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ユ:不思議な店を出ると

遅くなりました


 相棒のスキル交換が終わってから、俺達は並んだ棚の品物を見て回った。


 こっちの棚はほとんど素材系だな。

 生産職は目の色変えて喜ぶ店かもしれない。


 別の棚は雑貨がごちゃっと乱雑に詰め込まれている。


「相棒、見て見て、瓶の中の錠剤に目と手足ついて動いてるー」

「……怖」


「これ栞かな? 押し花が貼ってある……押し花だよね?」

「棒人間みたいな形してるけど……たぶん?」


「あ、招き猫だ」

「普通に和風の招き猫だな」


「すごい凶悪な爪のついた孫の手」

「背中ズタズタになるわ」


 なんだかよくわからない物が多いな……


「食べ物は無いね」

「そりゃ腐る物は置いておけないんじゃ?」


 酒とか保存食ならともかく。


「あ、本だ!」


 本棚を見つけた相棒が、目を輝かせて近付いていく。


「…………読めないの多い!」

「異世界の本なんだろうなぁ……」


 ここにも翻訳対象があったか。

 とはいえ、本を交換するには本を渡さないといけない。

 なんだかんだ自作の本は全部売り切れてるから、ここで渡せるような本はインベントリには……


「……あるよ。図書館に寄贈した未翻訳本の写本」

「あぁ」


 あったな、そんなの。

 NPC側は俺達の寄贈分をナイナイせずに公開してくれたから、無用の長物になっていた写本だ。


「僕ら本の獲得率高いね!」

「そうだね」


 相棒が本に対してやたら目端が利いてるだけの気もする。


「どーする? 全部交換しちゃう?」

「いやいや」


 読めるのもあるんだから、まずは吟味しよう。

 背表紙の言語を確認して、日本語の本をピックアップする。


「……んー、読めるのは3冊かな。『メイドの極意〜主人を守る戦の心得〜』『賭けで破産した俺の転落人生』……後は巻物に『忍術〜初級編〜』」

「二番目いらなくね?」


 メイドの本は、もしかしたらメイドって職業があって、そのための本かもしれない。

 忍術に至っては、あの水面を爆走してた忍者が泣いて喜びそうだ。


「とりあえずこの3冊は取り替えっこして……」

「破産の本もするのか……」

「他の読めないのはどうしようかな……すいませーん、これって中は見たらダメですよね?」

「ダメよー」

「はーい」


 それはそう。

 立ち読みしたら交換しなくなるもんな。


「って事は傾向も不明。……後からラインナップ変わるかもだし、他は交換しないでおこうかな。後で欲しい本出てきた時に困るもんね」

「そっか。……でも破産の本は交換するんだな?」

「だって読めるし」

「読みたいの??」


 本を3冊交換。

 これはまた写本を作って図書館に寄贈だな。


 じゃあそろそろ帰ろう。


「ここって、特に交換しなくても見に来ていいですか?」

「もちろん。新商品チェックはどこの店でもするものね」


「また猫を追いかければいいです?」

「ええ、そうしたらまたその箱の中を通ってここにつくから」


 猫が指す場所には上が開いた五角形の箱。


 中を見てみると……さっき俺達が猫を追いかけて通った回廊が箱の中にあった。

 五角形の箱の中は5つに区切られていて、外側をぐるりと通るように回廊がある。区切られた部屋にはそれぞれ別の魔法陣が描かれていた。

 そして回廊の最初には、ガラスで出来た猫の置物がある。


「……そうか、あの猫は作り物だったのか」

「猫を追いかけて3回角を曲がったら、猫を入れ替えて箱の回廊にお招きするの」


 鍵言葉を言った時、裏返った感覚がした。

 この回廊を通っている時は、この店は箱の中にあるのかもしれない。

 よく見ると、この店の壁も五角形っぽい形をしている。


「……なんでこの箱通らせてるんです?」

「欲深い面倒な輩をお断りするためね。タダで持ち去ろうとしたり、小判で売れって詰め寄られるの面倒なんだもの」

「お客さん減りません?」

「面倒なよりいいから」


 全力で趣味だなぁ。

 まぁそもそも世界によって通貨なんて違うだろうし、物々交換しかやりようはないのか。


「……他の人に紹介とか、鍵言葉を教えたりとか、連れて来たりは大丈夫ですか?」

「もちろん。いっぱい星つけてちょうだいな」


 この猫、半端に口コミの知識持ってるぞ。

 もしかして……そのうちコラボ品とかも並ぶようになるのか?

 ……そして鍵言葉は教えてもいいのか。

 まぁこんなのその内有志wikiに載るだろうけど。


「お帰りはそちらの扉」


 猫が指す壁に、ファンタジーでたまに見る丸い扉。


「また来ますー」

「……ありがとうございます」

「はい、またどうぞ」


 扉を開ける……店内が薄暗かったから、外の日差しが目に刺さった。

 夏の強い陽光に目が眩む。

 目を細めながら一歩前に出て、店の外へ。


 あ~眩しい……こんな現象まで再現しなくてよくないか?


 よく見えないまま外へ出て、扉を閉める……と。



「扉が……消えた」



 …………ん?


 相棒とは違う女性の声がした。

 何度も瞬きして目が慣れてくると……目の前の路地裏に、メイド服を着た女性の姿。


 後ろを向いても、既に通ってきた扉は無い。


 ……なんとなく相棒と目を見合わせる。


(このメイド知ってる?)

(記憶に無い)


 だよな、知ってた。

 相棒は人の顔と名前が記憶に残らないから……


 だが目の前のメイドは、そんな俺達の動作を見て軽く目を見開いた。

 そして、まるで身長を確認するみたいに俺と相棒を見比べて……にっこりと微笑み、スカートを軽く持ち上げて中世ファンタジーな礼をひとつした。


「失礼いたしました。私、魔術師団長サフィーラ・ロズ様付きのメイド、オリビアと申します」


 へぇ、魔術師団長のメイド……って事は、城でお茶とか出してくれた事があるのか?


「お近付きの印に……こちらをどうぞ」


 そう言うとオリビアさんはインベントリから紙包みを取り出して相棒に渡した。……って事は、この人はたぶんプレイヤーか。


「えっと……ありがとうございます?」

「そちら、応接室で出した物と同じカップケーキです」

「あ、美味しかったやつ!」

「お気に召して頂けたようで何よりです」


 そして、メイドはにっこりと笑い、小声で言った。


「お二人にはぜひ直接お礼を申し上げたかったのです。……口は固い方と自負しておりますので、ご安心くださいませ」


 ……ん?


 オリビアさんの言葉に引っかかりを覚えたが、隣で上がった相棒の嬉しそうな声で訊き返すタイミングは逃した。


「今、面白い本が手に入ったんです。この後図書館に持っていくので、メイドさんはぜひ読んでみてください」

「図書館ですね、覚えておきます」


 では。と礼をして……メイドは去っていった。


「はー……たぶんプレイヤーさんだよね? お城のメイドとかも出来るんだねぇ」

「……うん」


 だが俺は内心それどころじゃない。


(……相棒、カップケーキってさ、いつ食べたっけ?)

(え? 最近遭難騒ぎでお城に行った時だよ?)

(それさ……変装してる時じゃない?)

(……あれ? 遭難騒ぎの時に何回か出してもらったような……ん? 変装してない、瓶の手紙を最初に持ってった時って…………あれ? そういえば、偉い二人がすぐ駆け込んで来て……あれ? お茶とか出してもらって、無い?)

(たぶんね)

(……やっちまったー!?)


 たぶん……あれは気付かれた。

 ただ、不幸中の幸いなのは……


(……でもメイドさんの感じだと、バレても大丈夫そうじゃない?)

(…………まぁ、ね)


 どうやら秘匿しておいてくれるらしい。

 運が良かったんだか、悪かったんだか。


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― 新着の感想 ―
森夫婦から御香を買ってNPCにあげてた人かな。
凶悪爪孫の手はミスリルゴーレムみたいな存在にあげると「これこれ」と喜ぶと見た
ロズ団長の傍に控えてるメイドプレイしてるのに地味にこの人実は一度も森夫婦の情報掲示板でゲロってないからな・・・香ですら買ったことは言ったけど、どこで買ったかは言ってないし
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