キ:臨機応変に連行されます
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今日はいよいよ夏の海イベント大詰め。
港の使徒襲撃防衛戦。
今回の襲撃は少し特殊で、日曜日のイベントだから昼の部と夜の部がある。
日曜昼間のプレイヤーは建築系メインのプレイヤーが多いらしくて、魚型のモンスターを間引きながら、日曜夜の部に打って出るための小舟を作っていたんだって。
素材や刻印で強化されて、ちょっとやそっとじゃ壊れない。そして推進魔道具をつけて素早く動ける戦闘用の小舟。
夜の襲撃ではこれを使って、腕に覚えのあるプレイヤーが海の上に突撃する。
ムービーで見た結晶は、奈落の時みたいに巨大化して海の上まで浮かんできた。
そこには『咀嚼のフランゴ』もいて、海上でのガチバトルになるっぽい。
船に乗らないプレイヤーは、港へ押し寄せる大量のモンスターの迎撃。
僕らは日曜日は昼間お仕事だから、必然的に夜の部の参加。
変装して、今日はせっかくだから、行ける子みんな連れて行こう。
籠に入れるオバケは……コダマ爺ちゃんと、ネモと、フッシーかな。バンは今回なら召喚するチャンスがあるかもね。
相棒もネビュラとベロニカを連れてきた。
「僕らはどっちに行く? 海の上? 港?」
「まぁ、臨機応変に」
「オッケー」
そうして降り立った港の広場。
夜の部はリアル夜9時から開始。
時間的にはリアル5分前だから、ゲーム内だと15分前。
周囲はバタバタと人が走り回っていて慌ただしい。
まだ開始前のはずだけど、敵影はもうそこまで来ているのか、海に向かって魔法を撃っているらしいのが遠目にもわかった。
ジャック達三兄弟は船の上だと全力が出せないだろうから、港防衛についてもらう事にして送り出した。終わったら転移オーブの所で待ち合わせだよ。
歓声を上げて海岸へ向かう3人組。
NPCだけど死んでも問題ないキャラは、こういう時にプレイヤーと同じような戦力として扱えるからありがたいね。放流しても大丈夫。
……さて、僕らはどうしよう。
とりあえず海辺の様子を見て、港の防衛人数が少なそうだったらジャック達と一緒にやろうかなー
なんて思っていたら、僕らのすぐ隣にかなりの大所帯が転移してきた。
ついそっちを見た。
とある一人と目が合う。
……いや、厳密には僕の目は仮面で見えてないんだろうけど。
少なくとも、白い仮面と黒い兜でお互いの顔に目線が向いたのはわかった。
「良い所にちょうどいいのがいるじゃねぇか」
目があった黒鎧……ガルガンチュアさんが僕らを見て嬉しそうな声を出す。
「そこの森夫婦、まさか港に残ろうなんざ思ってねぇだろうなぁ? お前らが海の上で動けるって話は聞いてんだよ。だから俺らと来い」
「「アッ、ハイ」」
どうしようか迷ってた所だから、来いと言われるなら特に否やは無いでありまぁす!
* * *
成り行きでガルガンチュアさん御一行と、パーティは別だけど同行することになった僕達は、一緒に港に準備されている小舟に向かう。
入り江になっている所は魚型のモンスターが攻め込んで来ているから、少し離れた海岸に用意されてるんだって。
僕らが生前のバンとファーストコンタクトした辺りだね。
……おー、あったあった。
見た目は後ろにエンジンの付いたボートに近い。
それが何艘か砂浜に並べられている。
それぞれ3,4人で一組になってボートを押し出し、跳び乗って手早く推進魔道具を起動。
前に湖の街で見たスワンボートの緊急加速みたいな速度で、ボートは沖へ向かって出発した。
……そして、何故か僕らはガルガンチュアさんとボルシチさんが一緒のボートに乗せられている。
なんで???
だってガルガンチュアさんのクランって、ガルガンチュアさんがボスでしょ?
ボスの乗る船とか、クランの中でも実力者の証って感じになるんじゃないの? 余所者乗せたらクランの人達『ギリィ……』ってならない?
「なりませんよ? ボスは戦闘始まると人使いの荒さが10倍になるんで、むしろ同情されます」
マジで?
周りの小舟を見たら、そっと合掌する人が何人かいた。生贄かな??
「いいか? 俺等のクランは魔法メイン以外は重装備の重い武器が多い。これは海だと致命的だ。水中に落ちたら動きが重くなるわ遅くなるわでろくに戦えねぇ」
あー、確かにピリオ襲撃のムービーでガルガンチュアさんと一緒に波状攻撃してた人達は、ガチガチの鎧が多かったかも。
「だから出来れば有利な環境に位置取りして戦いてぇんだよ。お前らはそれをなんとかしてくれ」
「なんとか、とは?」
「やり方は任せる」
それ丸投げって言わない???
「諦めてください。これがうちのボスです」
「「あー……」」
察し。
「昼の部の情報によれば、フランゴは海面より上に浮かんで結晶を守っているそうです。なので、我々は出来ればそいつと結晶を相手にしたい。……最悪、海に落ちたのを速やかにリカバリーして貰える感じでも助かります」
「なるほど」
……ようは、足場が欲しいって事で良いのかな?
それならまぁ、確かに僕がなんとか出来るかも?
ボートは海を進んで、巨大な結晶に近付いていく。
結晶の周囲で弾ける魔法。
断続的に柱みたいに上がる水飛沫。
僕らより先に出ていたらしいプレイヤーは、もう既に戦闘に入っている。
フランゴとメインで戦っているのは鳥系獣人。
定期的に船で休憩が必要みたいで、中々数で押し切る事が出来ないでいるみたいに見える。
周りの海では人魚やボートに乗ってるプレイヤーが、海中から襲いかかってくる魚をひたすら減らすことに注力していた。
敵が湧く結晶の近くだから、倒しても倒しても敵が減らない。
そしてボートに乗っている高レベル近距離プレイヤーが戦力になっていないのがすごくもったいない。
……うん、理解した。
その火力を使い物にするのが僕の仕事だ。
「ネモ!」
クスクス
ケタケタ
楽しげな笑い声を上げながら、コウモリの群れが籠から飛び出して、黒い半透明の足場を作る。
広さを重視。
薄く、広く、とにかく広く。
防壁じゃないから乗れればいい。
多少割れたら埋め直す前提で、でも重装備のプレイヤーを支えられるように。
海の上、ボートに乗った僕らより少し上の高さに、即席の足場が広がった。
「ハハッ、最っ高だ! ボルシチ! その夫婦守ってろ!」
「了解」
広がった足場に驚いて、こっちを見つけた使徒のフランゴ。
忌々しそうな顔をして突進しかけたのを、足場の上へ飛び出したガルガンチュアさんが槍斧で激突するように受け止める。
「久しぶりだなぁ……テメェとやり合うのを待ってたぜぇ!!」
「貴様ッ!」
使徒をガルガンチュアさんに任せるように、ボルシチさんの操縦するボートが急加速した。
僕が足場を維持しているのは敵も分かっているんだと思う、明らかにこのボートを狙って歪な魚が執拗に追ってくる。
ボートから足場へ続々と上がる高レベルプレイヤー達。
その中に、見覚えのある顔が何人か見えた。
「戦いやすくて助かりますわ。支援と回復はお任せを」
「氷で足場作ろうとしても魚に砕かれて困ってたんだよねー」
「あれが噂の使徒とやらか、相手にとって不足無し」
お嬢様、レースに出てたヒラヒラした紺色のリボンが可愛い氷の人、スイカを斬ってたお爺ちゃん。
すごーい、有名人のオンパレードだ! 名前思い出せないけど!
「相棒、MPポーション忘れずにね」
「そうだった! ありがとう」
危ない危ない。
僕がMP切らしたら皆バラバラ海に落ちちゃうからね。
そこへヒュンと飛んできて僕らの船に乗り込んだのは、小さくて可愛いフェアリーちゃんが二人。
「初めまして。実況妖精パロットちゃん☆です!」
「お久しぶりです。実況妖精ウグイスちゃん☆です」
あ、レース会場とかでも見た実況配信やってるフェアリーちゃん達だ。
「こちら戦線維持の重要ポイントとお見受けしました。情報伝達を兼ねて、このまま同乗させていただきながら配信をしてもよろしいでしょうか?」
「クラン『グリードジャンキー』は問題ありません」
「えーっと、僕も特に問題ないです」
「……どうぞ」
「ありがとうございます!」
「はぁい! こちら公式公認配信アカウントの実況妖精チャンネル、海上の敵本陣よりお送りいたします!『実況妖精パロットちゃん☆』です!」
「『実況妖精ウグイスちゃん☆』です。よろしくお願いします」
特等席で始まる戦闘の実況配信。
さぁ、いよいよフランゴ戦!
使徒とのガチバトルの始まりだー!




