ユ:『夢入りの潜り丘』での出会い
ネビュラが向いた方向に気配を感じて視線を向ける。
そこには……空中を泳ぐ半透明の魚がいた。
派手なヒレと縞模様のその魚は……
「……ミノカサゴ?」
「『夢の幻獣』ぞ」
なるほど?
なんというか……このフィールドに住んでる身としては、ついに来たかって感じだな。
「相棒、はい」
「ん?」
キーナが差し出してきたアイテムを受け取る……ああ、トマト結晶のアクセサリーか。そういえば、余暇を使って首飾りを作っていたな。
革紐で結晶を縛ってトップを作り、そこにさらに長い革紐を通したワイルドなアクセサリーだ。
トマトは山のようにあるから、ジャック達の分も作ってある。
【満ち夢ち結晶の革ペンダント】…品質★★
満ち夢ちトマトを結晶にした物を首飾りにあしらった物。
装備中は一定時間幻獣と会話が出来るスキルが使用可能になる。
使用可能になるスキルはそのまんま【幻獣会話】
スキルを使うと、空中を泳ぐミノカサゴが何かブツブツ言っているのが聞こえてきた。
「ぱやや〜……やっぱヒトの子は言葉が通じない的な〜?」
「あ、もうわかるよ」
相棒が独り言に答えると、ミノカサゴはピョンと驚いてクルリと回った。
「ぱやや〜!? ヒトの子通じた……夢の中じゃないと通じないと思ってた的な〜?」
なんで半端にギャルっぽい喋り方なんだ……幻獣は、精霊より癖の強いのが多い気がする。
「ヒトの子さっき『夢入り門』を潜ったでしょ〜? 大丈夫だったぁ〜?」
「『夢入り門』?」
「そこの丸〜い門がそぉ〜。アレがピッカピカリンリンしてる時ってぇ〜、誰かの夢にビビッと繋がっちゃってるからぁ〜」
「あ、アレってそういうものだったんだ」
なるほど……って事は、中にいた巨鳥に『(夢)』って付いてたのは夢の中の存在って事か。たぶん、普通に出会う相手とは色々違うんだろうな。
幻獣曰く、この島は『夢入りの潜り丘』と言うらしい。
ここにあるアーチは全部、その時寝ている誰かの夢にランダムで繋がる仕様のようだ。
……うっかりヒトとかち合うかもしれないな? プレイヤーかNPCかはわからないが……アーチの向こうを探索する時は変装した方がよさそうだ。
「そこらの鹿とかぁ〜、たまに豆食べるのに夢中でぇ、そのまま文字通り夢入りしてぇ、ポックリ逝ってる的な〜? 迷子で戻れない場合もありけりだしぃ〜、なんともなかったならラッキーデー」
「……おおん、そうなんだ」
あれでラッキーな方なのか……いやまぁ、襲われもしなかったし、迷いもしなかったけどな。
「なるほど、ありがとう……えっと、魚幻獣さん?」
「ち〜が〜い〜ま〜すぅ〜、ぱややは『夢のミノカサゴ幻獣』ですぅ〜」
「ミノカサゴ幻獣」
ぱややって何だよ。
ヒレをフルフルと震わせながら苦情を言うミノカサゴ幻獣。
……せっかくだから、訊くだけ訊いてみるか。
「ここらへんで、狩りにちょうどいい島ってあります?」
「ぱやや〜? ヒトの子の狩り方とか未知だしぃ〜、知らない的な〜……あ、でも『夢啜りの茸の林』はやめといたほうが良さげ〜」
「キノコなの?」
「キノコワッショイの胞子ワッショイ。息するだけでヤバげ〜」
なるほど、山から見下ろしてキノコまみれならやめたほうがいい、と。
「どうも……えっと、コレとか食べます?」
ミノカサゴ幻獣へのお礼が思いつかなくて、夏のイベントで釣りをした時の釣りエサの残りを差し出した。
ミミズとかじゃなくプチエビだから……悪く思いはしない、と思いたい。
ミノカサゴ幻獣は、俺の手のひらの上のプチエビを不思議そうに眺めてから……ひとくちパクリと食べた。
……そして、「ぱややー!!」と叫んでポインポインと跳ね回った。
「ナニコレェー!? チョーウマウマー!? え、ヒトの子こんなのばっかり食べてる的ぃ!? とんでもなさげぇー!!」
めちゃくちゃ嬉しそうにプチエビを夢中で食べるミノカサゴ幻獣。
(……別にヒトの子は釣りエサ食べないけどね)
(シッ)
たまたまミノカサゴ幻獣の好みにストライクだっただけか……それともエビを食べた事が無かったのか……まぁ、気に入ったならそれでいい。
……そしてネビュラとベロニカ、『ちょっと興味ある』みたいな顔でプチエビを見るんじゃない。これ釣りエサだから。どうせなら俺達も食えるエビ料理作るから。
とりあえず手持ちの釣りエサの余りは全部ミノカサゴ幻獣にやって別れた。
拠点からわりと近場をフラフラしているようだし、一応こっちを心配してくれたらしいし、好物を渡しておいて悪いことは無いだろう。
とりあえず今日は、うっかりアーチをくぐらないように気をつけながらここで狩りだな。
レベル的にはちょうどいいし、移動も時間がかかる。
他の所を見るのはまた今度でいい。
(エビフライ食べたくなった。もしくはカップ麺の小エビ!)
プーバランかよ。相棒のエビチョイスもなかなかに極端だ。




