キ:失われた言語で書かれた本のロマン
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頑張った! 昨日お預けになってた本の内容が気になって気になって……絶対に定時で仕事を上がってやろうと業務内容リアルタイムアタックの勢いで片付けてやった!
いつも通り職場を出て帰路につくと同時にスマホとイヤホンマイクで雄夜と通話をつなぐ。
「終わったー! 帰る、帰ります」
『おつかれ』
「今日は何か買って帰る物あるー?」
『んー……ナスと卵が広告。ウィンナーの徳用袋も頼んだ。後は……牛乳がもう無くなるからそれも』
「はいよー」
『後は俺の炭酸と真紀奈のオヤツ』
「イエッサー」
いつも通り、通話を繋ぎながら途中のスーパーでお買い物。
通話しながらだと、チラシをチェックしつつ冷蔵庫の中身を雄夜が確認してくれて効率が良いのだ。
二人で一緒に買い物する方がもちろん好きだけどねぇ。
ぱっぱと買い物済ませて、帰宅!
もう夕方はかなり涼しくなってきてて、汗だくで帰宅って感じの気温ではない。季節は秋に向かってるねぇ。
「ただいまっそー」
「おかえりんぼ」
「今日のご飯何ー?」
「麻婆茄子。すぐ作るから手洗いうがいキめて待ってて」
「イエーイ」
買い物袋を渡して……僕はさっさと洗面所へ。
手洗いうがいをキめなくてはならぬのだ! 美味しい美味しい雄夜のご飯のために!
* * *
今日もご飯が美味しゅうございました。
満ち足りた気持ちでログインします。
ゲーム内朝食を済ませて、拠点の皆に気になる事や連絡事項が無いか確認すれば、あとは待ちに待った読書の時間。
「……二人一緒に読めないかなぁ?」
「うん? あー……」
1人ずつ交代で読むのは時間もったいない気がして。
……そこで僕らは苦肉の策を使った。
まずは、大きめのゆったりしたソファーを用意します。
そこに相棒がまず座って、その足の間に僕が相棒を背もたれにするみたいな姿勢でペッタリくっついて座ります。
そして片手で一緒に『失われた言語』を掴みます。
あとはもう片手を使って、読みたい本のページを送れば……二人同時に読めるのでは?
「……相棒読めるー?」
「うん、読めてる。相棒、姿勢辛くない?」
「なんともないよー」
ふふ、思いがけず幸せ読書のためのバカップルフォーメーションが確立されたぞ! これが有効なんて、エフォの判定はバカップルに優しいね!
背中に感じる相棒の胸板。
自分の頭の横からニュッと本を覗き込んでくる相棒のカッコいい横顔。
回された腕の中に収まっているという、肩幅の違いを感じる居心地の良さ。
包まれている温もり。
ああ〜〜……最っ高!
「なんで相棒はこんなにカッコいいの?」
「俺のカッコよさは相棒の可愛さに比例するから」
「マジでー?」
軽口を叩きながら読書タイム開始。
* * *
『いつかどこかでこの書を読む者へ』
読めなかった本は、そんな出だしで始まっていた。
『我らは魔術の探求者』
『様々な世界の叡智を求め、蒐集していた者』
『そして私が最後の一人』
『私もまもなく終わりを迎えるだろう』
『この書を読み解く事が出来た者よ、どうか我らの宝を、引き継いではくれまいか』
最後の一人さんは、皆で集めた沢山の資料が、このまま誰もいない所で朽ち果てるのはあまりにも惜しいと嘆いていた。
見る人が見ればとても役に立つ物ばかりなのに、もったいない。本の損失は知識の損失、すなわち世界の損失だ。
そんな感じの事をつらつらと。
『我らは塔に魔法をかけた』
『例え人の手が入らずとも朽ち果てぬ魔法を』
『例えどれほどの時が経とうとも色褪せぬ魔法を』
『例え星が落ちようとも打ち砕かれはしない魔法を』
『……ちとその影響で魔法や資料が野生化したが、まぁ大した問題ではあるまい』
あ、知ってる。それ大丈夫じゃないやつだ。
『とはいえ、その価値のわからぬ者に我らの宝を晒すつもりも無い』
『私は、我らの物語をこうして記し、様々な世界の次元へ放つ』
『この書を読み解いた者よ』
『汝が我らと同じ、魔術の叡智を求める者ならば』
『我らの塔を呼ぶがいい』
『塔を呼ぶだけの知識と力があるならば』
『それを我らの宝を得る資格としよう』
『これより後に、塔を招来する儀式の手順を記す』
『いつかどこかでこの書を読んだ者よ』
『どうか汝が、我らと同じ、魔術の叡智を求める者である事を祈る』
……それ以降のページには、塔を召喚する儀式の方法が事細かに書かれていた。
「……これはあれだね、『挑戦者求む!』ってやつ!」
「あるいは、『里親募集中』」
儀式の方法にもひと通り目を通して本を読み終える……と。
──クエスト『魔術塔ダンジョンの招来』を受諾しますか?
──注意:このクエストはソロプレイでのクリアが不可能です。
──必須条件:【召喚魔法】スキルレベル30以上のプレイヤー7名
「「……なるほど」」
読んでわかったけど、『儀式』なんだよね。
すごく大規模な話だったから、そりゃソロプレイじゃ無理だわ。