ユ:混ざっている話と、秋イベントの予約
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マッスラゴラ襲撃イベントが終わって、各所に微妙な爪痕が残っている中、俺はイベント中に遭遇した黒マントの情報を探していた。
「……駄目だ、何もわからん」
スレと有志wiki、どっちも探してはみたがそれらしい情報は見当たらない。
たまたまカオスな状況に惹かれて出てきたNPCなら、偶然会ったっていう可能性も無い事は無いが……
「……なんて言ってたっけか……『イイ混ざり具合』、だっけ?」
ネビュラとの【同化】の事を言ってるのかとも思ったが……精霊との契約が広まってからそれなりに経った。もう出来るようになったプレイヤーはそれなりにいるはずだ。
検索してみる……うん、精霊に関するスレにそういう話題は出ているし、有志wikiにもまとめられている。
俺以外にもいるのに、わざわざ俺が言われた理由はなんだ?
たまたまピリオノート内で戦っていたプレイヤーの中では、精霊と同化するのは俺しかいなかった?
いやまさか。
ピリオノートは広い。
街中に散っていたプレイヤーはそれなりの数がいた。
その中で、精霊と同化可能なプレイヤーが俺だけなんてことは……まぁ、無くは無いかもしれないが。なんかスッキリしないな。
真紀奈が帰宅してからそんな考えを話してみると、思いがけない答えが返ってきた。
「え、混ざってるってアレのことじゃないの?」
「どれ?」
「アレアレ……えーっと、動物とお話できるやつ」
「……【ワイルド・ファクター】?」
「そうそれ!」
あったなそんなの。
もう動物と話せるのがデフォになってて忘れてた。
「あれって、なんか野生の細胞みたいなのが体内に宿ったのかなーって思ってたから」
「あー……まぁ『ファクター』だし……?」
「でも精霊との同化の事も可能性はあるよね。……両方だったりして」
「なるほど?」
ありえなくはないか。
この【ワイルド・ファクター】とやらも、スレやwikiで情報が出てこない物のひとつだ。
あの黒鳥幻獣に、アイテムじゃなくスキルでって限定して動物会話を所望し、なおかつその時点でそれなりのプラス因果が蓄積している必要があるスキル。
……そう考えると、結構なレア物を引いてたな?
それと精霊との同化を両方持っている……ってなったら、確かに俺だけでもおかしくはないのか。
「……坩堝か?」
「あー、そんな感じ」
* * *
予測が立ってスッキリしてログイン。
諸々済ませて拠点の庭に出る……と、そこにはベロニカと、もう1羽カラスがいた。
「カァ!」
「城から手紙よ」
なんだ?
受け取って確認。
差出人は魔術師団長……宛先は……
「相棒宛てだ」
「むえ?」
書簡を渡すと、キーナは開いて読み始めた。
「……んーとね、秋の収穫祭でカボチャ頭とかオバケとかのパレードがあるから、そこにうちのオバケ達に参加してほしいっていう依頼」
「ほう?」
届いた書簡によれば、リアルで言うところのハロウィンイベントは、このゲーム内の世界観では収穫祭の一環らしい。
「昔々、良い魔女さんが死んだ人を想って泣き暮らす人々のために、甘いお菓子を用意してオバケを呼んでくれたのが始まりなんだって」
それが今は、大切な故人が会いに来てくれるから、甘いお菓子を用意して歓迎しようという季節の催しになっている。
そのオバケをあの世から案内してきてくれるのが、カボチャをくりぬいて作ったランタンを頭に持つ魔女のしもべ、というのがゲーム内での設定だ。
「『当然知っているだろうが』って言いながら全部書いてくれてるの親切」
「わかりやすい説明NPCムーブだ」
そんなわけで、【死霊魔法】持ちでオバケを所持しているプレイヤーに声をかけているらしい。
当日俺達にリアル用事があってログインしなかったとしても、オバケ達は勝手に参加してクエストはクリア判定になるようだ。
城からの依頼にはなってるが……実質、運営からの限定クエストみたいなものだな。
「いいねぇ、みんなに訊いてみよう」
「まぁNPCは断らないと思うけどな」
書簡を持って、オバケ達に声をかけて回る。
「おおー、ヒトの子の催しか! よいぞよいぞ、我興味津々ぞ!」
「面白そうじゃな、構わんぞ」
「行く!」「楽しそう!」「絶対行く!」
「まぁ構わねぇよ」
籠の中でダラダラしていた面子は快諾。
ジャックとデューは、門の外でアクロバティックな組手をしていた所に声をかけて話をして、テンションが爆上がりした。
「楽しソウ〜!! 行きタァ〜イ!!」
「兄上が一緒ならば是非ニ」
そしてマリーは……
「……兄様達やお爺様達に、当日の飾り等作成してもよろしいですか?」
「いいよー」
「では是非!」
なんか違う方向に気合いを入れていた。
「全員オッケーだね」
「意欲の高いオバケだ」
手紙にオバケ全員参加の旨を書いて、飲み食いして待っていたカラスに渡す。
「どんなパレードなんだろ、楽しみだねぇ」
秋イベントの楽しみがひとつ増えたな。




