ユ:商売人の本気
レアアイテムが出てくる可能性が高いフリーマーケットで、一番気合いが入っているのは誰だろうか。
楽器を演奏しながら、俺はやってくる客に目を向けつつそんな事を考えていた。
どんなゲームでも、装備の数値のコンマ1の差にもこだわる高レベルガチ勢がまぁ一番熱心な所だろう。
あとは……とにかくデータを欲する考察勢。
最高の一品を目指す生産ガチ勢。
……そして、売買をメインとして遊んでいる、商人ガチ勢といったところか。
なんなら高レベルのガチクランは活動資金や消耗品の管理担当として商人が所属していたりするから、結局は商人で。生産ガチ勢は仕入れだのの関係で半分くらいは商人だったりする。
……となると、初心者には確かに役立つアイテムを揃えやすいフリーマーケットなのだが、ガチ勢にとっては早朝の市場みたいな存在になるらしい。
つまり……俺達同盟が固まっている所に最初に押し寄せたのは、そういうガチ勢商人の集団だった。
「『マナの果実』はお一人様1個までなー」
「『夢繋ぎのMPポーション』を下さい」
「星屑詰め合わせ……はいどうぞ」
「は、はい。麦ですねっ……ま、まだたくさんあるので……慌てずに……」
チャットしたりメモを取りながら商品を吟味する黒マント集団。
服装は全員ショッ◯ーなんだが……たまにペンを耳に引っ掛けようとする癖が出てたり、おもむろに算盤弾き始めたり、買った品物に慣れた感じで日付や注意事項を書いたタグをつけてたりするからわかりやすい。
「ロマン砲が撃ちたいかー!?」
「「「「オオー!!」」」」
お一人様何個までの限定販売列に並ぶシ◯ッカー達は大興奮でそんな雄叫びを上げている。なんの決起集会だ。
そんな有様でも『全部売れ』とか『出所を教えろ』とかのマナー違反者が出ていないのは……戦隊の1人がずっと俺達の同盟の近くに陣取ってくれているからだ。
真っ赤なマントを羽織った、戦隊レッド。
デカい肉叩きのような武器を担いだ存在感の凄まじい真っ赤な戦士が、持参した椅子にドッカリとヤンキーのような座り方をして同盟露店の客達に顔を向けている。
(用心棒って感じだねぇ)
(それだ)
客がいちゃもんつけて来た時に『やっちまって下さい先生!』って言われて出てくる凄腕。そんな雰囲気がある。
売買の隙を縫って、相棒が知恵の林檎を1個、戦隊レッドに差し入れした。
レッドは礼を言ってそのままムシャムシャと食べて……
「……『世界で一番高い山の頂上には、力試しを望むドラゴンがいる』……だと?」
若干殺気を滲ませた声で呟きながら立ち上がりかけたところへ、ちょうど通りかかった戦隊ホワイトにハリセンで叩かれて椅子へ戻されていた。
なるほど、あれがスレで言われていた戦隊の脳筋枠のレッドか……
「ふむ、一番高い山の頂上か……興味があるな!」
「は、はい。ちょっと楽しそうです」
「マジで?」
まぁ、どこの山なのかはわからないんだけどな。
* * *
さて、商人達が張り切っていると言えば、あの人を除外する事は出来ないだろう。
そう、行商人パピルスさんだ。
とはいえ、パピルスさんはこういう場所で名乗って来たりはしていない。単純に俺が声で気付いただけだ。
「全ての商品を5個ずつ、購入制限のある物は制限内の数でお願いします」
パピルスさんは、俺達同盟メンバーの店の全部でこれをやった。
並んでいるプレイヤー達はざわついた。
……というのも、今回の出店ではド根性ブラザーさんがサプライズでとっておきを持ち込んでいたからだ。
「ほほう、面白い! 自分の露店でもその注文をするか!?」
「しますとも」
「いいだろう! この商品はお一人様2機までである! リリーの貯蔵は充分か!?」
「受けて立ちましょう!」
ド根性さんのとっておき。
それはなんと……ゴーレムの実機。
大きくて布に乗らないからスペックを書いた看板だけが置いてある代物だ。
ド根性さん曰く、『おそらく分解して構造を理解すれば、ゴーレム関係のスキルを得られるであろう!』との事。『真にゴーレムを欲するのなら、そうして技術を得てもらいたい!』らしい。
その旨が看板にも書かれていたもんだから、一部のプレイヤー達が張り付いて動かなくなっていた。
だったら売れ筋になっていてもおかしくはない……と思うのだが、このゴーレム、とんだ金食い虫らしくお値段がとんでもない。
MMOで時折出てくるM……いわゆる100万にゼロがもう少し並ぶ桁という高額商品。スポーツカーかよ。初めて金額見た時吹き出した。
それを、2機。
……ド根性さん曰く、分解するなら完成品がもう一つあった方がいいだろうという理由でお一人様2機までの購入制限なのだが。そもそも誰が買えるんだってお値段だった。
フリーマーケット特別価格として、NPC売却価格と同額設定だから破格ではある。
使われている素材はピリオノートでも揃えられる物ばかりらしいが、なにせ金属も石材もそこそこの高級品を大量に使用している。そのせいで素材換算しても納得できる金額ではあるらしい。
だがそれでも。
サービス開始からそろそろ半年。
高レベルプレイヤーが扱う生産職渾身の逸品にモンスターの超レアドロップ稀結晶を付与した装備よりもゼロがひとつ多い感じだ。
看板に張り付いているゴーレム好きらしいプレイヤーが血の涙を流す勢いで悔しがったり、借金の申し出をしようとしていたりと、中々にカオスの種だったそれ。
そこへやってきた堂々の行商人パピルスさんである。
パピルスさんは値段を確認し……フッと息を吐いた。
「2機、このお値段そのままで購入しましょう」
「「「マジで!?」」」
「ハッハッハッ! 値切りも無しとは気に入ったぁ!」
ド根性さんは立ち上がり、露店の無い開けた場所へ移動する。
そして、大勢のプレイヤーが見守る中で、商品のゴーレムがズシン!とインベントリから取り出された。
──おおおおおおおおおお!!
──パチパチパチパチパチパチ
歓声と、何故か溢れる拍手。
ド根性さん曰く石と金属で出来た基本のゴーレム。
何度見てもデカいな……というか、ド根性さんが乗ってたサイズだから余計にデカいんだろうな、アレ。
まるで何かの記念式典のように、大勢のプレイヤーの拍手に包まれながらゴーレムの購入と引き渡しが行われた。
「……ただいまー? なにこれー?」
「あら、おかえりなさい」
「え、ええっと……高額商品の、引き渡し式? でしょうか?」
「なるほどわからーん」
出店しないからと適当にぶらついて軽食を買ってきてくれた夾竹桃さんは、謎の突発式典に呆然としていた。




