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キ:魔術塔ダンジョンの招来

儀式本番です。長くなりました。長くなる気はしてました。



「予定よりかなり早いが……全員揃ったし、もう始めるかー?」

「賛成じゃ」

「良いと思いますわ」

「おう、さっさとやっちまおうぜ」


 僕等を含めて、現地で準備をしていた参加者達は全員がカステラさんの言葉に頷いた。


 集まって目立ってから時間をかければかけるほど、プレイヤーの野次馬は増えていく。

 別に見てるだけなら構わないんだけど。これ以上人が増えた結果、変な人達が徒党を組んでやってきて我が物顔で儀式会場に乗り込んで来たりするかもしれないし。

 フリマみたいに、ユーザーイベントの申請なんて出してないからね。

 プレイヤー人数がこっちの方が多い内にやっちゃおう。




 魔法陣の用意はもう出来ている。

 中心に大きく七芒星が配置された、ファンタジー感マシマシの複雑な魔法陣。

 それを黒い塗料で板に描いて、平らに均した砂の上に置いて有る。

 人が乗る所の下だけ土魔法で固めてあるらしいから、強度は大丈夫。

 板に陣を描いた塗料はモンスターの素材を元にしたもので、魔道具を作るのによく使われる物なんだって。色んな色が御用意できるけど、今回は大きな魔法陣を描くから大量生産が簡単な黒になったらしい。


 板が飛んだり砂がかかったりしないように、参加クランや検証勢の有志が【風魔法】で魔法陣を守ってくれている。




 まずはサモナーの配置。

『マナの果実』を食べて最大MPを増やして、MPポーションを飲んだ召喚士達は準備万端。

 誰がどこを担当するかはもう決まってるから、それぞれ対応アイテムを手に取って魔法陣へと向かう。


 本にはちゃんと持つ物と配置が書かれているから、その通りに……



 ──『1の場所には鏡を持つ者を』


 これはアリス・リリスさんが担当。

 名前にアリスって入ってるから鏡がやりたいっていう立候補。

 白雪姫の女王様が持っていそうな、そこそこ大きい装飾付きの鏡を受け取っていた。

 ……結構高価そう。いいの? そんなお貴族向けみたいなの使っても。



 ──『2の場所には世界の象徴を持つ者を』


 これはお掃除エビさんが担当。

 世界、あるいは最も強い神を象徴する何かを1つ、っていうこの指定。ようするに無限に広がるこの世界か、またはこの世界に最初からいた『生誕』を司る主神の、どっちかを象徴する物って事になる。

 検証勢が色々調べたり、聖女に確認を取ったりして選ばれたのは……正円から色んな生き物の一部が生えているような絵を彫りこんだレリーフだった。

 実物をラウラさんを介してウニ先輩に見てもらって太鼓判を押してもらったから、問題は無いはず。

 小人のお掃除エビさんは、このレリーフに取っ手をつけてもらって、大盾みたいに構える事になる。

 なお、ラウラさん含めた他の同盟仲間は予定が合わなかったので、残念ながら野次馬にはいなかった。



 ──『3と4と5の場所には剣を持つ者を』


 これは、海亀さん、ジョンさん、抜け毛千本ノックさんが担当。

 三振りの剣を一振りずつ持ってもらう。

 この剣も、今回の儀式用にってめちゃくちゃ細かいファンタジーな装飾付きの剣が御用意された。

 なんか打ってくれた人が、『ムービーに残るかもしれない儀式の道具に手ぇ抜けるかぁ!!』って燃え滾っちゃったんだって。

 なので鏡と同じく剣も、ファンタジー極めた儀礼用の剣みたいな見た目してます。まぁ儀式だから、間違ってはいないのかな。



 ──『6の場所には書を持つ者を』


 僕らが解読した本を持つのは、カステラソムリエさん。

 この本が無いと儀式が成り立たないわけだから、預けるのは僕らが一番信頼できる人にしたかった。だからカステラさん。

 ただ結構本が大きいしカステラさんがフェアリーで小さいから、陣の上に置いて、それを片手で支えるスタイルになる。



 ──『7の場所には鍵を持つ者を』


 これは絶対聖母コマドリさんが担当。

 この大きな鍵も、やっぱり製作者さんが張り切りまくって、コマドリさんの身長より長い杖みたいな鍵が出来上がってきた。

 西洋な装飾も細かく付いてて、すごくカッコカワイイ。普通に杖として欲しい……というか、ファンタジーゲームで鍵の形の杖とかよくあるじゃんね。これを期にエフォ(EFO)で流行ったりしないかな。




 全員が配置について、いよいよ儀式が始まる。


 7人を残して僕らが下がり、静かに見守る態勢になった事で、『何かが始まる』って事は野次馬にも伝わったんだと思う。



 賑やかだった砂漠は……あっという間に風だけが吹き抜ける静寂に包まれた。



「……始めるぞ」



 カステラさんの言葉に、他6人のサモナーが頷いた。




 ──『準備が整ったなら、7人の召喚士全員の魔力を魔法陣に流せ』




 これは陣を描く前の塗料に対してテストして、特に全員問題は無かった。

 魔道具を作る時、魔法を籠めるのと同じように。


 7人のサモナー達が、一斉に魔法陣へと魔力を流す。



 ……すると、黒い塗料で書かれた魔法陣が、虹色の光を発し始める。

 黒から白へ、白から虹へ、鮮やかに色を変えて輝く大きくて精緻な魔法陣。


 これこれ! これだよこれぇ!

 ファンタジーと言えば魔法陣はやっぱりここぞという時に光ってもらいたいよね!


 ざわつく野次馬。

 見守る僕達。



 最初のアリス・リリスさんが、スッと鏡を前に掲げる。




 ──『最初の1人が鏡を掲げ、そして唱えよ』




「『望まぬモノ、悪意あるモノ、割り込もうとする全てを跳ね返せ。これをもって儀式の始まりを告げる』!!」



 どこからか、荘厳な、鐘の音が聞こえたような気がした。


 魔法陣から風が溢れる。

 有志の風がもう必要ないくらいに強い風が。

 陣の中心から、放射状に吹き続ける。



 次のお掃除エビさんが背後のペリカンに支えられながら、風を受け止めるかのようにレリーフを構えた。




 ──『次の者は世界の象徴を掲げ、そして唱えよ』




「『これ、この世界より、異なる世界へ呼びかけん。楔はここに。印にして証。始まりにして終着を穿て』!」



 すると、魔法陣が板からほんの少しだけ、浮いた。

 板に合わせて、僅かにたわんでいた部分が、ピッタリと綺麗な平面になる。


 そして陣の上に一瞬だけレリーフの絵が輝いて。

 次の瞬間、魔法陣の一番外側の円から、木の根みたいな光が生え伸びて砂漠を……世界をしっかりと掴んだ。


 変化はそう長くない。

 あっという間に魔法陣は安定して動かなくなる。



 それを、次の段階と判断して、海亀さんが剣を足元へと突き立てた。




 ──『剣を持つ1人、それを魔法陣へと突き立て唱えよ』




「『天と地の境に狭間を開け。それは世界の向こう側』」



 キンッと甲高い音がした。


 輝く魔法陣を地平線に見立てたようにして、縁の上に僅かな隙間が開く。

 隙間の向こうは……何色なのかがよくわからない。


 固唾を飲んで見守る面々の中で。

 ジョンさんが次へと段階を進めるために剣を足元へ突き立てた。




 ──『剣を持つ1人、それを魔法陣へと突き立て唱えよ』




「『時の流れに狭間を開け。それは世界の向こう側』!」



 再びキンッと音がする。


 さっきは横に。

 今度は縦に。

 魔法陣の上へ、目には見えない亀裂が走ったようなブレを感じた。


 風がさらに強くなる。


 放射状だった強風は。

 今は魔法陣を取り囲むように、外側でぐるぐると渦を巻いていた。


 そして剣担当の三人目。

 抜け毛千本ノックさんが、前二人と同じように剣を足元へと突き立てる。




 ──『剣を持つ1人、それを魔法陣へと突き立て唱えよ』




「『誓いを刻む。我らは異なる世界の脅威に非ず』!」



 宣言と同時に、魔法陣の中央部分、七芒星の中心の七角形が……ガパリと開いた。


 景色を砕くようにして、全部の色があるのに何色でもないような空間が繋がっている。


 歓声のような、悲鳴のような、周囲から聞こえる色んな声。

 もう何も知らないプレイヤーにも、かなりヤバイ事をやっているって事実は理解できたと思う。



 そんな周囲や、謎空間の向こう側へ、宣言するかのようにカステラさんが声を上げた。




 ──『そして書を持つ者が唱えよ』




「『我らは、遺言を受け取り叡智を受け継ぐ、正当なる継承者なり』!」



 途端、本が光って宙に浮いた。


 本はふわりと浮かんで魔法陣の中央へ。

 扉絵に、地面に描いたのとまったく同じ光の魔法陣が浮かび上がる。


 本は開いて、勢いよくページが捲られ続けた。



 そして、絶対聖母コマドリさんが、両手で大きな鍵を捧げ持つ。




 ──『最後に、鍵を持つ者が、現れた扉へ鍵を捧げて唱えよ』




「『扉を越え、彼方より来たれ。大いなる賢者の石塔よ』!」



 ズン──と空間が揺れた。


 魔法陣が、板とサモナー達を置き去りにしてグワッと数倍大きなサイズに広がった。

 輝きを増した魔法陣。

 周囲を渦巻いていた風は、魔法陣の真下の砂地を抉り始めて、元々描かれていた板が脆く弾け飛ぶ。


 そして魔法陣が大きくなった事でサモナー達から位置がズレた七芒星の先端へ、七本の石柱が砂地へと突き立てられた。


 石柱の表面に刻まれた魔法陣のような物が輝き……そして、魔法陣の中央部分から砂の下へ向けて、壮麗な石の塔が地下へと伸び始めた。


 窓の向きが合っているから、間違えて逆さまに出てきたわけじゃない。最初から、こういう仕様の建築物。



(……そっか、儀式場が『深く広い谷、あるいは砂漠。どちらも無ければ、最悪深い海でも構わない』っていう指定だったのは、高い所からぶら下がってるタイプの塔だったからなんだ)

(砂漠だから完全に地下ダンジョンになったな)



 地響きを上げながら塔は伸びていく。


 サモナー達は、途中でMPポーションを飲んでMPを補給していた。上限増やしても足りなかったんだね。


 ……そして最後に、砂に埋まらない地上……つまり魔法陣の上へ、入口らしき小さめの一階部分が現れた。



 ……その扉が開く。


 中から、全身をボロボロのフード付きローブで覆った……ヒトのような二足歩行の誰かが歩いて出てくる。


 肌は一ヵ所も出ていない。

 顔も、種族も、何もわからない。


 すると、浮いていた本が、ストンと落ちて、そのヒトの手に収まった。



「……『継承は成されり。これをもって儀式の終了を告げる』」



 そのヒトがそう言うと、本はサラサラと砂のように崩れて消えてしまった。


 同じように、あんなに眩しく輝いていた魔法陣も、輝きを失って跡形もなく消えていく。


 そしてそのヒトは……静かになったオレンジ色の砂漠の上で、真っ青な空を見上げて、言った。



「……ああ、生まれ変わるには良い世界だ」



 そして見えない顔を、周囲のプレイヤー達へと向けると。



「励めよ、継承者達」



 そう言うなり……ボロボロのローブは、初めから誰も入っていなかったみたいに崩れ下ちた。


 挑発するような、見守るような、ちょっとだけ意地悪な感じの声だった。




 ──クエスト『魔術塔ダンジョンの招来』をクリアしました。



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― 新着の感想 ―
王家の谷か······それはそれで熱い
やだー! ピラミッドみたいな大型ランドマーク期待したら地上部分にほとんどないじゃないですかー!
トテモスゴイ
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