ユ:妻のピンチに駆けつけて
目が覚めると、ゲーム内の自室のベッドだった。
……うん、少し落ち着いたな。
不安はまだあるが……もうなるようになるしかないんだ。
結局いつもの着地点に流れ着いた俺は、ベッドから出て相棒の作業場へ向かう。
……あれ、いない。外か?
「ア、旦那様オハヨー」
「おはよう……相棒は?」
「マスターは占い屋さんしに行ったヨ」
出かけたのか。
念話でも飛ばしてみるか。
(相棒? 今何してる?)
(相棒ー! 起きたの!? 助けてー!!)
(落ち着いて、どこにいる?)
(ピリオ!)
(すぐ行くから、落ち着いて待ってて)
「ネビュラ!」
ネビュラを呼ぶ。
占いしてたなら……変装装備に切り替えて、転移オーブでピリオへ。
結婚指輪の【居場所検知】で方向と距離を確認。
「【モルテム】!」
ネビュラと同化してステータスを加算。
全速力で相棒のいる方向へ向けて走った。
……ああ、同化しての全速力だと俊敏100超えるから思考も少し加速し始めたな。
フルダイブVRのファンタジーアクションゲームではよくある仕様だ。
速度系のステータスをガン上げすると、身体の制御が効かなくなるほど早くなるから、ある程度の速さを超えると思考も加速し始める物が多い。
ゲーム内時間のデフォルトが5倍じゃなく3倍が多いのはそのためだ。スピード重視のプレイで思考速度を身体速度に追いつかせるための余地を残している。
これだけ速いと衝突は普通に事故になるから、屋根の上に跳び乗って走った。
……しかしピリオでヘルプ?
街の雰囲気的に襲撃でもないぞ、何に巻き込まれた?
【居場所検知】で表示されている距離があっという間に減少して、キーナ……と、見知らぬ何人かの姿が見えた。
軽く速度を落としながら、跳躍して少し離れた所に着地する。
「うおあっ!?」
「なになに!?」
驚く見知らぬ数人。
相棒は俺の姿を見ると、いそいそと駆け寄ってきてくっついた。
(すごい、もう来てくれた……ありがとう……好き)
(うん、どういう状況?)
(オバケ屋敷です)
(……はい?)
相棒が指さす先には……絵に描いたような成金趣味でゴテゴテとしている、割と新しい豪華な屋敷が。
(初心者さん達が貴族にオバケ屋敷調査の無茶振りされたんだって。で、僕の占いでたぶん【死霊魔法】があると良さげな感じって出たみたいで……でも僕以外の【死霊魔法】の心当たりが無いから、お願いしますって言われて……)
(……で、来ちゃったの?)
(建物は新築って言われたからイケるかなーと思って……でも現地に来たらやっぱり怖くて焦ってた所で……)
(……俺がちょうど起きた)
(そう!)
紛らわしい!
* * *
「はじめまして、パーティリーダーの『ハンドアウト1』です。盾持ち剣士です」
「メンバーの『探索者A』と申します。魔法使い兼ヒーラーであります」
「メンバーその2の『ファンブラー・盛塩』、錬金術士でっす!」
面子がTRPGじゃねぇか。
しかもファンブラーいるぞ。
初心者3人組は、パーティリーダーが女性。あと2人は男。
「我々、最近このゲーム始めたばかりでして。ピリオの冒険者ギルドクエストをメインに進めていたのですが……」
ある日、初心者3人組が冒険者ギルドに行くと、わかりやすく小太りの成金趣味な男がカウンターの受付嬢に怒鳴り散らしていたらしい。
「なんでも、金に物言わせて開拓地に立派なお屋敷を建てて自慢パーティしたかったのに。いざ完成して家具を搬入したらオバケ屋敷になったそうなんです」
それでギルドの受付で『自分を誰だと思っている? 男爵様だぞ? いますぐ腕利きの冒険者を調査に行かせろ! 金ならくれてやる!』と八つ当たりしていたらしい。
「で、『うわ近寄らんとこ』って別のカウンターに行こうとしたら、オレが目つけられちゃって『もうこいつらでいい!』って押し付けられちゃいました!」
ファンブラー・盛塩が「アッハッハ」と笑う。他2人は苦笑いだ。
「ファンタジー世界での屋敷の幽霊調査なんて何が必要なのか分からなくて……とりあえず別に受けてたクエストの関係で港に行ったら……」
その港で相棒が占いをやっていたから、ヒントが貰えるかもと列に並んで占ってもらった、と。
「……占いの結果は?」
「『蠢く死者の領域。光は亡者との対話の中に』」
なるほど、オバケと対話するなら【死霊魔法】が有効そうだってなったわけだ。
「スレとか調べまくって、CMで見たお二人の内の森女さんが【死霊魔法】の第一人者らしいってわかったんで」
「ダメ元で森女さんに声をかけさせてもらいました」
「いやぁ、オッケー貰えて助かりましたー!」
(なんで苦手なのにオッケーしちゃったの?)
(だって僕の占いで出た結果だったし……初心者に出たクエストで新築物件ならそこまで怖くないかなーって……)
で、やっぱり怖かった、と。
「森男さんもいるなら百人力っすね!」
「ご協力ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
(そういうわけなので、よろしくお願いします)
(……まぁ仕方ない)
もうキャンセル出来るような空気じゃないしな……
ゲームのオバケ屋敷なら俺はそこまで苦手でもない。作り物だってわかってるからな。得意でも無いが、なんとかなるだろ。
「……善処するけど、役に立たなかったらごめんね」
「いえいえ、ご協力いただけるだけでありがたいです」
こうして、俺達は何故か唐突にホラーな屋敷の調査をする事になったのだった。




