キ:餅は餅屋、海の事は海の人。
※一部修正。
チャプチャプチャプチャプ、海の旅。
波は割と穏やかで、小さな船でもあんまり揺れないのは助かるね。
「山は天気が変わりやすいって言うけど、海も変わりやすかったりするかな?」
「……あんまり聞かないけど」
僕らはネモの船に乗って、スイスイと海を進んでいく。
あんまり大きな船じゃないから、波がもっと高くなったらとんでもな動きをするのかな?
そう考えると、イカダで海に漕ぎ出すのは割と正気の沙汰じゃないよね。
もしも海が荒れてきたら、ちょっと考えないといけないかもしれない。
さて、ある程度陸から離れたところで、相棒が地図を開いてベロニカに声をかけた。
「……ベロニカって地図はわかる?」
「当然よ、斥候クロウ隊はそういう訓練も受けるわ。ちゃんとアタシも受け継いでるわよ」
ありがたいねぇ。
ベロニカに地図の斜線部分への誘導をお願いすると、高く高く飛び上がって真上をクルクル回ってから、こっちにひと鳴きして先導を始めた。
うーん……なんてのんびりとした船旅。
釣りでもしてみたいけど、ここで変なモノ引っ掛けて船がひっくり返ってもイヤだしなぁ〜……あ、そうだ。
「確か単眼鏡が……あったあった」
「ああ、そういえばそんなの買ってたな」
いつぞやのバードウォッチングで使った単眼鏡。
でも低い船に座ってるとあんまり遠くまで見えないや。
「よっと」
「立つと危ないよ」
「大丈夫ー」
帆に掴まってれば落ちはしないよ。
うん、自分の身長分高くなっただけでも結構違うね。
「俺にも見せて」
「はい」
波に揺られて望遠鏡覗いてると船旅感があっていいね。
* * *
「意外と魚に襲われないね」
「まぁ、水中から見れば壁の向こうみたいなモノなんじゃない?」
出航してしばらく、僕らはとても平和な船旅を楽しんでいた。
浜辺でも時々魚が襲って来るって話だからちょっと身構えてたんだけど、船は全然そんなことが無い。
水中に体を晒してないと見つかりにくいのかな?
なんて考えていたら、ある意味答え的な情報をベロニカが持ってきた。
「進行方向で人魚のグループが戦闘中よ」
それを証明するみたいに、ザプンと海面が大きめに揺れた。
「苦戦してそう?」
「いいえ、たぶんすぐに終わるわ」
「じゃあこのまま行って、ひと段落したら聞き込みしてみよっか」
もしこの辺で頻繁に狩りしてるなら、遭難した人を目撃してたかもしれない。
そのまま進むと、大きめの揺れが断続的になって、バシャバシャと海面が暴れる音が聞こえてきた。
──ズドン!
そして極めつけって感じに1カ所が派手に爆発。
プカプカプカーっと、ドロップアイテムっぽい魚が浮かんでくる。
さらにそれを追うように、海面に人魚が6人顔を出した。
「オッケー! お疲れ!」
「お疲れさまー!」
「はー、こんな感じで動くんですね。ありがとうございましたー」
「面白かったー!」
ほとんどが手に槍を持って、ワイのワイのとはしゃぎながらドロップアイテムを回収している。
そしてその内のひとりがこっちを見て……華麗に二度見をキメた。
「あれー!? 森夫婦さんだ!?」
「えっ、マジ!?」
「わー! 本物だー!」
そんな珍獣みたいな。
挨拶して声変わりシロップを飲みつつ話を聞いてみると、彼らは人魚四人のパーティに初心者人魚が二人で、海中での戦闘をレクチャーしていた所だったらしい。
たぶん僕らが襲われなかったのは、割と近場のこっちに敵が集まってたからかな。
僕は人魚さん達に事情を説明して、地図と肖像画を見せた。
「んんんんん……海の中で狩りしてると、あんま海面気にしないんよなー」
「私も小舟が通ったかどうかはわかりませんね」
「俺も」
ネモを変形させた足場に腰掛けた人魚達がうんうんと唸る。
目撃情報は残念ながら得られなかった。
けれども。
「でもこの島は心当たりあるよ」
瓶に入っていた孤島の地図を指して人魚さんが言う。
「あんま大きい島じゃなくってね。周辺の海流がおかしくて、泳いで近づけないんよ。1カ所だけ行けそーな所はクソデカイソギンチャクとかが陣取ってて蟻地獄状態」
「ああ、あれねー。船が出るようになったら鳥獣人に頼んで見てもらおうと思ってた所」
鳥獣人は確かに飛べるけど、人魚の水分量みたいに、飛行スタミナ的なマスクステータスがあるみたいで休憩を挟む必要があるから、あんまり長距離飛行はできないんだって。
その島は、港から飛んでくるには厳しい場所らしい。
「フェアリーじゃダメなんです?」
「フェアリーはね、海の上なんて飛んでたら鳥にも魚にも襲われるから」
「即死よ、即死」
フェアリーはかなり柔らかい種族だから、弾丸みたいに飛来する猛禽に襲われるのが死因のトップって言われた。マジかー
カステラソムリエさんも襲われたことあるのかな。
「もし森夫婦さんが見てきてくれるなら案内するよ」
「俺らも気になるし」
せっかく手に入った最重要手がかり。
僕らはありがたく、その申し出を受ける事にした。




