ユ:二度目の島への旅路
NPC所有の荷物の運搬は、インベントリに入れることをNPCが許可してくれるなら実に簡単だ。
運送依頼じゃなく馬車の護衛依頼なんてものがあるのは、馬車そのものを届ける意味もあるし、NPCが不安だから大量の荷をインベントリに入れて欲しくないって意味もあるらしい。
今回、俺達がルビィルを送り届けるに当たって、そういう意味ではこの兄弟からの信用はクリアしているらしかった。
「兄のカバンのついでにこれも入れて持って行ってくれないか?」
「……まぁイイですよ」
結局ポーションと食料は木箱で追加された。
「いいか、何かあったら直ぐにクロウを飛ばすんだぞ」
「わかったわかった」
「何も無くても報告はよこすんだぞ」
「お前は母親か」
苦労してるな……
そんなこんなで、お城の人達に見送られながら出発。
ネビュラにギリギリの三人乗りをして街道を走る。
「この精霊も中々に興味深い……というか、お前達夫婦が興味深いモノの塊だな。どうだ、私の助手にならんか?」
「「いえ遠慮します」」
「ふむ、実に息が合っている。夫婦とはこういうものか」
謎の認識を護衛対象に植え付けながら、大森林を通る街道をひたすらに走り、まずはサウストランクに到着した。
「休憩とか買い物とかいりますか? ここは工房が多いから便利な道具とかもあるかもですよ」
「ふむ……では少し見させてもらおうか」
出発時間を決めて、少し店を見て回る。
ルビィルは、今は特に何も買わずに、いくつかの工房で何やら注文して戻って来た。
「良い店だったのでな、オーダーメイドを依頼した。島に転移オーブを置けば冒険者に配達の依頼が行くだろう」
人を使うのに慣れている感じがする。
再びネビュラで走って港に到着。
人気の無い浜辺まで移動してから、昨日と同じようにネモの船に乗り込んだ。
「うむ、何度乗っても不思議な船だ……【死霊魔法】、実に興味深い……」
出航してもペタペタペタペタと船を触り続けるルビィル。
(……相棒、ネモって触られて嫌がってないの?)
(それが全然。むしろ面白いみたいで、たまにニョキッとコウモリ生えてからかったり握手したりして遊んでる)
(……そう)
そうか、ルビィルに遊んで貰ってる……というか、ルビィルで遊んでるのか……なんかケタケタ笑い声聞こえるしな。
「どうだね船くん。私の助手にならんか?」
『ヤダ』
わざわざ字を書いた看板みたいな形になって断るあたり、確かに面白がってはいるらしい……
てか、しれっと引き抜こうとするな。
* * *
今日も何事もなく航海は平和そのもの。
海ってボートでももう少し襲われるはずなんだけどな……前回は狩り中のパーティが近くにいたからだとして、今回はなんだ?
その答えは目的の島に近付くとすぐにわかった。
ボートみたいな小舟がいくつも浮かぶ島の周り。
この島の事を聞きつけたプレイヤー達が上陸に挑戦しに来たんだろう、そこそこの数がいる。
これだけのプレイヤーが来ているなら、その途中の海のモブはあらかた片付いていて当然か。
「あ~~れ~~~」
「あ~~~~~回る回る~~~~」
「うっそだろ、戻ってきたんだけど???」
小舟で島へ向かったプレイヤーは、ゲームによくある動く床に乗ったみたいになってぐるぐると不規則な海流に翻弄されていた。
ぐいぐいとちょっと遅いジェットコースターのように流れてるから結構強い流れらしい。力付くでの突破は難しそうだ。
「ちょ、やべぇハマった! 歯車みたいに一ヵ所で回るだけになった!」
「大車輪野郎が車輪になったぞー!」
「草」
ゲラゲラと笑い声で溢れる海流チャレンジ。
時々【水魔法】や【風魔法】で助走をつけて、一気に飛び越そうとする船が、飛距離が足りずに海流のド真ん中に落ちて「あ~~~」と流れていく。
ゴール地点の島を見ると、何人かのプレイヤーがのんびり座ってチャレンジを囃し立てているのが見えた。
鳥系の獣人やフェアリー、それから小人だな。小人は他の飛行可能ユニットに運んでもらって到達済みか、体が小さいとそういう時は有利だな。
と、そこへ突如響く連続した爆発音。
「忍者だ! 忍者が来たぞー!!」
「あいつまた爆発使って水の上走ってやがる!」
トライアスロンでも見た忍ばない忍者が、足音を掻き消す爆音を響かせながら猛ダッシュし始めた。
忍者の爆発ダッシュは、水面に着けた足が沈む前に爆発の反動で強引に押し上げている走法だ。
そしてそれは、海流に対しては実に有効だった。
流れに足を取られる前に、爆風で浮き上がっているわけだからな。
……あの忍者、やり方工夫したら空も走れそうだ。
凄まじい音と速さで駆け抜けた忍者は、見事に島への上陸を達成した。
「おおー!」と上がる歓声。
「素晴らしい」と拍手するNPCルビィル。
そしてルビィルはじっと海を見ながら呟いた。
「あの海流は、恐らく大型の貝類が原因だ」
「貝?」
「そうだ。海の底で大きく育った貝は、海水を吸い込み吐き出す事で周囲の海流に大きな影響を及ぼす。浜辺近くの海に群生している場合は特にそれが顕著だ」
つまりこの辺の海底には、ファンタジー特有の化け物貝がゴロゴロしてるのか……
「それ本当!?」
「わぁあ!?」
ザバァッと突然ネモに掴みかかってきた人魚の女性に、相棒が驚いて声を上げる。
対してルビィルは、至って平静にひとつ頷いた。
「人魚ならば海底を調べてみるといい。あの流れの強さならば、岩のように大きな貝がゴロゴロしているはずだ」
「それって海の街の防衛にも使える!?」
「ふむ……悪くない発想だ。配置を工夫すれば外部からの侵入経路を狭められるのではないか?」
「良い事聞いたわ! ありがとう!!」
現れた時と同じくらい唐突に、人魚はお礼を言ってまた潜っていった。
「ビックリしたー……」
「うむ、海の亡霊のようであったな」
あんなオバケはノーサンキューだ。




