表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/560

キ:招かれざる客


 突然のワールドアナウンス。


 ザブンと大きくうねった波。



 海を見る。


 そこには……白い海藻のような物が巻き付いた、巨大な背ビレが──!



「まさか……夏のサメ映画要素!?」

「いや誰得」



 僕等の声に応えるように、顔を出したサメ。

 その顔は、白い海藻のようなモノがグルグルと表面を覆い隠している奇妙な姿をしていた。



 シーウィードメガロドン Lv40



 いくらなんでもデカすぎない?。

 クジラよりも巨大なレイドサイズ。


 そのサメが……最悪な事に真っ直ぐ僕達へ向かって直進していた。


「ネビュラ! 二人を乗せて逃げろ!」


 兵士をやってるだけあって、咄嗟の判断はロナウド君の方が上だった。

 NPCだから、プレイヤーに逃げろと言われれば、例え兵士でも逃走する事を躊躇わない。


 二人が背にしがみついたのを確認したネビュラは、勢いよく駆け出そうとして……大量に流れ込んだ海水にたたらを踏んだ。


「くっ!?」

「何!?」

「あのデカブツの【水魔法】だ!」



 逃げ場が無い──




 は?

 つまり何?


 サメ映画の初手で死ぬアベック役を

 この初々しくて可愛い貴族カップルにやらせようって事?



 はぁああ?




「……ざっけんな!」


 人生で一二を争う低い声が出た。



 頭に血が上る。

 真っ白になる思考。

 集中が極まった時特有の、眼球の周りがギュウッと絞られるような感覚。


 脅威に向き直る。

 大きく大きく開かれた顎。


 何か言われた気がして

 でも集中している僕は聴覚を意識から切り離していた。



「【フレイムクリエイト】」



 どこかで見た、足裏を爆発させて反動で跳ぶ方法。

 どこだったかはどうでもいい。

 それで、跳ぶ。



「【フレイムクリエイト】!」



 二度目の火の魔法。


 赤を超えて

 黄も超えて

 白くなるほどの灼熱を


 指向性を捨てて、ただひたすらに熱くなるイメージを全身に纏った。



 炎上しながら

 サメの喉奥へ突進する。



 そのパッカリ開いた喉奥に!

 仰け反らざるをえないくらいの灼熱を、直接叩きこんでやる!!



 一瞬で通過する歯列。


 日が陰る、暗がりの口内へ

 真っ白に燃えながら突っ込んで


 口の上

 大きすぎて天井みたいな肉の壁に、思いっきり体当たりした!



 直後、胴に回される腕。


 閉じて真っ暗になる口の中。


 正面だったはずの喉の奥は、ぐるりと方向を変えて真下に移動。


 抱き込まれたまま、重力に従って落ち始める僕は


「ネモ!」


 冷静になりつつある頭で、応用の利くオバケの名前を呼んだ。



 * * *



「……で、ここからどうするつもりだった?」

「……『むかしむかし、ある所に』の時代から、自分を丸飲みするほど巨大な敵には、わざと飲まれてからの体内からの攻撃が有効だって、一寸法師パイセンも証明してます」

「……つまり?」

「入っちゃえばなんとかなるかなって!」

「そっかー……」


 はい、巨大サメに丸飲みされました僕達。

 まだ生きてます!


 いやね? 奥までいったら胃液にドボンするだろうし、かといって途中に捕まる所なんてないだろうし、サメが潜ったら海水ジャブジャブになるかもしれないしと思って。

 ネモにシャボン玉っぽい感じになって僕らを包んで、喉の壁に貼り付いてもらったのだ。


 中にいるのは僕と、咄嗟に【闇魔法】の影移動でついてきてくれた相棒だけ。


「……二人とも、大丈夫だったかな?」

「どうかな……まぁ、ネビュラの受けたダメージが俺に来てないから、たぶん無事だとは思うけど」


 そっか、精霊のネビュラが受けたダメージは、主の相棒が受けるんだったね。

 相棒が無傷って事はネビュラも無傷で、それなら背中に乗せた二人も大丈夫かな。


「じゃあ後はこのサメを始末すればいいだけだね!」

「……相棒、サメにかなり怒ってる?」

「怒ってる!」


 知らんカップルがサメの口の中に消えるのを見るのとはわけが違うのよ。

 あれだけ関わったら普通に情が沸くのよ。

 それを殺されかけたらね? ふざけんなってなるでしょうよ!


「放っといたら他のカップル食べに行くかもしれないし、コイツは絶対にここで殺す」

「……まぁ、好きにしな」


 見守ってくれるようなので、動こうと思う。


「で、どうする? レイドボスっぽいから、中からただ殴るだけだと削りきれるかは怪しい」

「じゃあ弱点を突くしかないよね」

「弱点」


 生き物の弱点といえば、心臓かなって。


 僕はMPポーションをグビッとあおった。


「……【ツリークリエイト】」


 杖に入ったコダマ爺ちゃんの強化をプラスして……体の内側から寄生植物が侵食するイメージで【木魔法】を叩きつけた。


 メキメキ、ミチミチ、と。

 木が肉に根を張る。食い込んで、貫いて、潜り込んで、体の中から心臓を探す。


「MP消費キッツイなー、オカワリー」

「……エグい」


 サメの体が激しく暴れ出す。

 肉の壁が捻れて、伸びて、縮んで、痛みに耐えているのかもしれない。悪いね、でもやめる気はないんだわ。出来るだけさっさと終わらせるから。


「……相棒がキレ散らかしてSっ気が出るの久しぶりだな」

「イヤかい?」

「いいや? そんな相棒も可愛いよ」

「好き」


 しばらくそんな一方的な侵略を続けて……ようやく見つけた。

 木が肉を掻き分けた穴を進む。

 割と近くて助かったよ。


 ドクリドクリと脈打つ、巨体に相応しい大きさの心臓。


「コレを壊せばさすがに死ぬでしょ」

「いいよ、俺がやるよ」

「いいの?」

「【急所攻撃】持ちが刺した方がたぶん早い」

「そっか、ありがとう」


 相棒が、ジャックに作ってもらった薬液を仕込める短剣を握る。


 死の海の水はさすがに使えない。

 普通の海に混ざった時にどうなるかわからないからね。

 だから、イチコロキノコの毒を入れた。


「ネビュラ」

「……うむ、無事であったか主に奥方よ」


 相棒の呼びかけに応じて、ネビュラがネモの膜の中に現れた。


「二人は無事に逃げた?」

「うむ、娘の祖父とやらに預けてきた」

「良かった」

「じゃあさっさと片付けよう……【モルテム】」


 合言葉で、ネビュラと相棒が同化する。

 ステータスが加算される。


「──ふっ!」


 鋭く息を吐きながら、ネモの膜越しに短剣を突き立てた。


 そのまま捻って、抜く。


 ……リアルだったら、とんでもない量の血が噴出したんだろうけど。これはゲームだから。


 心臓を破壊したことで、即死の判定にでもなったのかな。

 巨大なサメの体は、ポリゴンになって消えていく。


「戻るよ」

「うん」


 サメがどこにいるのかわからないけど、海中だとまずいから。


 風切羽を速やかに使って、僕らは拠点へと撤退したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
たったひとつの単純(シンプル)な答えだ……… 守護らねばモードの魔女強い。 これ外から見たらどうなってるんだろ?w
サメに開幕食われるカップル枠は人の心が無さすぎだろ!!
こ、これは・・・ レイドボスが出た瞬間、たった二人にシュンコロ!! 運営の内幕がみたいwww 頭抱えてるだろうなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ