キ:砂の都・サラサオアシス
人魚を水で戻しながら走り続けて、僕達はようやく『砂の都・サラサオアシス』に辿り着いた。
(着いたぁー)
(うん、思ったより早く着いたな)
間に合わないかもしれないっていう焦りと、助けた人魚に変に絡まれたら面倒だと思った事から一気に駆け抜けたけど……そのおかげでなんとか余裕を持って到着できたよ。
夕飯のログアウトにもまだ時間があるし、少し街を見てまわるくらいはできるかな。
【土魔法】で作られたらしい分厚い防壁の門を潜ると、そこには絵に描いたような砂漠の街の風景が広がっていた。
(すごい! 砂漠っぽい四角い家! 刺繍の入った布とか絨毯がいっぱい!)
(だな、砂漠っぽい)
土壁っぽい風合いの家が立ち並ぶ街並み。
それを彩る色とりどりの布と、その布をさらに飾る重厚な刺繍。鉢植えのイチゴが花壇代わりみたいに街を飾ってる。
道行くNPC住人達も、街の雰囲気に見合った布の多い服を着ている。ターバンとか、頭をすっぽり覆って口布着けてたりとか、砂漠の定番だよね。
ピリオでは馬やロバを街中でもよく見たけど、こっちはラクダが多くて雰囲気がすごい。
アラビアンな雰囲気を全面に押し出した、異国情緒満載の街。
『砂の都・サラサオアシス』を眺めて、僕らは二人揃って感嘆の溜息を吐いた。
(運営が作ったって言われたら信じる)
(確かに)
それくらいものすごく出来が良い街だった。
門から伸びる大通りの左右には露店が立って、色んな物を売っている。
真鍮の食器とか、角や革や虫の甲殻を加工した雑貨とか。エキゾチックな刺繍たっぷりの布地と、模様がみっしり入った大きな絨毯とか。あ、山盛りのドライフルーツに混ざってるイチゴは飾られてる鉢植えのかな? 美味しそう。
その通りの先には石畳の敷かれた広場があって、そこにはタイル貼りの大きく綺麗な水場。真ん中には魔道具の小さな噴水がついていた。
噴水の周りでは子供たちが遊んでいたり、ターバンを巻いた日に焼けた男達が商談みたいなことをしていたりする。
これをプレイヤーが一から作ったのかぁ〜……しかもハンデの多い砂漠に!
(すげーな)
(ねー)
こんな数のNPCどうやって養ってるのかと思ったけど、主な収益はモンスター素材らしい。
砂漠のモンスターは少し変わった素材をドロップするらしくて、それがそこそこの値で売れるんだとか。
襲撃は書き入れ時だとNPCが豪快に笑っててビックリした。この街は戦闘系のNPCがかなり多いみたい。
さらに最近は、アラジン町長が砂漠の少し遠い地点で見つけた洞窟に宝石の鉱脈があったりして、そちらで一攫千金を夢見る者も増えているんだって。
……そういった事を、役場だっていう石造りの立派な建物で働いている女性NPCが教えてくれた。
かなり個性の強い街を気に入って拠点を構えるプレイヤーがそれなりにいるらしくて、僕らをその類かと思ったらしい。
「特に昨日一昨日と、団体様向けの拠点希望が三件も来まして。どうやら町長が西門付近を急遽整備している件に関わりがあるらしいんですよ」
……うん、それは十中八九ダンジョン召喚の件かな!
って事は、団体様三件はたぶん召喚について集まってもらったクランなんだと思う。
(開拓地真横のダンジョンは無いわけじゃないらしいけど、ほとんどが開拓地出入り不可設定でその恩恵を独占状態にしているんだってさ)
(へぇ~)
相棒が言うには、ダンジョンの入口を開拓地で封鎖する事はできないけど、大体がピリオノートからかなり遠いから通えるような場所じゃないんだって。
……まぁ、プレイヤーにいっぱい来て欲しい見て欲しいって目的で街作りしてないなら、ダンジョン横でオープンにするメリットってあんまりないのかな?
……そうなると、オープンな街とダンジョンが隣接状態になる予定のここは、かなり美味しい狩場になるのでは?
ダンジョンの真横で補給も休憩も取れる。拠点を確保できれば、ドロップ品をちょっと置いてくるなんて事もできるわけで。
だから他の競争相手に情報が回っていない今の内に便利なクラン拠点を抑えようとしてるのかな。抜け目ないねぇ。
プレイヤーが他プレイヤーの開拓地に拠点を所有するには、金銭とは別に開拓主プレイヤーの許可がいるらしい。
そして開拓主側は他プレイヤーに拠点所有の許可を一度出すと、自分だけの意思で開拓地を一括出入り拒否の設定にはできなくなるんだとか。
出入り拒否にするには、拠点を所有しているプレイヤー全員の許可が必要。
住み着いたプレイヤーもいきなり立ち退きを要求されて納得するわけがないから、ほぼほぼ出来なくなるのと同じ。
アラジンさんの開拓地である『砂の都・サラサオアシス』は、他プレイヤーが既に何人も住んでいる。団体三組にも早々に許可が下りてるらしい。
だからダンジョンを真横に召喚させておいて、詐欺のように出入り不可って事はできない。
たぶんその辺りも考慮してこの街の付近が場所の候補に上がったんじゃないかな。
そしてアラジンさん当人もノリノリだった、と。
(これでめっちゃ和風な五重塔みたいなのが召喚されてきたらどうしようね?)
(……まぁ、それはそれで味があるんじゃないか?)
せっかくだから、役場のNPCが教えてくれた西門の付近へ、ログアウト前に行ってみた。
門を二重にする改築と、防壁の上へのバリスタの配備。
背の高い物見やぐらの設置。
そして水場と宿の建築。
噴水広場から西門を繋ぐ道を、さっき通った大通りのように露店が立てられるよう整った物へする整備。
そんな感じの工事が急ピッチで進められている現場を見て、僕らは改めてアラジンさんのガチ具合を実感したのだった。




