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キ:夏のイベントの終了


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 今日は夏のイベントの最終日。

 ポイント交換はもう少し猶予があるから、ギリギリまで稼ぎたい人にとっては最後の追い込みの日。

 でも僕らを含めそうじゃない人にとっては、最初の帆船の進水式と、港の完成記念式典。


 今回のイベントは『???』表記だったとはいえちゃんと襲撃が予告されていたから、最終日にボスが来るような事は無いと思う。

 だから僕も相棒も変装していない状態で、2人のんびり港に転移した。


 港に着いて最初に目に入るのは、すっかりお馴染みになった新聞売りさんとその荷車。

 ……ただ、今日は別のモノがやたらと目立っている。


「出張露店広場……だよね? あのひとだかり」

「たぶん?」


 露店広場の入り口近くに、アイドルでもいるのかな?って感じの熱狂した人混みがあった。

 近付きたくなさそうな相棒に苦笑いしつつ、遠目に少し観察してみる。


 ……人混み、ほとんどがエプロン着けてる人だなぁ?

 あと、お店に和風なのぼりが立ってる。


 人の壁を掻き分けて出てきた誰かが、ホッと一息つきながら嬉しそうな顔で、外で待っていたらしい数人の所に駆け寄るのが見えた。

 何か話しながら取り出したのは、小さな樽。

 ファンタジーでよく見るワイン樽の小さいようなやつじゃない。

 外側に縄が巻かれた、和風な樽だ。


 ……和風な樽?


「はいはいはいはい、お買い上げした方が出られるように、ちょっと開けて差し上げてくださいましー!」


 店の店主が声を張り上げる。


(……あの声、金魚鉢買った店の人かもしれない)

(マジで?)


 耳がいい相棒がポツリと念話をこぼす。

 それを肯定するみたいに、人の波の合間にピョコンとキツネの耳がチラ見えした。


「味噌樽と醤油樽! お一人様どちらか一点限り! きちんと並ぶ並ぶー!」


 おおー、味噌と醤油売ってるんだねぇ。

 そうだね、小さめの和風の樽って、僕は味噌醤油か漬物とかが入ってるイメージが強い。

 そっかー、エフォ(EFO)で完成させた人が出たんだね。

 ってことは、周りのエプロン集団は料理人かな?


「クラン『風雅ノ和』が、遠い遠い和風の開拓地より、皆様に初物をお届けですよぉ! 港も出来た! 船も出来た! どうぞ冒険者の皆々様! 我らの街を探して、訪れてくださいませー!」


「おおー、面白い街の宣伝だねぇ」

「だな。料理人は欲しがるだろうから、船出するプレイヤーは増えるかもしれない」


 それにしても、本当に日本人はどこに行っても味噌醤油が欲しくなるよね。

 異世界物のネット小説読んでてもそうだし、なんなら開拓系のゲームで日本人がMOD作ると大体和食を追加するMODが増える。

 僕らも海鮮焼いてると醤油が欲しかったし。

 もう日本人のDNAに刻まれているのかもしれない。


「相棒も欲しい?」

「欲しいけど……あの中に買いに行きたくはないな……その内でいい」

「だよね」


 知ってた。



 * * *



 たくさんの人々に見守られながら、最初の大型帆船が丸太の上を移動して……ザブンと海に着水した。

 盛大に上がる歓声と拍手。

 NPCの船大工達も嬉しそうに笑っている。


 無事に船が海に浮かぶと、ピリオノートから式典のために来ている騎士団長や魔術師団長さんの挨拶とお話が入る。


 この港は、ピリオノートの南にある事と、蛇精霊の住まう大森林の中にある事、さらに一番近い街の名前が『サウストランク』である事を踏まえて、『サウスサーペント港』と名付けられる事。


 同時に大森林も『サウスサーペント大森林』と名付けられた。

 その恵みを賜り、精霊と友好関係を維持するべく、無闇な伐採を控えて共存を目指すんだって。

 その一環として、なんと『サウストランク』の開拓者である行商人パピルスさんが、街を上げての取り組みを語った。

 色々出資してたりするのかな? なんかピリオ近郊の開拓地は、街作りゲームから街の運営ゲームに段階が移ってる気がする。


 開拓はこれでますます勢い付くだろうから、冒険者の活躍にこれからも多大な期待を寄せている。

 ピリオノートの命令が無くとも、街道を敷き、航路を開拓し、物流を発展させる事を推奨する。

 そんな感じの内容でお話は締めくくられた。

 そういう形で貢献したプレイヤーには、何かご褒美があるのかな。

 さっきの和風クランが味噌醤油を売って発破をかけていたし、冒険者ギルドの地図は一気に広がりを見せるかもしれない。


 式典は、浮かべた新しい船に不具合が無い事を確認できたから、聖女と聖人が祝福を与える儀式に移った。


 この世界の主神である生誕の神と開拓の神。

 二柱の聖女と聖人による厳かな儀式。

 そして儀式が終わった後に、船の側面の布で隠されていた所がバッと公開されて、刻まれていた『メンメン号』の文字が露わになった。


 メンメン号はピリオノートのNPC所有の船。

 普段は兵士達が訓練に使って、有事の際に必要に応じて出港する。

 帆船がどんな感じなのか見学させてもらう事も出来るみたい。

 船は何かの要因で破損した場合、ある程度なら修理は可能。

 でも大破してしまったら【壊れた船】っていう造船所でしか取り出せないアイテムになって、インベントリに入っちゃうんだって。

 でも消滅しないのはありがたい仕様だと思う。


 今後の造船所は、イベントでポイント貯めて申し込んだプレイヤーの船をまず優先して作られる。

 それ以降はお金を払って注文もできるし、材料持ち込みならその分は安くなったりもする。

 やろうと思えば港の土地を買って、造船所そのものを作る事も一応出来るっぽい。いくらくらいかかるのかはわからないけどね。


 そんな感じで、夏のイベントは終わり。

 僕らプレイヤーには、船と大航海がアンロックされたのだった。


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― 新着の感想 ―
パピルスが着々と成り上がり商人になっててすげえ……おまえはどこまでいくんだ……。 20話掲載あたりから読み始め、それ以降ずっと今年一番、更新が楽しみな小説でした。 大変読みやすいので、頻繁に頭から読…
拠点の森素材で船作ったらどうなるのか気になる
夏イベ終了で今年も終了、楽しい話をありがとうございました 来年も楽しみにお待ちしています
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