ユ:幽霊少女の強い訴え
その少女は、幼い頃にたちの悪い流行病にかかってから身体が弱くなり、何度も病気になって長く闘病した末に亡くなったらしい。
「死にたくない死にたくないって思ってたら、宝物のブローチに取り憑いてたわ。ママがそれを着けて色んな所に連れて行ってくれたから、私は満足だった……それを! あんのガマガエル男!」
少女いわくガマガエル似の悪徳男爵は、彼女の母が着けていたブローチに目を付けて、あろうことか盗み出してしまった。
当然少女はそれに激怒する。
「オバケが取り憑いた物を持ち帰って祟られるなんてよくある話じゃない? 病気で動けなかった鬱憤をここぞとばかりに晴らしてやろうと思って機を窺ってたのよ」
悪徳男爵の屋敷には、価値の高い盗品が呆れるほどに集まっていた。
これはもう遠慮のえの字もいらないなと、この開拓地の屋敷に運ばれてから少女がウォーミングアップを始めた時……追加で、ある盗品が持ち込まれた。
「あいつらは『極寒の地で祀られていた御神体のオーブ』だって言ってたわ。『魔力が高い希少品は私にこそふさわしい』って。もう馬ッ鹿じゃないの!? 何がオーブよ! 魔力が高くて当たり前じゃないの! それ生き物だったのよ!?」
それは凍らせる事で封印されていたモンスター……ダークスライムだった。
少女は焦った。
年がら年中寒い土地で維持されていた凍結は、魔法の凍結とはいえ、暖かいこの地へ移された事で徐々に溶け始めている。
あのクソ男爵がどうなろうと知った事では無いが、何も知らない使用人やご近所に被害がでるのはあんまりだ。病気故に箱入りだった少女は、そんな悲しい場面は見たくなかった。
少女は、男爵への復讐の一環にしようと目を付けていた壺を叩き割った。中に大量のポルターガイストが入っているのは分かっていたからだ。
解放した子供達の霊を年上のお姉さんパワーで音頭を取って調子に乗らせ、屋敷で好き放題暴れさせて住人を脅かして追い出した。これで使用人がうっかり遭遇する危険は無くなる。
あとは目覚めたスライムが屋敷から出ないように、子供達に鬼ごっこや的当てをさせて、スライムにグルグルと屋敷を巡回させていたらしい。
「私ってば頑張ったと思わない!? ここまで上手くいったんだから、どうか被害ゼロでモンスターをなんとかしてガマガエル男を牢屋にぶち込んでちょうだい!」
うん、それは頑張った。ものすごく頑張った。
俺達はしみじみと頷きながら少女を慰めた。よく頑張ったな、後は任せろ。
「ああ、これですね。盗品リストにありました。『闇の御神体のオーブ』」
「明らかいわく付きなんだからいわくになった伝説までちゃんと調べろやクソ男爵がよぉー」
情報が出揃った事で、このクエストの全貌が見えた。
(受けたのが初心者だったから……たぶん、ポルターガイストとスライムからギャーギャー逃げながら情報を集めて。男爵の犯罪の証拠を持って、なんとか脱出して城かギルドに駆け込めばノーマルクリアって感じだったのかな?)
(かもね)
少女いわく、オバケ達は館の扉を閉めたりしていないらしい。
つまり、扉が開かなかったのは外にいたゴロツキの仕業だ。
俺達が勝手にオバケの仕業だと思い込み心理的クローズドになっていただけで、実際は窓や煙突からは普通に出られたんだろう。
(【死霊魔法】持ちが入った事で、一番ヤバい存在は亡霊じゃない、ダークスライムっていう生き物だって事がわかるし、少女とポルターガイストの協力も得られる。その上で、どうするかって感じか)
(少女ちゃんのブローチとかは通報ついでにさっさと然るべき所に渡してもいいもんね。あとダークスライムの情報を城かギルドに持ち込むだけでも追加報酬はありそう)
そんなメタ読みをしている俺達は、初心者パーティの三人がどうするかの話し合いが終わるのを待っている。
今回の俺達はあくまで協力者だ。
メインでクエストを受けているのはあっちだから、どうするかを決めるのもあっち。
俺達の事はお助けNPCだと思ってくれって伝えてある。
「……やはり、いくらスライムだったとはいえ、盗品は元の場所へ返すべきでは?」
「まぁそれが一番無難だよね。祀られてた所も、氷漬けのダークスライムがあった事で何かの牽制になってたかもしれないし」
「ってことはダークスライムをまた凍らせないといけないってわけだ」
……どうやら、再凍結する方向で話はまとまったらしい。
さて、それじゃあどうやって凍らせるかの話し合いをしないとな。
俺と相棒は、手札をどこまでオープンにするのかを念話で決めて、作戦会議に参加した。
可能かどうかは分からないが、試してみて損は無いだろう。
(館の中でやるなら、失敗した所で痛いのは男爵の懐だけだろうしね!)
(それな)




