ユ:ショッピングの裏側から
(ヤバイよ最高に好みの装備買っちゃったよ! こんな趣味に合うコルセットスカートに出会えると思わなかった。しかもMPマシマシになるとかガチの魔法職向け装備だよ、もうこれは運命では??って思ってさ、もう躊躇いなく買っちゃったよね!)
(良かったね)
怒涛の勢いで飛んでくるキーナの念話。
買い物にはしゃいでいるのが実にわかりやすい。楽しそうでなによりだ。
俺は相棒の買い物報告を聞きながら、ネビュラの毛並みにブラシをかけている。
ああ〜……モフモフは良い。
このイヌ科の硬めの毛が癒されるんだ……
(なんか野菜とかも秋っぽくなってるよー、カボチャとかキノコとか増えてる、あと栗とかドングリ)
(へぇー)
(……ドングリカワイイなぁ、ちょっと買っちゃおうかなぁ)
ドングリ何に使う気なんだ……いやたぶんイイ感じの棒と同じで貯め込むだけなんだとは思うけど。リスかな?
(シイタケさん発見。キツネの毛皮預けるねー)
(うん、よろしく)
俺の用事は無事に済ませてくれたようだ。助かる。
……ん? どうしたクロ?
猫幻獣のクロが、のっそりと俺の近くにやってきて……ズイッと俺とネビュラの間に割り込んできた。
……自分にもブラシをかけろ、と?
ネビュラは『これだから猫幻獣は……』とでも言いたげな顔をしていた。
まぁ……猫だからな。
俺は苦笑いしながらネビュラを見て『構わん』って感じの頷きを確認してからクロにもブラシをかける。
額の結晶を避けながら毛を撫でつけると、クロは実に気持ちよさそうに目を細めて欠伸をした。
……猫だなぁ。
(相棒。前に弓とボウガン買った店の人が、そろそろ買い替えどうですかー? ってさ)
(あー)
……確かに、武器もそろそろ買い替え時か。結構長く使ってるもんな。
頃合いを見て買いに行くか。
(プレイヤーの居住区画に店舗構えたんだって。地図貰ったから、後で渡すね)
(了解)
店持ちになったのか……弓人口少ないのによく稼いだな?
イベントのポイントで頑張ったんだろうか……
結局キーナが【光魔法】を覚えたから、魔道具のチャージも困ってなくて顔出してなかったな。
(相棒ー、美味しそうな牛乳売ってるから買っていいー? そこそこ大きな瓶に入ってるんだけど)
(……別にいいけど、飲みきれる?)
(まぁ皆も飲むかもしれないし。あとシチュー食べたいなーって)
(なるほど?)
シチューか……確かに暑い時期も過ぎたし、そろそろいいかもな。玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモは全部ゲームにあるし……なんなら肉でも魚でも今なら選べるし。
(いいよ、近々作ろう)
(やったぜ愛してる!)
牛乳……精霊と幻獣は普通の動物じゃないし、料理も食べるから牛乳もいけるか?
「ネビュラってミルクとかは飲む?」
「……余は仔狼ではないぞ」
「精霊って子供時代とかあるのか?」
「……無いが?」
「……飲んでみる?」
「……美味なのか?」
「好みによるかな」
「むぅ……」
何故か悩み始めるネビュラ。別にミルクは子供しか飲んじゃいけないモノじゃないんだぞ?
そして対極的に『飲ませろ』って感じに「ニャア〜」と鳴くクロ。
ううん、この2者は本当に反応が極端だ。
(共有インベントリに入れたー、飲んでてもいいよー)
(はいよ)
どれどれ……
共有インベントリから大瓶を取り出す。
……結構デカイな。液体だから重さもかなりだ。相棒、持てる重量ギリギリだったんじゃないか?
大きくて透明の瓶には大量の牛乳がタプンと揺れていて目が合った。
……………………目が合った?
牛乳に、つぶらな瞳が2つ。
パチパチとまばたきをしている。
「……は?」
おいちょっと待て……
瓶の蓋を開けて、大瓶をそっと傾けると……中の液体が弾力を持ってぶるんと瓶から転がり出てきた。
白い液体はプルプルと表面張力が強そうな身体を震わせて……小さな耳と角っぽい突起がニュッと上の方に生えた。
モーモースライム Lv1
「えぇ……」
「モォオオ〜」
「……鳴き声も牛だな……?」
……うん、とりあえず、まただ。
なんだこの引きの良さ……いや、引きが悪いのか?
どうしてピンポイントでこういうのを買うのか……なんか笑いがこみ上げてきた。
(どう? 美味しい?)
(とりあえず城に行って通報しなー)
(えっ?)
(これ牛乳じゃない。牛っぽいスライムだった。詐欺だよ)
(……えぇええぇえええ!? またー!?)
(まただよ)
残念、美味しい牛乳はまた今度だ。
悲しいね。




