ユ:熱き想いとリサイクル
俺達が装備を受け取って帰ってくると、相棒がハロウィンのカボチャランタンのイラストを片手に、鳥籠に向かって熱弁を繰り広げていた。
「ジャック・オ・ランタンの伝承のひとつに『飲んだくれの鍛冶屋のウィルがあの世行きを拒否されてウィル・オ・ウィスプになり、カブのランタンに憑依して彷徨っている』ってモノがあるのよ。もちろんキミはステキな夢を持つ生まれたてだから飲んだくれは当てはまらないけど、でも鍛冶場出身の縁は感じると思わない!?」
「本当だナ! ご近所だナ!」
「本家本元スコットランドのランタンは白いカブ製で、カボチャのランタンはそこから伝わったアメリカの伝統なんだけど。僕はアメリカのオレンジ色したカボチャのランタンが大好きなんだ! まず色が可愛い! 昼間でも目立ってポップな感じがお祭り感出て最高だと思うのよ! そして夜中に火を入れると、今度は逆に外側が夜闇に沈んで黒くなって、そこに内側のオレンジ色が火に照らされて浮かび上がる! 昼と夜とで反転する感じがたまらんのさ!」
「そーなのカ! オレンジ色って火の色だよナ! オレの色! 火はイイゾ!」
「ここからは完全に僕の勝手な妄想になるんだけどね。ゲーム的に考えるなら、ジャック・オ・ランタンはカボチャで出来ているから『草属性』が、そしてランタンで火を入れるんだから『火属性』も、さらには夜闇を照らすランタンなんだから『闇属性』も『光属性』も、死者にまつわるお祭りのモノだし更に言うなら鍛冶屋のウィルっていう武器にまつわる伝承もあるくらいだから『死』の属性も持ち合わせているって僕は思うわけよ! こんなに妄想で属性盛り盛りできる上にカワイイしカッコイイわけで、つまりジャック・オ・ランタンは最強なわけ!!」
「ウオー! 最強ー!」
……俺は盛り上がる相棒を横目に、骨の鳥籠の中でパカーッとクチバシを開きっぱなしのフッシーの所へ行った。
「ただいま」
「……おお、ご主人。我、主の意外な一面を見たぞ」
「かわいいだろ?」
「…………そこでその言葉が出てくるご主人も大概よな」
「人の子よくわからん……」
なんでだよ。楽しそうな妻かわいいだろ。
「で、相棒は何と話してんの?」
「う、うむ。あの籠に呼んだ新しい霊魂よ。……見えるか? あの小さい火だ」
「……小っっさ」
「先程まで未練でめそめそと泣いていたのだがな、何やら意気投合して今はあの有様よ」
「そっかー」
フッシーから、小粒の身の上話を聞く。
……ブリックブレッド? なんかスレで見た名前だな。
β時代のプレイヤー開拓地はリセットされて残ってないって話だけど、多少の影響はあるって事なのかね。
「あ、相棒おかえりー」
「ただいま」
ハッスルしていた相棒が戻ってきた。
森の木で編んだ鳥籠を嬉しそうに持って来る。
「見て見て! 新しいオバケのジャック!」
「ジャック、ダ!」
「へぇー、ジャックって事はカボチャになるの?」
「そう!」
「ソウ!」
「ノリノリじゃん」
お互い合意の上なら俺から特に言う事はないよ。
「マスター、この人ダレ?」
「この人は僕の愛する旦那様です」
「旦那サマ! わかっタ!」
わかられた。
俺は苦笑いしながら、改めてジャックを確認してみる。
ジャック Lv1
カボチャオバケ見習い
……見習いになってる。霊に職業ってあるんだな?
俺はなんとなく気になって、他二体も見てみた。
フッシー Lv32
不死鳥の霊
ネビュラ Lv10
死の狼精霊の分け身
……ネビュラはいい。Lv10なのは俺に合わせた結果だ。
だがフッシー、お前はダメだ。だいぶ高い。やっぱり初回襲撃のランクが上がったのはフッシーの影響もありそうだ。
「……早めにレベル上げしような」
「ジャックの?」
「そう……レベル上げできるよな?」
「出来るぞ。主が杖の籠に入れて持ち歩けば、共に経験値が入る」
「あ、そういう仕組みなんだ」
なるほど、持ち歩きには育成できるってメリットもあるんだな。
フッシーが言うには、籠に入れずに持ち歩くのはやめた方がいいらしい。霊魂は不安定な存在だから、変な物の影響を受けたり、何かに引っ張られたりしてしまうかもしれないそうだ。
「ジャックは火が得意みたいだから、森じゃない方がいいかな?」
「今度の休みにでもダンジョン行こう」
「ダンジョン! あるんだ?」
「もう結構見つかってるらしい」
「おおー!」
次の休みの予定が決まったな。
それまでにある程度ダンジョンの情報を仕入れておこう。
このゲームのダンジョンはパーティ別のマップに入るから他プレイヤーに会う心配も無い。安心だ。
「相棒、今着てるのが新しい装備だよね?」
「そう」
「滅茶苦茶かっこいい!」
「どーも」
じっくり俺の全身を眺めていた相棒が、俺の口元に目を止める。
「そのマスクは装備品についてきた感じ?」
「うん」
「じゃあアクセ枠一つ空いたんだ?」
「そう、空いた」
「じゃあマント着れるかな!?」
マント?
俺が疑問符を浮かべている間に、相棒はインベントリからずるりと葉っぱの塊を取り出した。
「……モ○ゾーなりきりセットじゃん」
「そう」
相棒は裁縫道具を取り出すと、鋏でジャキジャキと惜しげも無く葉を縫い付けたローブの一部を切っていく。
「【裁縫】!」
切った所を縫ったり帽子を改造したりスキルをつかったりしていくうちに、それはローブではなくなっていた。
【微睡の森の隠れ身マント】…物理防御+1
微睡の森の木の葉を大量につけたマント。
微睡の森にいる時に限り隠密にボーナスが入る。
製作者:キーナ
「迷彩装備じゃん」
「そう。相棒使うかなーって」
「……ありがとう」
「……そんな渋い顔するほど嫌なら無理しなくていいよ?」
「嫌ではない。めっちゃ効果ありそうなのがなんか悔しいだけ」
「なんでさ」
スレでモ○ゾー扱いされてた装備に対する複雑な男心だよ。
この後、ログアウトするまでマントを使って森で狩りをした。
やたらはかどった。




