キ:スイカ割りならぬ、スイカ斬り大会
「各部門、及び総合優勝は……クラン『カラフル戦隊フエルンジャー』所属のグリーンさんです!」
ですよねー!
もう素人目でも一目瞭然だったよ。
割れるような拍手の中、グリーンさんが前に出てエンペラースイカの形をした記念トロフィーを受け取った。
あ、近くでカラフルな戦隊仲間も拍手してる。
いやぁ面白い大会だったね。
司会進行の兵士GMさんが言うには、秋にはキャッスルキノコのコンテストがあるんだって。そっちも楽しみ。
この後は、出品されたスイカを切り分けての配布があって、皆で楽しく食べておしまい……って話だったんだけど。
「では、優勝のグリーンさんより許可を頂けましたので……これより! 剣士系限定サプライズイベントを開始いたします!」
お?
GMさんが合図すると、港にあった家より大きなグリーンさん作のエンペラースイカが、一瞬でトライアスロンを観戦したアリーナのステージへと移動した。
「題して『来たれ飛び入り! スイカスレイヤーチャレンジ!』 これより剣士系職業の方の挑戦者を募りまして、お一人一回ずつ優勝したエンペラースイカを切っていただきます! 見事切れた方には、賞品と称号をプレゼント!」
おおー! と会場が沸く。
スイカ割りの亜種みたいなイベントなのかな? 瓦割りみたいな?
硬そうだもんね、あのスイカ。
ルールは、必ず縞模様の黒い部分を切る事。一番硬い部分だね。
柔らかい緑色の部分だけ切るのはダメだって。
希望者はGMがアリーナに移動させてくれるっていうから、僕らもお願いして直接アリーナの観客席に飛ばしてもらった。
アリーナで引き続き見る人には、そのままスイカがすぐに一皿配布してもらえてラッキー。食べながら見られるね。
「わ、すっごい甘いこのスイカ!」
「青臭さほぼ無いな」
「ねー! 美味しい!」
なんてのんきに食べていたら、さっそく挑戦者が現れたみたい。
「エントリーナンバー1番!『30センチ定規』さんです、チャレンジどうぞ!!」
なんか目盛みたいな刺繍の入った服を着た人が、切っ先の無い四角くて長い大剣を背負ってステージに上がった。
30センチ定規さんは大剣を両手で構えて振り上げると、「フッ!」と鋭く息を吐きながら振り下ろした。
──ガギィイイイイイインッ!!
うわわわっ、凄い音。
「完全に金属音じゃん……本当にスイカ?」
「今食ってるのはちゃんとスイカなんだよなぁ……」
ステージの上のエンペラースイカは、緑の部分は衝撃で多少表面が削れたけど、黒い部分は傷ひとつなく綺麗なままだった。
「はい、残念! 挑戦ありがとうございましたー!」
無情なチャレンジ失敗判定を受けて、30センチ定規さんは少し肩を落としてステージを下りていった。
「では次の方、ステージへどうぞ!」
ちらっとステージ脇を見ると、いつのまにか剣を持ってる人の列が出来てる。
誰か斬れる人はいるのかな?
* * *
──ガギィインッ!
「ぐわぁああー!」
──ギャリィィインッ!
「イヤァァアアーッ!」
──ゴギィイインッ!
「アバーッ!」
ドサァッと倒れる挑戦者の剣士達。
何回目かの剣士がスイカカットに失敗して、その時にふざけて大げさにやられて倒れる演技をしてから。いかにドラマチックに倒れるか選手権みたいになって会場は盛り上がっていた。
なお、倒れたらスタッフによって速やかに担架でステージ外に搬送されていくまでがデフォルト。
「さぁこれで優勝エンペラースイカの36人斬り! 果たしてこのスイカに勝てる猛者は現れるのでしょうか!?」
スイカ強いなぁー
派手な音がするから人が集まってきて、挑戦者も見学者も結構な数になってきた。
「ガルガンは行かんのか?」
「俺の得物槍斧だから、剣はスキルレベル足りねぇよ」
「筋力ステでいけんか?」
「キツいだろ……うめぇなこのスイカ」
いつの間にか後ろの席でスイカ食べてたガルガンチュアさん。
……夏でも黒い鎧なんだね。ゲームだから色はあんまり関係ないのかな?
──ギョギィイインッ!
「ぐふぅっ!!」
あ、またひとりスイカに負けて沈んだ。
無傷なのに担架で運ばれていく知らない剣士さん。
そして次の挑戦者がステージに上がると、会場が少しどよめいた。
「エントリーナンバー38番! 『武芸之翁』」
挑戦者は、ヒゲを生やしためちゃくちゃ渋くて眼光鋭いお爺ちゃん。
このお爺ちゃん、なんと袴姿で日本刀を腰に差している。
時代劇に出てきそうな、侍感がすごいその姿に、会場はなんとなく期待が高まっていた。
「翁じゃねぇか」
「翁はなんか斬れそうじゃな」
後ろからそんな会話も聞こえてくる。
強い人なのかな?
すると、ステージに近い所にいる少年と少女が、大きな声で叫んだ。
「「お爺ちゃん頑張ってー!」」
するとステージの翁さんは、デレッと爺バカ全開な感じに相好が崩れて二人に手を振った。
「うーん、これは孫好きなお爺ちゃん」
「わかりやすい」
でもそれは少しの間だけ。
スイカに向き直った翁さんは、表情も雰囲気もガラリと切り替えて抜刀し、静かに構えた。
会場も、皆息を呑むように静まり返る。
遠くの喧騒が壁を隔てたみたいな錯覚。
静かな呼吸音が、ここまで聞こえた気がした。
「──シッ!」
踏み込み、袈裟懸けに振り下ろされた刀。
その刃はスイカを捉えて……
── ギ ン ッ
今までとは違う、通った音がした。
振り切った刀。
一拍置いて、スイカがズルリと断面を見せながら斜めにズレる。
あふれる赤い果汁と
『斬った』事を理解した時間の後に
会場は爆発したような歓声と拍手に包まれた。
「斬りましたぁぁあああ!! エントリーナンバー38番! 『武芸之翁』! 見事に優勝エンペラースイカを斬りましたぁぁあああ!!」
「すごーい! カッコイイー!」
「これはカッコイイわ」
納刀した後に、「「お爺ちゃんカッコイイー!」」ってお孫さんに言われて、またデレッデレの顔になってるのは御愛嬌。
いやぁ~良いモノ見せてもらいました!
優勝した翁さんは、トロフィーを受け取り、グリーンさんと握手して、歓声を背に去っていったのだった。




