ユ:色々片付けた後の事
さて、サメは片付けて、無事に拠点に避難したが……
「一回、現場に戻らないと。シャーロットお嬢様が僕らを探そうとして海に突撃しちゃうかもしれない」
「それはまずい」
あのお嬢様は俺達が食われて死んだと思ったらやりかねない。
相棒は庇護対象絶対守るスイッチが入ってて聞こえてなかったが、シャーロットは悲痛な声で『魔女様ぁああああ!!』って叫んでたからな。
ロナウドが抱き留めてなかったら、後を追いかけてた可能性は大いにある。
転移オーブで、港建設予定地へ取って返す。
すると「あ! 来た来た!」「森夫婦きたぞー!」と周りのプレイヤーっぽい人達が騒ぎ出した。
「こっちこっち!」
「お孫ちゃん、グリラン爺様の所にいるから!」
いや誰だよ。
勢いに流されて誘導に従った先は、王国紋章付きのテント。
そこにはギャン泣きしているシャーロットと、おろおろしているそのお祖父様とロナウドがいた。
「お、おお! 無事じゃったかお主ら!」
「シャーロット、魔女様達、無事に戻ってきたよ!」
恐る恐る顔を上げたシャーロットは、俺達の方を向いた。
「……本当ですの? よく似た衣装を用意して、フリをしているだけではなくって?」
「なんでそこで疑心暗鬼になっちゃったの?」
変装中だから確かに全身見えない弊害が。
不安にかられていたシャーロットだが、どうにか俺達が無事だったと飲み込めたらしい。
「な、なんて無茶をなさったんですの! 死んでしまったかと、思いましたわ!」
今度は泣きながら怒り始めてしまった。
しばらくそのままシャーロットを宥めていると、ワールドアナウンスが入る。
──《ワールド突発ミッションクエスト》
──《『港建設現場防衛戦』をクリアしました》
……それだけか。今回は、特に全体に変化が起こったりはしなかったな。
って事は、イベントスケジュールにまだある他の『???』も、また突発の襲撃なのかもしれない。
「……うむ、海に押し寄せておったモンスターは全て片がついたようだ」
兵士に報告を受けたシャーロットのお祖父様が言う。
他にも敵がいたんだな。
「改めて、礼を言おう。よく孫娘とその婚約者を守ってくれた」
思いっきり泣かれてはいるんだけどな。
「ブロニ伯爵家はこの恩を決して忘れぬ。何か困った事があれば頼って来ると良い」
「もちろんバークル子爵家もです」
そう言って、俺達にそれぞれ小さな勲章のような物をくれた。
【ブロニ伯爵家の小勲章】…品質☆
ブロニ伯爵家に多大なる貢献をした証。
受け取った本人の所有扱いになっていれば、一部を除くNPCの好感度が僅かに上昇する。
手放すとブロニ伯爵家からの好感度が大きく下がる。
貴族に伝手ができた、と思っていいんだろう。たぶん。
貴族子女の家出関係が、貴族との繋がりを得るきっかけなんだとしたら、俺達は充分その恩恵は受けた。
そしてシャーロットは
「一度本国に行って、結婚してきますわ。そしてこちらに家を持ちます!」
子爵家の当主を継ぐのはまだ先の事だから、こっちで働くロナウドと一緒に住むつもりらしい。
「戻って来たら、またお会いしてくださいませ!」
「うん、またね」
危険な浜辺でひと夏の恋に迷走していたお嬢様は、すっかり晴々とした顔になっていた。
「こちら、お礼と言ってはなんですけれども……どうか受け取ってください」
【悩める乙女の平真珠】…ユニークアイテム
一人で横たわり見上げた空は、不安になるほど青かった。
所持していると貝系の敵に与えるダメージに微量のボーナスが入る。
500円玉くらいの、円盤みたいな形をした真珠だ。
十中八九、ラッコが投げてくるあの貝から出た物だろう。
シャーロットは真珠を渡して、相棒に何やら真剣な顔でコソコソと耳打ちする。
相棒は苦笑いしているような声色で「もう一人でふらふらしちゃダメだよ」と返していた。
(何言われたの?)
(ひと夏の恋に走ろうとしていた事は、ロナウドには内緒にしてって)
(ああ……)
まぁ、未遂だったしな。
でもお嬢様。それは一歩間違えたら脅迫のネタだぞ。気を付けてくれ。
俺は不安にかられながらロナウドを見ると、目が合った。
「僕も『死の導き手』様のように、守るべき相手を守れる男になってみせます!」
……俺、ロナウドの前で何か守ったか?
あれか、ネビュラに二人を乗せて逃がした事か?
それとも相棒の後を追いかけてサメの口に飛び込んだ事か?
一体ロナウドには俺がどう見えていたんだ……
「……まぁ、まずはお嬢様守ってください」
「はい!」
なんだか無邪気なんだよなぁ……頑張ってくれ、マジで。
そんな風に、俺達にとっての家出子女クエストは、大成功で幕を閉じた。
……ただ、このやりとりは全部、クエスト受注と報告を行うテントでされていたわけで。
他のプレイヤー達にも、俺達が一部のNPCから『魔女』だの『導き手』だのっていう称号で呼ばれているのが、広く知れ渡ってしまったのだった。




