ユ:エンペラースイカ品評会
犬クエストをクリアしてから、数日は特に何事も無く俺達は過ごした。
まぁこれが普通だよな。
最近はイベント期間中だからかクエストの方からやってきていた感がある。
久しぶりにレベル上げみたいな事をしたり、イベントポイントが貯まっていた事もあって、プライベートビーチエリアを借りて拠点のオバケ達と繰り出し、のんびりと海を楽しんだりもした。
そして今日は、キーナが楽しみにしていた『エンペラースイカ品評会』の日だ。
「どんな化け物級のスイカが出てくるかな!?」
ウキウキと朝食を食べる相棒は、リアルのオバケカボチャコンテストのような物を期待しているらしい。
まぁ概要を見る限り、農家プレイヤー向けのイベントなのは間違いない。
今日は変装は無し。
準備を終えた俺達は、いつも通り転移オーブで港予定地へと向かった。
* * *
『エンペラースイカ品評会』の会場は、完成したばかりの石作りの埠頭周辺。まだ船が無い内にイベントで使おうという事らしい。
転移広場へ降り立った俺達が港方面に目をやると……
「アハハハハハハ! 見て! 見て! 家よりでっかいスイカ!」
「うん、見えてる」
文字通り、家より巨大なスイカがひとつ、港にデデンと乗っているのが見えていた。
なんだあれ、デカ過ぎだろ。
始まる前からワクワクが止まらないらしい相棒と手を繋いで会場へ向かう。
埠頭のあたりには、色んな大きさのエンペラースイカが勢揃いしていた。
会場の入り口あたりに説明書の大きな看板が立っていたから、二人で目を通す。
「えーっと……『エンペラースイカとは、ヘタの根元が王冠のような形になり、とても巨大に成長するスイカです』……あ、本当だ。ヘタが王冠みたいな形してる!」
「『審査は、総合部門の他に3つの部門に別れてて……大きさ部門、美しさ部門、硬さ部門』?」
「へぇ~、エンペラースイカって硬ければ硬いほどいいんだ?」
果物なのに?
食べ辛くないんだろうか。
「『エンペラースイカは、縞模様の黒い部分が鉄を含んで硬くなる性質をもっています。硬ければ硬いほど大きく育ちます』
だって」
「へぇ……」
スイカもかなりファンタジーしている。
「美しさは、王冠の綺麗さって感じかな? ……あ、『王冠が豪華なほど甘いスイカです』だって!」
「なるほど」
王冠の形が甘さの目安になるのか。
そうした事前情報を得てから見て回り始めると……大きさの他にも王冠の形が気になるようになった。
「大きいほど冠が豪華ってわけじゃないんだね」
「そうだね。こっちは小さいけど王冠は細かくて豪華だ」
小さいとはいってもバランスボールくらいの大きさはあるんだけどな。
ズラリと並んだエンペラースイカは、直径1.5メートルくらいの物がほとんどだ。
大きい物は冠が見えにくいから、すぐ横に簡単な足場が組んである。
「えー、どのスイカも王冠綺麗で可愛いねぇ」
「……この王冠、宝石ついてない?」
「えっ、あっ! 本当だ!」
驚いていると、近くにいた係員が教えてくれた。
「それは糖分の結晶なんですよ。かなり甘いスイカじゃないと出ないんです!」
「へぇ~!」
蜜入りリンゴみたいな物か。
結晶付きの王冠は中々無い。かなり育てるのが難しいのかもしれないな。
審査員らしき一団とすれ違いつつ、俺達は遠目に見えていた家より大きなエンペラースイカの前まで来た。
「うわー、でっかい!」
あらためて見るとすごいな……中くり抜いたら普通に人が住めそうだ。
当然組まれている足場を上がると、豪華さが段違いな王冠が目に入った。
「え!? すごーい!」
「……本物の王冠載せてるわけじゃないよな?」
普通に王様が被っててもおかしくない冠の形をしている。
糖分の結晶は中心の大きな物を含めて5つも並んでいた。
……スイカの縞模様も、よく見たら黒い部分はメタリックな光沢がある。鉄分が多いって事なのか。
なんだこれ、本当に作物か?
「え、もうこのスイカが賞を総嘗めじゃない?」
「かもね」
大きさ、美しさ、硬さ……たぶん全部最優秀だろう。
足場を降りると、農夫っぽい集団が巨大エンペラースイカを囲んでワイワイと話しをしていた。
「いやぁすごいですね……まさかこれほど差が出るとは」
「うちも結構いいとこ行ったんだけどなぁ〜。やっぱり肥料とか品種とかで並んだら、蜂の性能差勝負になるのかぁ〜」
「グリーンさんの所はあのでっかいミリオンハニービーですからね……うちも性能の高い蜂欲しいなぁー」
「良さげな蜂の捜索隊組みます?」
……なんだか身に覚えのある話が聞こえてくる。
振り返って農夫集団を見てみると、戦隊クランの緑色衣装がその中に見えた。
……そうか、このデカいスイカはあの蜂のお姫様効果が出てるスイカだったのか。
元気にやってるみたいでなによりだ。




