ムモリ)の卵」

「そう、夢守の卵」

「説明は確かにフレーバーテキストっぽいのが無いな、食用とも書いてない……」


 普通の従魔の卵も、他のアイテムみたいなフレーバーテキスト的な物が無いらしい。

 素材としても使えないから従魔の卵なんだろうって検証勢には判断されている、と店の人は言っていたとか。


「一部のNPCの枕元に出現するって言ってたけど、どんな条件なのかとか訊いた?」

「あ、訊いてない」


 まぁ検証勢が調べたならスレに情報あるか?

 検索をかける……


「……あー、あったわ」

「お、どんなー?」

「……マジかよ」

「え?」

「『蜘蛛糸編みの夢守りを渡したNPC』だって」

「……マジで?」


 俺達が売ったドリームキャッチャーをNPCにプレゼントしたプレイヤーがいて、そのNPC達の枕元に卵が出現している……可能性が高い、らしい。


「ドリームキャッチャーって枕元に飾るよね?」

「まぁ、そのへんだな」

「……じゃあドリームキャッチャーから出てきてるのでは?」

「かもしれない」


 妙な所で俺達に繋がってきたな謎の卵。


「……つまりさ、夢の多い所が快適な生息地なのでは?」

「この前のアーチの豆みたいな?」

「そうそれ!」


 そう言うと相棒は、インベントリをガサゴソと漁ってゴロゴロと大量の豆の莢を取り出した。



【ユメツツミ豆】…品質★★

夢を吸い上げて育った豆。

豆の形は夢によって変わる。



 そしてその豆を、小さな籠にギュウギュウに詰めて、その上に例の卵を乗せる。


「つまりこういう事では!?」

「……なんか光りだしたけど?」


 言ってるそばから進化っぽく光の輪に包まれ始める卵。


「大正解キター!?」

「展開が早い」


 ベロニカがリンゴを食べた時のように、すぐに光はおさまる。


 そしてそこには……


「……卵のままだ」


 ぼんやりと淡く光っているような卵があった。

 大きさは変わらないが、謎模様はそのままに色は白くなった。

 そして……その中に、何かウロウロと動いている黒い影が見えた。


 細長い体と尾、指を大きく開いた手足で、卵の殻に内側から貼り付いているかのようなそのシルエットは……


「……トカゲ?」

「ヤモリかイモリっぽいな」

「……あ、夢守(ムモリ)ってそういう?」


 井戸の井守(イモリ)、夢の夢守(ムモリ)

 なるほど?


 そして卵から出てきていないが、やっぱりあれは孵化だったらしい。きちんと他の生き物と同じように、名前とレベルが見えるようになっていた。



 夢守(ムモリ) Lv1



「……卵のままだけど、孵っては、いる?」

「……たぶん? 状態異常表記も無いし、これが常態って事だとは思う」


 だがシルエットでしか見えない姿は、こっちの声かけに反応している感じはしない。


「テイムしてないからかなぁ?」

「そもそもどうやってテイムする?」

「それなー……てか、テイム出来るのかなコレ?」

「さぁ……?」


 とりあえず、思い付くことを全部試してみる。


 声をかけながらつつく。

 紙に書いて見せる。

 ネビュラ(精霊)やフッシー(オバケ)やベロニカ(動物)に声をかけてもらう。

 トマト結晶アクセサリーを使う。

 手に持って念じる。

 ……等々。


 そして、集合知でもある霊蝶に訊いてみた時にようやくとっかかりを得られた。


『夢の殻』

『夢魔』

『夢魔だ』


 ……夢魔?


『夢魔、は、夢に棲む、モノ』

『寝て』

『眠って』

『夢の、中』

『いるから』


「……つまり、起きてると会えない子って事かな?」

「っぽいな」


 そういう事なら……寝室に戻って、枕元に夢守を置き、二人でベッドにもぐり込む。


「……どうなるかな?」

「さぁ? そもそも二人一緒に会えるのかもわからな……」


「「あっ!」」


 そうだ忘れてた。

 ちょうどいいものが俺達にはあった。



【夢会い草】…品質★★

ひとつの葉を複数人で分けて齧ると同じ夢で会える。



 説明通り、ひとつの葉を二人で分けて齧った。


「……食べちゃっていいんだよね?」

「くわえたまま寝たら口から落ちそうだし、いいんじゃない?」


 味は小松菜っぽいな……マヨネーズとか欲しい。


 夢会い草を食べ終えたらゲーム内睡眠の準備をする。

 システムでゲーム内3時間、つまりリアル1時間のタイマーをセット。


「んじゃ、おやすみ」

「おやすみ」


 手をつないで、目を閉じる。


 フルダイブVR内睡眠特有の浮遊感。

 体がビクッとならないまま……後頭部の方から落ちていくような感覚がして──



 ──そして俺達は、同じ寝室だが白黒が反転したような空間のベッドの中で目を開けた。



 相棒と目が合う。

 手も繋いだままだ。


「おはよう?」

「おはよう……?」


 ゆっくり体を起こして、部屋の中の様子を窺う。

 部屋の色の明るさが反転しているからか、違う部屋のような印象を受けるが……家具の配置も何もかも全部、俺達の拠点の寝室だ。


「……服はそのままかな?」

「だな。……スレで見た『夢の牢獄坑道』と同じだ。インベントリと、システムのフレンド機能とかスレなんかも使えない」

「おー……システムの時計機能は動いてるっぽい?」

「たぶん? さっき寝た直後だから……まぁ睡眠と似たような導入をしつつ夢フィールドに入った感じか……」


 俺達は、地味に夢に入るの初めてなんだよな。

『夢の牢獄坑道』も、この前のアーチも、陸続きで行けるからわざわざ眠る必要が無かった。


「……あれ?」

「どうした?」

「夢守の卵が無い」


 キーナの言葉に、枕元を見る。

 確かに眠る前に置いた、影が浮かぶ卵が無くなっていた。



 ……そして、視界の端をスルスルと動いたシルエット。



「ひぅっ!?」

「シーッ」


 驚きで声が裏返る相棒の口をそっと押さえる。


 部屋の中、寝室の壁を歩き回るイモリのような影。

 それは、この部屋があの卵の中に入ったならこのくらいになるだろうってくらいの大きさになっている。



 ……テイム前の夢守が、天井から、俺達二人を見下ろしていた。


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― 新着の感想 ―
ふと思ったけど【夢守の卵】って【ユメツツミ豆】で即座に孵化させなくても夢の多い場所、つまり生き物の多い場所に置いとけば割と早く孵化するのでは?家畜小屋とか。
相対的にデカそう(小並感)
 いやぁ凄い。ドリームキャッチャーから始まって森夫婦しかできないことの連続 これ、どこまで情報公開するんだろ。
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