表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
288/596

ユ:駆け抜けて干物ロード


「【アクアクリエイト】ォオ!」


 果てしなく続く広大な砂漠を駆け抜けながら、キーナが発する【水魔法】が、行き倒れて干からびている人魚プレイヤーに降り注ぐ短時間の滝を作る。

 割と容赦のない量の水は、逆に人魚には一発でありがたい量の潤いになるらしい。

 べっしゃべしゃに濡れた人魚プレイヤーが、瞳に希望の光を宿してガバッと起き上がった。

 ……その横を俺達は速度を落とさずに駆け抜ける。


「た、たぁすかったぁあああ!! ……って、ええーっ!? 森夫婦ー!? ああっ、待ってー!? せ、せめてお名前をー!?」


 今『森夫婦』って自分で言っただろ。

 顔出しNGなんだから本名もNGだ、察しろ。


「進行方向やや右寄りに次の干物よ。近くにサソリが3匹」

「右だな」


 先行して飛ぶベロニカが点々と落ちている人魚の場所を伝えて、ネビュラがそこを通るように走る。

 街に向かう進路上に倒れているからまだマシだ。


 砂の上で、ただの屍みたいになってる人魚へ迫るサソリ型のモンスターが3匹。


「相棒伏せて」

「ほい」

「【追い風撃ち】」


 ネビュラにしがみつくように伏せた相棒の頭上から、ボウガンでサソリを撃ち倒す。そこまでレベルが高いモンスターじゃなかったのが幸いだ。

 片付いた所で相棒が【水魔法】で人魚に滝を浴びせる。

 確認からここまでネビュラはノンストップだ。


「うおおー! 森夫婦さん、サンキュー!」


(水かけると一気に元気になるのちょっと面白い)

(……うん、極端だよな)

(お湯につけると膨らむ玩具みたいだなって)

(あぁ……水かけるとタオルになるタブレットとか?)

(そうそう)


 人魚はインスタントだった……?

 ……まぁ、相棒が楽しんでいるならいい。スレの人魚達はもう少し自重してほしいけどな。


「次、左側に干物が2体よ」

「うむ」


 もうベロニカが人魚を干物としか呼ばなくなってしまった。

 そんな人魚ばかりじゃないから……他のプレイヤーの前では干物呼びはやめてあげてくれ。



 * * *



「はぁ……結局何人救助したかな?」

「さぁ? 数えてなかった」


 日が暮れて、夜。

 さすがに黒一色になった慣れない砂のフィールドを進むつもりはない。いくら明日は休日といっても、そろそろログアウトしないと辛いしな。


「んんー! 寒ーい!」

「気温の変化が激しいな……」

「でも星が綺麗」

「うん」


 とりあえずキーナを抱き寄せて腕の中に閉じ込める。……暖かいな。ゲームなのに、ちゃんと体温を感じるのがありがたい。


 なんとなくダラダラとしているのは、砂漠の星空があまりにも綺麗で見応えがあるからだ。


 黒く陰った砂の上に広がる濃紺の空。

 そこに散りばめられた、数える気にもならない大量の星々。

 地面よりも、空の方が明るく。雲一つない星空は、360度どっちを向いてもキラキラと瞬く星の輝きに囲まれている。


「はー……スクショ撮ろ」

「うん、撮っておこう」

エフォ(EFO)の景色は、普通に写真集みたいなの出したら売れそうだよね」

「……そういう写真家いなかったっけ?」

「いるのー?」

「SNSとかで見た気がする」

「へぇ~」


 業界がブレイクスルーしてから、VR界隈のグラフィックは恐ろしく向上している。

 作品としてのゲーム世界と、そのゲーム世界で作品を撮る写真家が増えているって話も、どこかで見たような気がした。

 エフォ(EFO)もその内、写真集とか出そうだな。

 V配信者も含めて、そういう活動をエフォ(EFO)の運営は歓迎している。


「……綺麗だけど寒い」

「寒いな、そろそろ落ちるか」

「うん……砂漠の街を登録したらさ、暖かい装備用意してゆっくり見に来ようよ」

「ああ、いいかも」


 ……なお、ネビュラとベロニカは、揃って明後日の方向を向いてくつろいでいた。


 ログアウトして、リアルで布団に潜り込む。


 明日は流石に行き倒れの人魚はいないだろう……水不足でダウンした人魚は魔法すら使えなくなるから、リアル一晩持ちこたえるような事は無いはずだ。


「明日はもう少し砂漠を満喫出来るかな……」

「だといいな」


 今日は珍しく俺も眠い。

 スキンシップを兼ねてギュウギュウと抱きしめ合っていると、いつの間にか、温もりを感じながら眠りに落ちていたのだった。



 * * *



 そして休日のログイン。


 そこには……何故か目の前で倒れている人魚プレイヤーの姿が。


「「どうして……」」

「いやぁ……途中までは良い感じだったんですけどね……うっかり戦闘に夢中になってたら、倒し終わった後にバッタリと……」


 つまり……徒歩で街を目指している人魚が、時間差で倒れている場合がある、と。


「ありがとうございましたー!!」


(……おかしいなぁ? もっとこう……ロマンのある砂漠タンデムを満喫するはずだったのになぁ??)

(なんでだろうなぁ……)


人魚さんは水中のアドバンテージが大きすぎるので、その反動で水が無い砂漠や溶岩地帯系のフィールドではかなり容赦無く干物になるように設定されています。

エフォに慣れきったβ人魚は、こういうフィールドを歩く時はパーティを組むか、水魔法で常に口に水を含みながら歩いていたりします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
水をかけられると復活…アイアンキングかw
タイトルの時点でもう面白いもんなあ
干物が1匹干物が2匹…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ