キ:オバケの屋敷へ来てみれば
こんにちは、オバケ屋敷の庭からお送りしております。キーナです。
夏の眩しい日差しの下、時刻は一番暑さが強い気がする14時の真っ昼間。ギンギラギンにあちこち金で装飾された、新築ホヤホヤピッカピカの豪邸が今回の突入先。
……うん、ホラー感は無いね!
無いのにオバケが待ち構えてるってだけで怖いのは、僕がそれだけビビリだって事だから、もうどうしようもないね!
「じゃあ行きますかー」
あっちのパーティリーダーのハンドアウト1さんの呼びかけに全員で頷く。
名前バレしたくないから、パーティは別々。チーム初心者とチーム夫婦の2パーティ。
合鍵を貰っているハンドアウト1さんが、正面の扉を開ける。
新しい扉は……新しいのに何故か盛大に重々しく軋んだ音を立てて開いた。
「建て付け悪くない?」
「新築のくせにぃ」
館の中は、何故か全部の窓のカーテンが閉まっていて薄暗い。
……僕はインベントリから星屑のランタンを出して、紐で杖の先の籠と一緒に吊るした。
ぼんやりと明るさが上がった館のエントランスホール。
広い空間は豪奢な毛足の長い絨毯が敷かれていて、正面には大きな階段。
あちこちに高そうな花瓶や絵画が飾られていた。
ゆっくりと踏み込んだ僕らの背後で、扉は開けっ放しになっている。
……絶対閉まる、絶対閉まる、これ絶対勝手に閉まる……
相棒の腕を掴みながら後ろの扉をガン見していると……扉は誰も触っていないのに勝手に動いて、バタン!と大きな音を立てて閉じた。
「ほらぁ! やっぱり勝手に閉まったー!!」
「……なら何か挟んでおけばよかったんじゃ?」
「確かに!?」
「うん、落ち着いて落ち着いて。判断力が低下してる」
嘆く僕と冷静な相棒のやりとりに苦笑いしながら、探索者Aさんが閉じた扉を調べる。
「開かないです」
「まぁ定番だよね」
「面白くなってまいりました!」
くそぅ、ガチのビビリは僕だけか!
とりあえず広間に固まって探索の方針を話し合う。
「ギルドが聞き取りした内容によると、館の完成まではなんともなかったらしいんです」
「つまり、ヤバいのは後から運び込まれた家具とか装飾品!」
「それをなんとか出来れば、とりあえずノーマルエンドにはなるかと」
うんうん、ざっくり聞いてた分にはそういう感じだったね。
「なので、館が思ったより広そうなので、手分けしていわく付きの品を探す……とかで大丈夫ですか?」
「オッケー、大丈夫です」
うん、そんな心配そうに僕を見なくても大丈夫だよ……いや、ビビリは大丈夫じゃないんだけどね? 相棒がついてればギリギリ生きられると思う……きっと、たぶん、おそらく……
相棒も異論は無いってひとつ頷いた。
「まぁ、一人にはならない方がいいとは思う」
「それはもちろん、鉄則ですよね」
「よほどトラップとか踏まない限りははぐれないんで、大丈夫でーす!」
うーん、フラグにしか聞こえないぜ!
……あ、そういえば新築の館なんだからさ。
「ここの図面とかは無かったのかな?」
「それが建築工房の控えは不慮の事故で汚損したらしいんですよ」
「で、貴族の控えはこの屋敷のどこかです」
なるほどね。
「じゃあ、もし見つけたら報告するってことで」
「了解です」
館は三階建て。
庭付きとはいえ街中のお屋敷だからたぶん小さい方なんじゃないかな。
とりあえず一階を初心者パーティが、二階を僕らが探索する事に。
「落ち着いて話が出来そうなオバケがいたら呼んでね」
「ラジャーです。あと地下室があった場合も呼びますんで!」
「そうだね、オバケ屋敷で地下室があったらきっとボスがいるよね」
そして絶対怖いヤツがいるんでしょ知ってる。ビビリは詳しいんだ。
「じゃあまた後で!」
「はーい、また後でー」
手を振って別れ、僕らは階段を登る。
「相棒、先に謝っておくね……きっとパニック起こすから、ゴメン」
「うん、わかってる大丈夫」
すまねぇすまねぇ……絶対に悲鳴を上げる自信があるんだ……
例えばほら、階段の踊り場の壁にかかってる大きな肖像画の男性がさ……こんなふうにニターッと笑っ……笑ったぁああああ!?
「ギョアアアアア!?」
「あっ」
怖い怖い怖いぃいいい!!
思わず振り回した杖の籠とランタンが、絵の男の顔面にヒット。
……男はなんか痛そうな不本意そうな顔をして、元の絵に戻った。
「ハーッ……ハーッ……テンポが早すぎる!? もっと徐々に出してこいよ! まだエントランスやぞ!?」
「そうだね、まだ序盤だから体力温存してこうな」
肩で息をする僕に、相棒の冷静な一言がクールダウンに一役買います。
「……もしも相棒がいなかったら、この時点で火を放っていた自信がある」
「早い早い、それは最終手段」
ビビリをホラースポットに解き放つなということだよ!
全国の怪異諸君は心に刻んでおけ!




