キ:遭難事件はこれにて完了
ウサウサ島上陸チャレンジャーをそっとしておいて、僕らは船に乗ったままルビィルさんのログハウスが見える方向へ回り込んだ。
わざわざ大勢の前で上陸したくないからねぇ。
……あ、ここだ。
ネモに足場になってもらって……はい、上陸完了。
ログハウスは出てきた時と特に変化は無し。
知らないプレイヤーに荒らされてるような事も無かった。
「……よくこんな立派なログハウス、短時間で建てられましたね」
「慣れればどうということはない」
なんでお貴族様の嫡男がログハウス作りに慣れてるんだろう……?
僕らは一緒にログハウスに入って、預かっていた荷物を出して引き渡す。気分は引っ越し業者。はい、鍋もスープ入ったままですよー。
「転移オーブは何処に置きます?」
「そうだな……この家の前にでも設置してくれ」
「はーい」
外に出て、場所を見繕う。
ん~……あんまり玄関に近いと、たくさん転移してきたときに事故りそう。
ちょっと離れて……この辺かな。
「ここでいいかな?」
「いいんじゃない」
インベントリから、預かっていた転移オーブを取り出した。
ふふ、アイテム状態の転移オーブはゲーム始めた直後に開拓地決めた時以来だね。
ここに……置く!
──『転移地点を確定しますか?』
『はい』を選択っと。
──《初心者向け区域『ウサウサ島』へ転移オーブが設置されました》
──《各地の転移オーブを使用して転移することが可能です》
──《初心者向け区域『ウサウサ島』の解放に伴い》
──《島の専用NPCよりウサウサ島探索クエストの受注が可能になりました》
「……ワールドアナウンス?」
「だろうね」
そりゃそうだよね。
デフォルトで転移先が増えたりしたら、そりゃワールドアナウンス入るよね。
そして呆然としていたら、早速目の前にプレイヤーが転移してきた。
そりゃそうだよね!
デフォルトで転移先が増えたりしたら、そりゃいそいそと飛んでくるよね!
目が合う僕らとプレイヤー。
……いや、僕らは変装状態で顔が見えないから、目は見えてないんだけどさ。
どんどん飛んできて増えるプレイヤーの群れ。
僕らを見て硬直する見知らぬ大量のプレイヤー達。
「……えっと、島の専用NPCってお二人ですか?」
「「違います」」
謎のNPCを演じたりとかはしたけど専用NPCではないです!!
* * *
「じゃあオーブ設置したので戻りますねー」
「気を付けてください」
「ああ、色々と世話になったな。助かった。……ん? 早速冒険者が来たのか」
簡単に挨拶をしたら、好奇心を抑えきれないプレイヤーと入れ替わりに外へ出て、僕らは転移オーブからピリオノートに帰還した。
魔術師団長さんに無事に到着しましたよ報告をしてくれって頼まれてたからね。
入口の兵士さんには話が行ってたみたいで、流れるように応接室へと案内された。
メイドさんも流れるようにお茶とお菓子を置いていってくれる。あ、前に美味しかった焼き菓子がまたある、やったぜ。
少しして、魔術師団長さんが入って来た。
ルビィルさんが無事に着きましたよの報告と、転移オーブを設置して無事に冒険者が行けるようになりましたよの報告をする。
「あと、ルビィルさんがサウストランクの工房にオーダーメイドで何か頼んでたので、それの配達依頼が冒険者に行くだろうって言ってました」
「そうか、わかった」
一通り報告を終えると、魔術師団長さんは大きく溜息を吐いた。
「今回は兄が迷惑をかけた。ロズ家の者として礼を言う。依頼の報酬とは別に、ロズ家からの謝礼を出させてくれ。……何か希望はあるか?」
苦労人だなぁ〜
謝礼の希望……希望ねぇ……?
(何か魔術師団長さんにおねだりしたいことある?)
(……相棒は?)
(僕は特に無い)
(……じゃあ俺が頼んでいい?)
(いいよー)
相棒は、僅かに身を乗り出して言った。
「体術の稽古とかつけてもらえます?」
「……魔法ではなく?」
「体術です。インファイトに強くなりたいんで」
そうだね、魔術師団長さん見事なアッパーだったもんね。
魔術師団長さんは一瞬『解せぬ』って感じの顔をしたけど……フッと吹っ切れたみたいに微笑んだ。
「いいだろう。ロズ家伝来の格闘術を叩き込んでやる」
魔術師団長さんは、早朝の日の出直後くらいに兵士に混ざって体を動かすのが日課だから、都合の良い日にそのくらいの時間に城に来たら相手をしてもらえる事になった。
「よかったね相棒、頑張ってね!」
「……一緒にやらないの?」
「筋力4に格闘術はいくらなんでも無謀だと思う」
「デスヨネー」
僕はその間読書でもしてるよ。
図書館の本、そろそろ翻訳完了したのが増えてるみたいだからね。




