ユ:島を目指す人々
「今帰った、ぞっ!?」
俺達が遭難していたルビィルを連れてピリオノートの城に送り届けた時、待ち構えていた魔術師団長の綺麗なアッパーが決まった。
「……『魔術』師団長だよね?」
「体術が苦手とは限らない」
* * *
無事に連れ帰って、クエストはクリア。
報酬はイベントポイントで支払われて、今はアフター処理的な話を応接室で聞いている。
「ほう……ログハウスで悠々自適のバカンスとは、随分と余裕のある遭難だったようで何よりだ」
「うむ、なかなか静かで有意義な時間であったぞ」
「少しは反省しろ!!」
それな。
クッキーをボリボリと食べているルビィルに反省の色は見られない。なんだか魔術師団長が苦労人な理由が垣間見える構図だ。
「しかしウサボールばかりの島とは……船での行き来は難しそうだが、興味深くはあるな。新人冒険者の戦闘訓練にも良いかもしれん」
魔術師団長は溜息を吐きながら、兄のルビィルが短時間で紙にまとめ直したレポートのような物を読んでいる。
遭難していても、知識欲の赴くままに島の調査をして、手近な木の皮だの葉っぱだのに手持ちの木炭で調査内容を書き殴っていたらしい。転んでもタダでは起きない。
それによれば、山の調査こそまだ手をつけていないが、海岸と森はウサボールしかいない可能性が高いらしかった。
植生もウサボールが好む物が多く、正にウサボールの楽園のようだったとか。
ルビィルは貴族らしい優雅な所作で紅茶を飲み、「うむ」と頷いた。
「そうだろう。だからなサフィーラ、私はしばらくあの島に住もうと思う」
「は?」
おい。
今遠路はるばる連れて帰ってきたばかりなんだが?
「冒険者が使えるオーブがあるだろう。あれをあの島にひとつ置いてくれ。そうすれば冒険者が島に容易く来られるようになるから、私が島の調査と研究に役立つ依頼を出す。私が暮らす物資の調達も頼める。実に効率がいい」
魔術師団長は頭を抱えてしまった。
まぁ、うん……初心者訓練施設として扱うなら、何の問題もない案なんだよな。
この人が貴族で、研究職で、あんな絶海の孤島に住んでていいのか?って事以外は。
「どうしたサフィーラ。何か問題があるか?」
「……無い。無いのが実に腹立たしい! だがお祖父様が何と言うか──」
「あの爺様なら此処へ来る許可を取った時点で決闘済みだから問題無い」
「それは問題ごとねじ伏せただけだろうが!!」
愉快な兄弟喧嘩を眺めながら、俺と相棒は無心で焼き菓子を齧っていた。
気分はプロレスの観戦だ。
……美味いなこのカップケーキ。バターたっぷりな罪の味がする。
「ハァ……もういい。どうせ私が何を言った所で一人でも勝手に行くのだろうからな……それなら正規の扱いにして把握している方がまだマシだ。……そこの夫婦」
アッハイ、夫婦です。
「悪いが……本っ当に悪いのだが……明日以降で構わんので、この兄と転移オーブを、またその島へ送り届けてもらえないか?」
──クエスト『無人島へUターン』を受諾しますか?
マジで?
* * *
まぁ受けない理由も特にない。クエストは素直に受諾した。
今日残りの時間で定住の支度をするらしい兄弟と別れて、俺達は城から外へ出る。
(あ)
(何?)
(鍋返すの忘れてた)
(ああ……)
まぁどうせ送って行くから、その時に返せばいいだろう。
リアルの時間は夕方4時頃。
少し早いが、ログアウトして夕飯を済ませることにした。
「そういえば、島で別れた人魚さん達はどうしただろうね?」
「さぁ……ガチでウサボールしかいないなら大してレベル上げにもならないだろうしなぁ」
食後に二人でダラダラとする時間。
最近の俺はスレで情報を得る時間になっている。
そして今日は、一覧を開いて最初に目に入ったスレがこれだった。
『ウサボール好きのスレ Part35』
……Part進みすぎだろ。
試しに開いてみると、スレはお祭り騒ぎになっていた。
『ウサウサ島発見』
『ついに我らの楽園が見つかった』
『ウサボール大王様に会えるんですか?』
『ウサボール島どうやって行くの?』
『島はどこだ』
『初見です、ウサボール島の事教えてください』
『ウサボール 嗚呼ウサボール ウサボール』
『ウサボールちゅわぁ〜ん! いま会いに行くからねぇ〜〜!』
『うちの101匹目のウサボールはその島でお迎えする事にしました』
『ウサボールウサボールウサボールウサボールウサボールウサボールウサボールウサボールウサボールウサボール』
……ヤバいスレを開いてしまった気がする
なんだこれ、最初から最新まで全部この調子だぞ。
時々サブリミナルみたいにウサボールのスクショが差し込まれてるし、それに対して一斉に『可愛い』コールが入る様式美。
……だめだ、ちょっと俺はこのテンションにはついて行けん。
隣でのんびりとパズルゲームに興じる真紀奈を撫でながら、俺はそっとスレを閉じた。
本日午後は投稿お休みします




