キ:謎のアーチを潜ったら
生息している生き物は、順当な拠点周りの上位互換だけど……まさかそれだけで終わるわけないと思う。
こっちの島は、僕らの拠点の島とはかなり景色が違う。
拠点周りは大きくてグルグルとした木が鬱蒼と茂っているのに対して、こっちは大きな木はあんまり無い。
見晴らしのいい草原がメインで、あちこちに乱立している謎のアーチに蔦がシュルシュルと這い上っている。
蔦は、どうやら豆の蔓みたいで、ぷっくり膨らんだ莢がコロコロと実っていた。
試しに大きく育っている物をおひとつ採ってみる。
【ユメツツミ豆】…品質★★
夢を吸い上げて育った豆。
豆の形は夢によって変わる。
へぇ~、夢を肥料みたいに吸収して育った豆なのかな。
……そういえば、この辺の夢喰い大角鹿ってちょくちょくこの豆ムシャってるんだよね。
それでも全滅しないくらいには豆が育つって事なのかな……って事は、このアーチの辺りは夢が多い?
「……夢が多いってなんぞや」
「なんて?」
思わず自分の思い付きにツッコんだら相棒が反応した。
僕が思い付きを説明すると、相棒はふむって感じに手を口元に当てて思考する。
「……その理屈でいくと、このアーチが夢に関わりがあるかもしれない」
そうだね、豆の蔦は主にアーチにシュルシュルしてるからね。
僕はすぐ近くのアーチを見あげた。
大きな物は、それこそ見上げるほど大きくて。
小さな物は、小人が通るのにちょうどいいかなって感じのサイズ感。
そんな大小様々なサイズのアーチが、草原にわらわらと。
……そしてそのアーチは、表面の細かなヒビ割れが光っている物と光っていない物がある。
「……光ってるのと光ってないのは、何の違いだろうね?」
「……さぁ?」
相棒は、傍らのネビュラを振り返った。
「ネビュラはここのこと何か知ってるか?」
「……いや、わからぬ」
ネビュラ曰く、死の精霊は死の海が管轄で、その上の島に関しては基本ノータッチなんだって。
「夢は生者の領域、死者は訪れるのみ。これらの島は、夢の幻獣の縄張りよ。隣り合ってこそいるが、近くて遠い、別の理の場所なのだ」
「へぇ~、夢かぁ」
まぁそうだね。
植物素材とか、夢関係の物が多いから。
豆が美味しいかどうかを議論しはじめた三兄弟を微笑ましく思いながら、僕は一番近くにあった光っているアーチに近付く。
柱の片方に近付いて、豆の蔦の間で光るヒビ割れを観察しながら、柱をぐるりと一周した……
……つまり、アーチを潜った途端、重力の向きが変わった。
「うわぁあっ!?」
急に真横から引っ張られたみたいになった僕は
バランスを崩して、それでも地面に叩きつけられる事は無い。
え、何!?
なになになに!?
視界からは、アーチも豆も蔦も草原も消えていた。
上下前後左右どっちを向いても青空が広がっていて
僕は真っ逆さまに青空へ向かって落ちている!
「ちょ待って待ってぇえ!?」
え、バグ!?
地形のポリゴン抜けとかそういうバグ!?
隙間に入っちゃって裏側をどこまでも落ちていくアレ!?
フルダイブVRでそのバグはちょっとご勘弁すぎやしませんかねぇ!?
なんて慌てながらパニクっていたら……落ちる僕の真横に巨大な質量が並んだ。
……違う、バグじゃない。
大きな大きな鳥が
僕をぺろりと丸飲みにできそうなくらい大きな黒い鳥が
落ちる僕と並んで滑空しながら、満月みたいな目でこっちを見ている。
巨鳥ツキワタリ(夢) Lv88
……バグだったら、この鳥はこんなにスムーズな動きをしていないんじゃないか。
そんな風に考えたのも束の間で。
僕は自分が落ちていく先に、輪が待ち構えているのを見つけた。
それがさっき調べていたアーチにそっくりな物だと
気付いた時には、もう僕はその輪を潜っていて。
そして潜った瞬間に
「◎%※▼~:Φ<#&=*T◇↓↓↓●!!」
僕は元居た草原の地面を、ものすごい勢いで滑っていた。
「……なん……えぇ? ……えぇ~~??? ……何?」
驚いた鹿が逃げ出すくらいの勢いで滑った僕は、摩擦で動きが止まってようやく動く事ができた。
「あっぶな……めっちゃHP減った……」
死ぬかと思った。
というかゲームじゃなかったら死んでた。
あんまりびっくりしたから、飛ぶっていう発想も出てこなかったし。
上体を起こして座り、自分の【光魔法】で回復しながら、キョロキョロと周囲を見渡す。
「……さっきまでいた所、だねぇ?」
僕が滑って来た方向には、ヒビが光っている謎のアーチ。
たぶんさっきまで僕が見ていたのと同じ物。
「あれ? 相棒?」
相棒がいない。
みんなもいない。
それに気付いた瞬間、アーチから何かがすごい勢いでこっちに射出された。
ズザーッと地面を滑って来るその黒い姿は……
「相棒ー!?」
「……っ」
たぶん僕と同じ目にあったっぽい、ネビュラと同化している相棒は、げんなりとした顔でダルそうに起き上がる。
「あー……大丈夫だった?」
「うん、相棒は?」
「平気」
そしてその後を追いかけるように、オバケ三兄弟がデューに庇われながらズザーッとアーチから射出されてくる。
「アア~ッ……」
「グゥ……」
「……あぅう」
「……みんな大丈夫?」
「ア、マスター……よかった無事ダッター」
「デュー兄様……ありがとうございます……」
「ナンノ、破損は無いカ?」
「はい」
皆、僕がアーチを潜って消えちゃったから、慌てて同じ所に飛び込んでくれたらしい。
「ごめんよ、ありがとう」
「ええんやで」
とんだ初見殺しを踏んでしまった。
そして最後に、ものすごく慌てた様子のベロニカがアーチから飛び出してきた。
ベロニカは飛べるから、少しでも情報を集めようと思ってくれたらしいんだけど……
「さすがにあんなデカブツがいる所で長居できないわ!」
「それはそう」
ただじっくり様子を観察していたベロニカによれば……光ってるアーチを潜ったら、潜った先が地面の無い謎空間で、落下し続けた先にあったもう一つのアーチを潜ったら、来た時と同じアーチから戻ってきた、って事みたい。
わからぬ……
皆で回復しながらポカーンとしていると、相棒と同化を解除したネビュラが、スッと視線を遠くへ向けた。




