キ:ドーピングと戦ってみた
「……なんか、マッスラゴラやけに強くなかった?」
「やっぱり? 強いよな?」
ピリオ周辺を散歩して、お誂え向きにマッスラゴラが一体だけ飛び出してきたから、僕らは相手をしてみた。
……倒せなくはない。
倒せなくはないんだけど、なんか妙に強い!
具体的に言うと回避が上手すぎる。
マッスラゴラ Lv10
ご覧ください、レベルはたったの10なんですよ。僕らとはそれなりのレベル差があるから、瞬殺でもおかしくなかったのに……
なのに倒すのにそこそこかかった。
こっちの攻撃をひたすら避ける避ける避ける。
マッチョな身体をスタイリッシュに動かしてこっちの攻撃を避けまくる。
そしてグワッと突進して肉薄してくるから心臓に悪い。
「動きが速くて普通に怖かった……」
「たぶんステが俊敏に極振りしてるな。あと普通にAIが優秀。見つけたら即範囲魔法で相手した方がいいかもしれない」
「イエッサー」
さっき相手したやつも、範囲魔法撃ったらあっさり倒れた。
だから魔力も高くない。
振り回してる葉っぱも、ぺしゃんぺしゃんって気の抜ける音がするだけだから、たぶん当たってもダメージにはならないんじゃないかな?
……まぁ、当たったら間違いなくアバターチェンジで精神的なダメージ貰って戦闘続行は不可能になる気しかしませんけどね!!
イヤだ……僕は逆三角形マッチョにはなりたくない……
「相棒……僕が逆三角形マッチョになっても嫌いにならないでね……」
「なるわけない」
「好き」
相棒は苦笑いしてるけど……僕にとっちゃあ大事だよ?
たかがアバターと言うなかれ。
キャラデザが好みじゃないって理由でやる気がいまいち起きないゲームがどれだけあると思っているのだね。
それくらいゲームのキャラデザは大事なんだ……相棒には逆三角形マッチョになった僕なんて見られたくない……
「大丈夫、逆三角形マッチョになっても好きだよ」
「愛してる」
「なんなら三角形でもいい」
「スナック菓子!?」
さすが相棒だぜ。
そんな感じでマッチョアバターに怯えていると……服を着た小さなマッスラゴラが、バタバタと慌ててピリオの方へ走っていった。
「……小人かな?」
「っぽいな。サイズは変わらないのか」
なんて言っていたら、今度は空を、小さくて羽が生えててお花みたいな服を着たマッスラゴラが、ピルル〜ッと飛んで行った。
「……フェアリーかな?」
「羽はそのままなのか……」
「え、じゃあ人魚ってどうなるのかな?」
「……上半身がマッチョな大根で、下半身が魚?」
「とんだキメラじゃんすか。それはちょっと気になる」
「まぁ……そのうち誰かが動画サイトに投稿するだろ」
と、そんな話をしていると、また一体葉っぱを振り回しながら勢いよくやってくるマッスラゴラ。
『とぅっ!』て感じで窓ガラスぶち割りそうなポーズでジャンプして藪を跳び越えるのなんなんだろう。
ちょっと吹き出しそうになるんだよね。
広範囲の【風魔法】で回避の余地を無くして、スパッと撃退。
森とか草原だと【火魔法】は危ないし、水・氷・土・草・木の属性はマッスラゴラ相手だと利きがいまいち。
僕の【風魔法】は全然レベル高くないけど、魔力とMPでのゴリ押しでなんとかなるのだ。
相棒はそもそも射撃の補助でずーっと使ってた【風魔法】はレベルがかなり高くなってるから問題無い……と思っていたら
「ちょっと次、試してみてもいい?」
「いいよー」
何か試したいことがあるらしい。
僕は頷いて見守る姿勢。
「何するの?」
「ドーピングされてるっていうなら、デバフに弱いんじゃないかと思って。具体的には、薬効の無効化」
なるほど?
そういえば【闇魔法】はデバフ系が得意な属性だったねぇ。
相棒の【感知】でマッスラゴラを一体捕捉。
飛び出してきた純白のマッチョに向けて、相棒が投網みたいに【闇魔法】を被せた。
でろんと闇を浴びて、ジタバタするマッスラゴラ。
その姿が……なんということでしょう!?
徐々に萎んでいくではありませんか!?
「筋肉が!? 筋肉が退化してる!?」
「脂肪にならないの羨ましいな……」
マンドラゴラの脂肪、とは???
……いやそんなこと言ったら、そもそもマンドラゴラの筋肉とは???
僕がよくわからない思考の渦にハマっている間に……マッスラゴラはどんどん縮んでいき……そして
ポンッ!
マンドラゴラ Lv5
そこには、キョトンとした顔で立ち尽くすカワイイマンドラゴラちゃんの姿が!!
「「戻ったー!?」」
マンドラゴラちゃんは、自分の両手をキョロキョロと見て……キャッて照れたみたいに小さな手で顔を隠してザクザクと地面に潜り込んで半身浴の構えになった。
「……本当に肥料でドーピングされてただけだったんだね」
「弱体化して動きが遅くなればと思ったのに、まさか元に戻るとは思わなかった」
「でもこれは使えるのでは?」
問題は、僕らにそんなインフルエンサー力が無いことだけど。
掲示板に書き込む?
イヤです。
……悩んだ末、とりあえずカステラソムリエさんとグレッグさんにメッセージで情報を投げておいた。
そしたらあちこちの【闇魔法】持ちが似たような事考えてて、検証してる真っ最中だったらしい。
僕等の成功例は、無事にそこへと加えられたのであった。




