キ:犬好きが貰ったワンコのお礼
「アッハッハッハ! ゲホッゴホッエホッ……そうかい、随分手間かけさせたみたいですまんかったねぇ」
「いえいえ、なんだかんだ楽しかったので」
ベルン君と一緒に料理をペトガロアさんに届けて、相棒の動物会話の事はなんとなく誤魔化しつつ話しをすると、ペトガロアさんは手を叩いてむせながら喜んだ。
ペトガロアさんは『大盛りキャロットパイ食堂』の事を知っていた。なんなら地下室の事も知っていた。
仕事で港予定地に出てきて、毎日のように通っていたあの店に行けなくて零した独り言をベルン君が聞いて、それで張り切ってしまったみたいな事だったみたい。
「それで、あいつらモイモイの肉はどーしたんだね?」
「後日食べ放題パーティみたいなことするらしいですよ。ソテーかパイかでケンカしてました」
「いいねぇ〜、モイモイはソテーもパイも美味いからなぁ!」
あれってそうやって食べるんだね。
あ、僕らは謹んでご遠慮申し上げました。
ペトガロアさんは、買ってきた料理を嬉しそうに頬張る。
「うん、美味い。お二人ともありがとさん。ベルンもな。お前のおかげで、風邪なんか明日にはどっかいっちまうだろうよ!」
「ワンッ!」
嬉しそうなベルン君にほっこり。
「これは礼だ。今日は助かったよ」
ペトガロアさんはそう言って、香辛料の小瓶をひとつくれた。
【ピリ味唐辛子の小瓶】…品質★
ピリ辛好きの必需品。サッと1振りで好みの辛さ。
辛いのが好きなのかな?
そしてお暇しようとしたら、足元でワンワンとベルン君が。
しゃがんだ相棒に、固い布製のボールのような物を差し出している。
「はは、ベルンも礼か。良ければ貰ってやってくだせぇ」
「……じゃあ、いただきます」
相棒が受け取って、ベルン君をひと撫で。
──クエスト『ご主人の好物を求めて』をクリアしました。
今度こそ、僕らはテントを後にした。
「ベルン君のお礼ってなんだった?」
「……はい」
渡されたボールを見てみる。
【ベルンのオススメボール】…ユニークアイテム
犬の気持ちを完璧に汲んでくれたアナタへ。
これで犬とキャッチボールをすると僅かに好感度が上昇しやすくなる。
「犬特化アイテムだ!」
「うん」
「相棒には神アイテムじゃん」
「ほんそれ」
相棒が若干ニヤけてる。
嬉しそうな様子を見ていると、僕は気になっていた事を思い出した。
(そういえば……食堂のお客さんに動物連れがいっぱいいたけど、あれ全部何言ってるか聞こえてたの?)
(いや? たぶん、俺に話しかけてるか、俺が聞こうとしないと翻訳されないんだと思う)
(へぇ〜)
(じゃないとノイローゼになる。潰すかもしれない家畜の声まで勝手に聞こえてたらイヤだし)
(まぁ確かに)
ベルン君は、相棒含めた周囲に呼びかけてたから聞こえたんだろうね。
(動物からの情報収集は俺の担当。相棒は人間とオバケをよろしく)
(オッケー)
情報収集がはかどるね。
さて、とりあえず帰って、バンのお家を金魚鉢にしないと。
思いがけず長めの寄り道になったけど、ものすごくMMOらしいクエストだったような気がする。
……芋虫はしばらく相手にしたくないけどね。
* * *
拠点に戻って、作業をひと段落させて……オヤツに知恵の林檎をひとつ食べた。
──『バターモイモイの品種は、亜種を含めると52種類』
……そんなにいるの?
いや…芋虫はしばらくいいってば!
ちょっと短いですが、今回はここまで。




