キ:花火の材料集め
『夏と言えばホラーだよね!』みたいなクエストが終わって、僕がしばらく人物画を直視出来なくなった以外は、いつも通りに日々は過ぎていった。……ね、僕が雄夜にくっついたり抱きしめてもらったりしながら寝るのなんていつもの事だし……
水耐性素材もある程度確保できてるし、なんだかんだ増えたポイントで声変わりシロップも補充済。
だからしばらくは2人でのんびり海釣りしたり。釣った魚を拠点で皆で料理して食べたりと楽しんだ。
バンは食べ慣れてる魚が料理された事で新境地に至って嬉しそうだったし、マリーが予想外に魚料理に食いついたりして楽しかった。
そんな感じで夏は過ぎていき、イベントも後半。
なんとなく買い物ついでに港のテントを覗いた僕は、面白そうなクエストを見つけた。
「『花火用の花の納品』?」
思わず声に出した僕に、クエスト受注担当の兵士さんが反応して詳しい内容を説明してくれた。
「花火とは、生花と【火魔法】を一緒に石に封入する魔道具なんだそうです」
「へぇー! そうだったんですか」
「そうなんですよ。なので、花火大会や港と船の完成セレモニー用に、花の納品をお願いしているんです」
「どんな花でもいいんですか?」
「なんでもいいですよ。花火職人が言うには、小さい花をたくさん詰めた物も綺麗らしいので。ただ、やはり大輪の花の方が見栄えはするので、小さい花より少し報酬は良くなります」
「なるほど」
ファンタジー世界の魔法の花火用の花集め。
メルヘンですねぇええ! 大好きそういうの!
こうしちゃいられねぇ!
僕はクエストを受注してまっすぐ転移オーブに走り拠点に帰還した。
「相棒! 相棒! 花集めに行こう!!」
「はいはい、今度は何を見つけてきた?」
ちょうどベロニカのレベル上げから戻って来た相棒に、受注してきたクエストの詳細を説明した。
「だからどこかに花探しに行こうよ」
「なるほど? ……【草魔法】で出した花でも有り?」
「なんでもいいって言ってたからそれでもいいかもだけど、せっかくだからエフォの花を探してみたい」
「うん、わかった」
そうと決まれば、1回ログアウトして花が多そうな場所を有志wikiで探す。
「花か……『花畑が綺麗な観光向け開拓地』じゃないな?」
「うん、それはなんか違う」
そういう所で買ってもいいんだろうけど、僕がやりたいのはそういう事じゃないなぁ。
前に夜の遠出で花畑を見つけた時みたいに、自然の花が多い所を見つけて、景色を楽しみつつ採集したい。つまりはメルヘンっぽい雰囲気を満喫したいのだ。
「……じゃあこことかは?」
「どれ?」
「ピリオノート南西の高台、プレイヤー間では『草系オープンダンジョン』って呼ばれてる」
「オープンダンジョンって何?」
「ダンジョンじゃないのに特定のモンスターが固まっててボスみたいなリーダーもいてダンジョンっぽくなってるからそう呼ばれてる所」
「へぇ~」
なんか面白そう。
スクリーンショットを見る限り、確かに花がたくさん咲いている。
「ただし、ダンジョンじゃないから専用フィールドにならない。つまり【火魔法】で周りが延焼すると放火扱いになるから、火は使えないって思った方がいい」
「なるほど」
ここがなんとなく記憶に残ってる『【火魔法】訓練に使えない草系モンスターの根城』かぁー
まぁ今はね、僕らも強くなって選べる攻撃手段が多くなってるから、どうにでもなるでしょ。
「じゃあここに行こう!」
「オッケー」
まずは準備をしないとね。
wikiによると、草属性のモンスターは毒を筆頭に肉体デバフの攻撃を使ってくるのが定番らしい。だから強靭のステータスが低い場合は肉体デバフ対策の薬や装備が必要。
……相棒はともかく、僕は強靭も死んでるから必須かなぁ。
何はともかく、買い物が必要だね。
再びのログインをして、港に行こう。
変装は……別にいらないか。
草系オープンダンジョンは、ダンジョンじゃないから専用フィールドにならない。夏イベントで海が熱いとはいえ、誰かがいる可能性はゼロじゃないけど……別にポーションなんかありふれた物だし、装備も見えない所に着けられるような物はいっぱいあるからね。
相棒と連れ立って、港の出張露店広場へ。
この露店広場、夏イベントが終わったら魚とか海の物の市場になるらしい。植物の屋根もそのまま使うんだって、新聞に書いてあった。なんか嬉しいね。
露店は海で戦うための物や海素材が多いけど、時々それ以外の必需品も並んでる。
そういうのを探して露店を眺めていると……
「あ、グレッグさんだ」
「……どうも」
「おう」
さすがに僕もそろそろ名前を覚えました。グレッグさんの店があった。
「今日はどうした、探し物か?」
「草系の根城に遊びに行く準備中です」
グレッグさんは「ああ」って納得して頷いた。
「南西の高台か?」
「ですね」
「2人とも強靭いくつだ?」
「僕が10で、相棒が30くらいです」
「旦那の方はギリギリいいとしても、10はダメだな」
デスヨネー
グレッグさんは肉体デバフ対策のアクセサリーとポーションを出してくれた。
アクセサリーは石のついたサークレット。
南西高台の植物系は、主に粉を撒き散らしてデバフをかけてくるから、風魔法で顔周りをガードするんだって。
「もちろん刺されてデバフを受ける時もあるがな……ほら、こっちはポーションだ」
ポーションは2種類。
毒の予防薬と、肉体デバフの解除薬。
「予防薬なんだ」
「毒貰う度に毒消し飲んでたらいくつあっても足りんぞ」
そりゃそうか。そういうのがわんさかいる所なんだもんね。
ひと通りお買い上げして準備は万全。
グレッグさん、ありがとうございました。




