ユ:狼同伴お取引
ログインしました。犬は良いぞ。
さて、リアルで一晩置いたことで、例の露店のグレッグさんから石材分割払いの第一弾が受け取り可能になったらしい。
相棒がメッセージを受けて、取りに行ってきた。
インベントリにぶち込まれた大量の石材。
今日の俺はそれを使って外壁の追加建築に手をつけ始める。
今回は必要最小限じゃなく、オーブが示す初期の拠点範囲を囲む。
初期とはいえ、家の2、3軒と畑くらいは余裕で入る敷地だ。二人なら充分過ぎる広さだし、オバケが増えて増やさないといけなくなったとしても、ずっと先の事になるだろう。
建築まで全部相棒に任せると時間がいくらあっても足りないから、とりあえず外壁は俺の担当になった。
敷地を囲むように【土魔法】で堀を作り、その低い所から内側を固めるように壁を置いていく。
昨日の内に【建築】を取得しておいて良かった。
こんな石の建築、いちいち一個一個組んでられないぞ。
作業中はネビュラが周囲を警戒していてくれるから安心だ。
「ネビュラ。あの海の水をさ、このお堀に流すことってできるかな」
「……中々に恐ろしい事を言うな?」
狼なのに宇宙猫みたいな顔をしたネビュラは、咳払いをひとつして答えてくれた。
「出来なくはないが、やめておいたほうがよい。あの水は当然草木にも影響する。ここに水を引いたりすれば、森が枯れるぞ」
「そっか」
それは駄目だな。塩害どころの騒ぎじゃない。
つまり片手鍋で採取した海水も、あんまりそのへんに撒き散らすとマズイわけか。そうホイホイ使えないな。
「じゃあ、堀の中に罠を置くくらいにしておこう」
「うむ、そうしてくれ」
そんなに切実な声色しなくても、そこまで見境なくないぞ俺は。勝てばいいだろとは思ってるけどな。
そんな風に作業をして、ひとまず拠点用地全体を堀で囲み終え、高い壁を置き始めた頃。
俺の方にもシイタケさんから装備完成の連絡が届いた。
「相棒、行ってくる」
「はーい、ネビュラは?」
ネビュラ……そっか、このまま行くと目立つな?
「……ネビュラ」
「うむ?」
「不透過状態になれる?」
「なれるぞ、ほれ」
「それで、仔犬サイズになれる?」
「なれるぞ、ほれ」
「よし」
俺は普通の黒い仔犬みたいになったネビュラを頭に乗せた。
「連れてくー」
「はーい、いってらっしゃーい」
ネビュラは頭に乗せられて、キョトンとしたまま俺と一緒にオーブで転移した。
* * *
「人の子よくわからん……」
「そのうちわかるといいな」
頭の上で黄昏れてる雰囲気がする。
田舎から都会に出てくると驚くよな、わかるわかる。
俺はとりあえず犬が一緒ならメンタルが少し強くなるから、ネビュラをお供に露店広場にやってきた。
あんまり声を出さないように頼めば、ネビュラは大人しくしていてくれる。お利口だ。
ヒヨコパニックが落ち着いたとはいえ、露店広場はいつだって人が多い。さっさと用事を済ませて帰ろう。
シイタケさんの露店を見つけて、声をかける。
「すいません、装備受け取りに来ました」
「あ、ユーレイさんどーも」
挨拶を交わすと、シイタケさんの視線がネビュラで止まった。
「……アクセ、じゃないっすよね?」
「ないですね」
「……あ、スイマセン。装備こちらです」
「どーも」
若干口元が緩んでたから、犬好きなのかもしれない。お目が高いな。
【宵闇狐の軽鎧】…物理防御+12、俊敏+1
仕立ての良い服に急所をカバーする軽鎧付き。
宵闇キツネの革は暗がりによく馴染み、隠密にボーナスが入る。
製作者:シイタケ
【宵闇狐のブーツ】…物理防御+6、俊敏+3
宵闇キツネの革で作った丈夫な編み上げブーツ。
しなやかな闇色の革はとても静かに気配を殺し、隠密にボーナスが入る。
製作者:シイタケ
【宵闇狐のフード】…物理防御+6
宵闇キツネの革のフードと、口元を覆うマスク。
顔の特徴を覆い隠しながら、気配の感知も阻害しない。隠密にボーナスが入る。
製作者:シイタケ
【宵闇狐の弓用手袋】…弓使用時の威力+6
宵闇キツネの革を薄く鞣して弓を引きやすく仕立てた手袋。肌触りが良い。
製作者:シイタケ
【黒革の矢筒】…俊敏+3
黒く塗った厚い革で作った丈夫な矢筒。
三つ並んで付けられた筒には、別個に矢を入れておける。
製作者:シイタケ
乗せた状態だとどうなるかわからないから、一度ネビュラをシイタケさんの敷物に置かせてもらう。
全部まとめて装備すると、暗殺者みたいな出で立ちになった。
闇討ち重視するとどのゲームでもこんな感じになる。慣れてるし、これが気に入るんだ。
フードに口覆いもついているのは助かる。アクセ枠がひとつ空くからな。
「自分で作っておいてなんですけど、雰囲気ありますね!」
「……どーも」
それを着ている俺になんて返事をしろっていうんだ。
ネビュラを頭に乗せ直す。
シイタケさんはそれを見て、ほっこりした顔になった。
「良いお仕事させてもらいました! またよろしくっす!」
「……ええ、よろしく」
会釈をして踵を返す。
俺が振り向くと、周囲の何人かがネビュラからサッと目をそらしたのが分かった。
犬はかわいいからな、仕方ない。
さ、とっとと相棒の所に帰ろう。




