おまけ:とある運営スタッフ達の迷走
気が向いたのでおまけ回、運営達をチラ見です。
おまけは勢いだけで書いているので、おかしな所もあると思いますが、ご容赦を。
始まりはこの一言だった。
「我々には筋肉が足りない……」
そんな言葉をポツリとこぼしたのは、会議室の面々の中でも一際目が据わった男だった。
『Endless Field Online』
プレイヤーの間では通称エフォEFOと呼ばれるオンラインVRMMOの運営会社にて。
今日も今日とて大規模イベントの間の虚無期間をどうするかの話し合いをしていたイベント部署。
そんな話し合いに投下された一言に、部屋の中は一瞬凍りついた。
「……どうしたの松田君」
「大丈夫? 飴ちゃん食べる?」
「皆さんもそう思いませんかぁ!? 夏のイベントであんなに筋肉自慢のNPCを浜辺に放ったのに! 元々の筋肉自慢以外はプライベートルーム以外で脱ぎやしねぇ! 筋肉が!! 筋肉成分が足りてねぇんだよぉおおお!!」
「あっ、これダメだわ」
「いつもの松田の筋肉発作ですねぇ」
「ほら松田君、これ飴ちゃん飴ちゃん!」
「松田御乱心ー!!」
筋肉を求める男、松田は、差し出された特別な存在のための飴玉をゴリン!ゴキン!と2噛みで粉砕すると、懐から取り出した資料をテーブルを滑らせて配布し、背中から取り出した模造紙を広げてホワイトボードへバシン!と叩きつけた。
「筋肉が足りないなら作ればいいじゃない!! やりましょうよ筋肉大量発生イベントをさぁ!!」
「あらしっかりした企画書」
「普通に出せよ」
話し合いに参加していた面々は、松田が持ち込んだ企画にじっくりと目を通した。
……うん、いいんじゃない?
他に上がっていた案よりも面白そうだし、インパクトあるし。
詳細細かく詰めてくれてるから、これがこのまま通れば秋イベントにもっと力入れられるしね。
『緊急襲撃イベント〜マッスラゴラの悪夢〜』
紙に書かれたイベント名の通り、マッチョになったマンドラゴラが襲撃してくる分かりやすいイベントである。
深くこみいった事情など何も無い。ただの金目当ての小物NPCが、ご禁制の肥料に手を出してマンドラゴラをマッチョにしてしまい、それが暴走するという話だ。
イベント部署は若干の修正を加えただけで、そのイベントを上に上げた。
「OK出ましたー!」
「イエーイ!」
「サンキュー松田!」
「松田の筋肉狂も役に立つ時あんだなぁ〜」
わいのわいのと和やかに安堵の空気が流れ……たのも束の間。
ピロンと鳴った通知音。
部署宛に届いたメッセージ。
差出人は……
「……社長です」
「社長!?」
「えっ……社長から、何のメッセージですか……?」
イベント部署の面々は……全員揃って恐る恐るひとつの画面を覗き込む。
……そのメッセージは、要約するとこんな感じだ。
『イベント部署の皆、楽しそうな企画をありがとう! お疲れ様! でも、今回のイベントって……攻撃されてもアバターが変わるだけだから、プレイヤーもNPCも死ぬ可能性がゼロなんだってね? それはちょ〜っとヌルゲー過ぎるんじゃないかなって、社長思うんだ?』
『だから、社長権限で、ゲームマスターAIにせめて難易度をバリ高にするよう指示しておきました!』
『その他細かい調整も社長がウッキウキで気分転換兼ねてやっておいたので! 皆は安心して、秋イベントの準備にかかってね! ヨロピク!』
「「「「「ギャアアァァアァアアア!!!」」」」」
「社長!? ウッソだろ社長ぉおおお!?」
「ダメです! もうゲームマスターAIが完全に動き始めて止まりません!」
「やりやがった! 死にゲーの申し子がやりやがったぁぁあああ!!」
「うわー!? 専用ページがすごいポップな雰囲気に仕上げられてる! ラフなイベントっぽく全力で偽装してますよコレェ!?」
「マッスラゴラのAIやべぇぞ!? すげぇアクロバティックな動きしやがる……ピリオ周辺にいていい相手じゃないだろ!」
「それ絶対社長が自分の格ゲーの相手させるのに育ててたAIでしょ……」
「やめろぉ! 最後の襲撃何体で押し寄せるつもりだぁあああ!?」
「よっしゃあああ! 筋肉祭だぁあああああ!!」
「喜ぶんじゃありません!!」
「松田ァ!!」
イベント部署は上を下への大騒ぎ。
プレイヤーが決行したダンジョン召喚クエストを使ってCMを作っていた広報部は、突然社内に響いた悲鳴に驚き首を傾げたと言う。




