ユ:召喚士を集めよう
そもそもエフォにおける【召喚魔法】とはどういうものか。
実は【召喚魔法】を覚えていなくても、召喚は出来る。
相棒が【死霊魔法】で拠点にいるオバケを一時的に呼び出す【サモンネクロマンス】が良い例だ。
色んな魔法系スキルには、ちょくちょく召喚要素が含まれている。そしてそれらの威力は、普通の魔法と同じように魔法系スキルのスキルレベルと消費MP量に合わせて変動するものだ。
だが、【召喚魔法】はそうじゃない。
【召喚魔法】は、呼び出す対象と契約をして、【召喚魔法】のスキルレベルとMPが足りていればそれを呼び出せる。
威力や持続時間は召喚対象によって固定なのがほとんどだ。
契約さえ出来れば、【召喚魔法】ひとつで属性の種類も攻撃も防御も移動もほとんどを賄える。スキルレベルが上がれば上がるほど契約の難易度も下がる。
使い込めば使い込むほど万能になれる。
それが【召喚魔法】の強み。
そういう【召喚魔法】をメインに戦うのが召喚士、サモナーだ。
プレイヤーには、想像力で普通の魔法を使うのが苦手なプレイヤーに人気がある。『◯◯して欲しい!』と考えながら呼べば、召喚対象が自分で考えて勝手にそれを叶えてくれるからだ。
あとは動物は好きだけど、四六時中一緒にいて餌やりとかするのは苦手なプレイヤーとかな。
高レベルの戦闘勢にもそこそこ人気がある。属性別の魔法スキルをそれぞれ育てるよりも、【召喚魔法】一本に絞った方がレベル上げが楽だっていうプレイスタイルだ。
……そして今回発生したクエストは。
そんな【召喚魔法】のスキルレベル30以上のプレイヤーが7人も必要になるらしい。
「僕らの召喚士の知り合いって……カステラソムリエさんだけだよね?」
「たぶん」
なんにせよ、俺達夫婦や同盟だけじゃどうにもならないクエストなのは確かだ。
一応俺も相棒もクエストを受諾はしたが……
「どうしよっか?」
「どうって?」
「んー……僕らが声かけて人を集めるか、誰かに丸投げするか?」
「相棒はどうしたい?」
「んー……」
腕の中のキーナが小首を傾げて少し考える。
「……新しいダンジョンが出たら面白そうだし皆も嬉しいだろうから、クエストクリアはしたいけど……別に『自分で召喚してクリアしたい!』っていう欲求は無いかな」
「そう?」
「あ、でも、でもね? その召喚の儀式は絶対に見たい!」
「うん、それはそう」
相棒の希望はわかった。
誰かに頼る事にはなるだろうけど、その頼り方は考えないといけないな。
うっかり大手クランにまるっと投げると『じゃあ後は我々だけでやりますんで』ってなるかもしれない。ダンジョンも秘匿されかねないから、それは困る。
「……とりあえず、カステラさんに相談してみるか」
「うん、それが無難かも」
* * *
「またとんでもないもの引っ張り出して来たなお前ら夫婦は……」
ちょうどログインしていたカステラさんに『相談したい事がある』とチャットを飛ばして俺達の拠点に来てもらい、本を見せながら経緯を説明したあと最初の一言がそれだった。
頭を抱えてしまったカステラさんは「なんだよクラゲの骨って……存在しない物同士でトレードってなんなんだよ……」と呻いている。
「……えっとな、うん、儀式見学希望なら俺に声をかけたのは正しい。相手によっては秘匿して独占しようとする場合もあるから、その辺は俺と一緒に協力を要請する相手を考えよう」
「僕は顔が広い人って言うと、カステラさんの他はパピルスさんしか出てこないんだよねぇ」
「パピルスかー……人脈は確かにある、あるけど……悪くは無いが良くもないなー……その場合、儀式の場が入場料必須のイベント会場になるかもしれない」
「わぁ、雰囲気が台無し」
ライブ会場かな?
カステラさんは、相棒が書き写した儀式の手順を見て詳細を確認している。
「段階を踏む必要があって……その間維持しないといけないのか。ってことはレベルだけじゃなくMPもそこそこ必要そうだな。まぁその辺は俺も世界樹系のアイテム出せばいいか……」
アイテムまで提供してもらっていいのか?
と思って訊いたが、「いや俺も新ダンジョン召喚とか絶対見たいし」と返ってきた。そりゃそうか。
「まず、β勢時代からの大手クランを複数巻き込もう。それぞれから高レベルサモナーを出してもらえば、面倒なのは黙らせられるだろ」
今回のはワールドクエスト扱いではないが、ゲーム全体に関わるような内容だと自称上級者が『なんで俺らに任せないんだわかってねーなー』みたいな事をグチグチ文句言ったりするらしい。
あるある。オンラインゲームだもんな。
……ワールドクエスト踏み抜いた俺達にも、知らない所でそういうやっかみはたぶんあったんだろう。掲示板管理AIがしっかりしてるから俺達の目につかなかっただけで。
カステラさんは紙とペンを出すと、ガリガリとペンで頭を掻きながら言った。
「まず俺のオススメから上げていっていい?」
「どうぞどうぞ」
「俺達のオススメはカステラさんしかいないんで」
「……マジかよ」
呆れた顔のカステラさんが「じゃあ一人目は俺かぁ……」と呟きながら手元の紙に『オレ』と書いた。
「とりあえず、『グリードジャンキー』のクランから1人。これは絶対必要」
「……えっと、ガルガンチュアさんのクランだっけ?」
「そう」
戦闘ガチ勢の中でも文句無しのトップクランだから、とりあえずそこを入れておけば自称上級者の8割は黙らせられる、らしい。
「次に『麗嬢騎士団』。確か1人サモナーがいたはずだから、レベルが足りてれば依頼する」
「お嬢様の所だ」
「このクランは該当者いなくても緩衝材として呼んでおきたい」
「緩衝材」
まぁ、あのお嬢様は確かに……周りを少しお行儀よくさせる雰囲気がある。
「で、緩衝材要因その2として『モロキュウ冒険団』」
「グレッグさんの所だ」
「なんだ、知ってたのか」
「グレッグさんは俺らの正体も知ってるんで」
「初めて素材売りに行った時にお財布空にした!」
「何してんだよ」
モロキュウ冒険団の海亀ってプレイヤーが高レベルのサモナーらしい。
そしてモロキュウ冒険団は何故かアバター年齢が高いプレイヤーが多くて豪快で気の良いメンバーが多いので、ちょっとガラの悪いプレイヤーからも一目置かれているんだとか。
「とりあえずこの3つのクランさえ巻き込めば悪いようにはならないだろ」
「へぇ~」
「なるほど」
これで暫定4人。
残り3人はそれこそ話を持ちかけたクランの知り合いでも構わない。
カステラさんは「本当は検証勢から誰か入れた方がいいんだろうけど……」となんだか遠い目をしていたが……その辺は追々調整すればいいらしい。
とりあえずメンバーはカステラさんのオススメ辺りでお任せする事にして、それ以外の問題の話し合いを続けることにした。