幕間:首狩り騎士の取り調べ
『暗黒ナイトフィーバー』は、黒馬に跨り大鎌を振り回して戦うスタイルの鎧騎士プレイヤーである。
大いに癖のある大鎌を馬上で使うものだから戦闘はある意味縛りプレイに近く、それ故にレベルはトッププレイヤーからは1段落ちる。
戦闘勢の中では中の上。
それが自他共に認める暗黒ナイトフィーバーの評価だ。
どうしても自分の好みの武器を使いたい。
効率よりもロマン。
そんなプレイヤーは特に珍しくもない。
だから暗黒ナイトフィーバーは自他共に認める普通のプレイヤーだ。
……そう、昨日まではそう思っていたのだ。
「……虫系モンスターの頭蓋骨はやっぱり外骨格なんだな」
「激昂ラビットの頭蓋骨が多すぎる。業者か?」
「それを言うならロングランオストリッチもだぞ。もうこれ機械的に首のクリティカル位置刎ね飛ばしてるだろ」
「クリティカル特化武器極めるとこんなことになるんだなぁ〜」
現在の暗黒ナイトフィーバーは、検証勢に言われるまま広めのプレイヤー拠点のひとつに連れ込まれて、ドロップ品の頭蓋骨を片っ端からチェックされている真っ最中である。
何故だ。
昨日までは平々凡々な一般プレイヤーだったはずなのに。
暗黒ナイトフィーバーは、普段から検証勢にそこそこ手を貸していた。
具体的には『アレを調べたいから取ってきて欲しい』と頼まれたら報酬貰って行ってくるくらいの協力だ。
加えて、『何か気になるモノが出たら教えてくれ』とは常日頃から言われていた。
……だが『平凡なプレイヤーである自分が狩りで出すアイテムなんて別に珍しくもなんとも無いだろう』なんて思い込んで、自分からは特に何も報告していなかったのだ。
頭蓋骨だって、愛用のデスサイズの仕様で出る物だと分かればただのインテリアだ。
明らかに骨が無い生き物から頭蓋骨が出た所で『まぁゲームだしな』としか思っていなかったのである。
「暗黒!! なんだこの『ニヤニヤフラワーの頭蓋骨』とかいう意味不明なアイテムは!? こんな面白そうなアイテム出しておいてどうして黙っていたんだ!? どこぞの森夫婦じゃあるまいし!!」
「悪かったって! 何からでも頭蓋骨出るから『そういうもんか』としか思ってなかったんだよ!」
何故かニヤニヤ笑いの形に穴が空いた草のお面のようなモノを片手に憤る論丼ブリッジにも平謝りしか出てこない。
そう、森夫婦だ。
もう声も思い出せないが、フリーマーケットで暗黒ナイトフィーバーの店から『泡沫クラゲの頭蓋骨』を購入したのが、あの森夫婦だったらしいのだ。
その頭蓋骨が、特殊な手順を踏むことで入場出来るNPCの店に持ち込まれ、『存在しないはずのモノ』という判定を受けて珍品と交換されたらしい。
……意味が分からなかった。
なんだよ『存在しないはずのモノ』って?
俺はいったい何を出したんだ???
何やらその流れでそこそこ大掛かりなクエストが発生しているらしく、検証勢は大喜びで駆けずり回っているのだが……
それはそれとして暗黒ナイトフィーバーの所にもこうして頭蓋骨チェックの家宅捜索がやってきているのである。
なお、クラゲの頭蓋骨を出した当時は、ドロップ直後あたりに検証勢より『何か変わった物はドロップしたか?』と訊かれており、それに対して『いつも通り頭蓋骨ばっか』と答えていた暗黒ナイトフィーバーには断るという選択肢は存在しなかった。
ファンタジーゲーム慣れしすぎておかしい事に気付かない。
検証にとことん向かない部類のゲーム脳だということを自覚したからである。
「うおおい! イビルアイビーの頭蓋骨出てきたんだけどー!?」
「あの蔦植物に首も頭も無いだろーがよ!? どこ刈ったら出るんだそれぇ!?」
……どうやら自分は、いつのまにやら平凡じゃないプレイヤーになっていたらしい。
「いいか暗黒。お前は首とか心臓とかの分かりやすい急所が無いモンスターの急所を無意識に把握している可能性がある」
「マジで???」
「だから今日からしばらくの間、お前の狩りに検証勢を同行させてもらいたい」
「それはいいけど……お前ら近々用事あんじゃねーの? なんか森夫婦が見つけたクエストがどうのこうのって……」
「そーなんだよなぁー!」
「てか船もそろそろ完成するから航海にも出たいのに……っ!」
「でもあの儀式成功したらダンジョンが増えるんだろー!?」
「そうそう、しかも魔法関係の資料がてんこ盛りの可能性が高いダンジョンがな!」
「ああー! 体がたりねぇええーっ! オレが5,6人に分裂したい!!」
「わかるぅー!」
楽しそうで何よりである。
暗黒ナイトフィーバーは、苦笑いしながらそっと目線をそらした。
……昨日、追加で出した『泡沫クラゲの頭蓋骨』の事は、いつ言い出したもんかな……なんて考えながら。
暗黒ナイトフィーバー君は、『俺、なんかしちゃいましたか?』系のプレイヤーでしたとさ。




