キ:何をしたかの自覚はあんまり無かった。
戦ってた時はキレ散らかしてた僕だけど、倒して脅威が無くなって、ついでに敵意も無くなったなら特にサメに思う所はない。
「もう見境なくカップルに襲いかかっちゃダメだからね」
「なんでカップル限定だよ」
サメの名前は『バン』にした。
相棒に聞いた包帯の英単語からとって、バン。
グルグル巻の白い海藻が包帯みたいだから。
ビックリはしたけど、悪い気はしない……というか、レイドボスのオバケなんてかなり破格では? 因果大丈夫? 僕もらいすぎてない? 後から反動が来るのはイヤだよ? これが反動って事でいいんだよね?
……まぁもういいってことで納得するしかないんだけどさ。
「オレサマを籠に入れて持ち歩くと【水魔法】と【氷魔法】が強く使えるぜ」
コダマ爺ちゃんの時みたいに、僕はオバケ効果で【氷魔法】を習得した。
「大して魔法のレベル上げしてないのに、オバケ効果でどんどん上位魔法を覚えてる気がする」
「死霊魔法使いってそういう職業では?」
なるほど?
相棒のツッコミに、ごもっともだと目から鱗。
「とはいえオレサマの本領は肉弾戦だからなぁ、召喚して暴れる方がわかりやすいんじゃねーの?」
つまり巨大なサメをドーンと呼び出してオラァッと襲い掛からせる、と。
……サメ映画じゃん!?
「歩くサメ映画上映機になっちゃった」
「サメ映画ゲリラ上映か……」
「エーガとかジョーエイはよくわかんねぇけど、嬉しいだろ?」
なんて前向きな脳筋。
「まぁ姐さんのMPじゃ元のサイズの半分にもならねぇと思うけどな。ショージンしてくれや」
「はぁ~い」
死霊となったバンの召喚時のサイズは術者の使用MPに依存するんだって。
体格で勝負するタイプなんだろうね。
* * *
さて、突然のサメに驚いたけど、次は相棒が『因果の黒鳥幻獣』ガチャをする番。
「まあまあ」
「おやおや」
「どんなモノがお望みですかな?」
「御希望をどうぞ?」
白と黒がバサバサしながらくるくる回る。
なんか、人形が動くオルゴールとか見てる気分。
相棒はもう決めてたから、質問によどみなく答えた。
「……動物と話がしたい。できればアイテムじゃなくスキルとかで」
そうだねぇ、相棒色んなゲームで動物会話系のスキルがあれば必ず取るもんね。
これに驚いたのはベロニカちゃん。
「ちょっと! アタシがせっかく進化したのに何よ!」
「え? ベロニカちゃんは進化してくれないと僕や皆とお話できなかったじゃん」
「……そ、それもそうね。ならいいわ!」
いいんだよ、ベロニカちゃんの判断は無駄になってないからね。
相棒の方向性を聞いた2羽の鳥は、僕の時とは打って変わって自信満々に翼をはばたかせた。
「まあまあ、なんとわかりやすい!」
「おやおや、なんとわかりやすい!」
言外に『さっきと違って!』って言われてる気がする。
その証拠に、黒鳥がクォクォ鳴いて周りがキラキラ光ったかと思ったら。
「「ハイッ!」」
ってすぐに相棒の手の中で光が収束した。
ポンッと出てきたのは、猫耳っぽい形に二か所尖ってる丸くて真っ赤な果実。
【大地に咲く循環の果実】…品質☆
太古の時より連綿と続く生命の理が具現化したモノ。
食せば人の子が忘れてしまった野生の絆を得られるだろう。
(クエストアイテムみたいなの出てきたんだが?)
(まぁご褒美のはずだし、食べちゃっていいんじゃない?)
白鳥と黒鳥も「「さぁどうぞどうぞ」」って勧めて来てるし。
相棒は一瞬躊躇したけど、思い切った感じで果実を齧った。
「どんな味?」
「……旨味の無い刺身?」
「刺身!?」
「もしくは……塩気ゼロの生ハム?」
「生ハム!?」
え、どうみても果物なのに肉系なんだ?
「……美味しい?」
「微妙」
残念。
相棒がステータスを確認してみると、【ワイルド・ファクター】なる謎スキルが生えていた。
「……パッシブっぽい。これの効果で動物の言葉が理解できるようになってる」
「……なんか単語の印象的に、動物会話は付属効果っぽい?」
「かもしれない」
この幻獣は一体何を出してきたんだろう?
ユニークアイテムでは無かったから、オンリーワンの物ではないんだろうけど。
でもなんかどう考えても特殊なイベントの一部でお出しされる代物感がすごい。
普通の『動物会話』的スキルが他にあったとしたら、その上位互換というか……そっちがおまけになってるから、もっと上位のモノって感じがすごくする。
「……僕も相棒も御褒美が大盤振る舞いすぎない?」
「因果ですから!」
「因果ですので!」
因果がゲシュタルト崩壊しそう。
えー、つまり『報酬が満足に支払われてない貢献』がそんなに積み上がってたって事?
なんかしたっけ?
……あれかな、ワールドアナウンスの引き金を引くと貢献度がめっちゃ高いとか、そういう感じ?
それならわかるよ。最初にフッシーと話してた時と、夢の牢獄坑道の時と、二回あったもんね。
……他に思いつかないから、そういう事でいいや。
「「ではまた来世!」」
「……全部それで済ませればいいと思ってないか、この2羽」
「ありうる」
1プレイヤー1回ポッキリのガチャだから、『閉店しました!!!』って雰囲気で押し切ろうとしている感じがする。
* * *
そして帰ろうと精霊郷を出た僕達は……
──ドボーン!
「……そうだった、出入口が湖の上なんだった」
「結局落ちるのかよ!」
なんとなく気が向いたので、『因果の黒鳥幻獣』について少し。
このゲームのAIは、与えられた役目によって持っている権限が違います。
完全にプレイヤー指揮下に入る従魔や精霊やオバケ等は、主ナイズするためにある程度の思考データを閲覧する権限がありますが。
そうでないNPCで思考データ閲覧権限を持つAIは極一部です。
『因果の黒鳥幻獣』のAIは、プレイヤーのカルマ値的なマスクデータを参照して、その数値の大きさと今まで関わったNPCを参照などしつつ様々な処理を行います。
カルマ値があまりに少ない、つまり貰える景品があまりにしょっぱくなる場合は、そもそも会うことが出来ません。
しかし『因果の黒鳥幻獣』のAIは、プレイヤーの思考データを閲覧する権限は持っていません。多少の希望のズレが発生する余地をあえて残しています。
なので『面白いモノ』という主観の注文を始めて出されたAIは、明確な判断基準を得られず処理がループしました。
そしてループと入力された希望の再解釈を数回行い、参照可能な『今まで関わったNPC』のデータを閲覧して、蓄積されたカルマ値に合わせた結果がサメです。AI、だいぶ困ってました。
願いを叶える存在には、きちんと具体的な希望を伝えましょう。という話。




