キ:思い悩んだ少女の思い切り
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昨日に引き続き、今日も僕らはシャーロットお嬢様と一緒。
ゲーム内時間では2日空いた事になるのかな。
「夏イベント的には何かあったっけ? エンペラースイカ品評会はもう少し先だったのは覚えてるんだけど」
「……公式予定には、『???』ってあるんだよね」
「んえ?」
何その不穏さしか感じない予定は。
「スレではボスとか襲撃とか来るんじゃないかって言われてる」
「わぁお」
そんな日に港予定地のNPCクエストかぁ〜……
「……気を付けて行こっか」
「うん」
* * *
シャーロットお嬢様との待ち合わせは、港予定地のクエスト受付テント前。
「魔女様! 狩人様! こちらですわー!」
キャッキャと嬉しそうに僕達を呼ぶシャーロットお嬢様。
……えっと、程々にお願いします。周りの人達が僕達とお嬢様を交互に見比べてるから。
そう、昨日一日でお嬢様は何故か僕らの事を『魔女様』と『狩人様』と呼ぶようになってしまっていたのだ。
原因は間違いなくあの御爺様。
エフォの世界では、『魔女』は『悪い魔法使い』というより『フェアリーゴッドマザー』っていう印象の方が強いみたいで、すっかりシャーロットお嬢様とお友達になってたパン屋の娘さんも僕らを見て目をキラキラさせていたのが印象的だった。
……まぁ、悪印象じゃないならね、むしろ好感度は上がるみたいだからそこはいいんだけど……あんまり過度な期待をされても困りますよ?
「今日もよろしくお願いいたしますわ」
「よろしくね」
さて、今日は港予定地に来ているわけだけど、ここを案内するってわけじゃない。
……今日は、お祖父様の手配によって、ついにロナウド君が遠征から帰って来るということで、再会の付き添いをするのだ。ようは見届け人。
「……割と部外者だけどいいのかな?」
「良いのです。むしろ魔女様がお側にいてくだされば勇気がもてますわ! ……それに、いざロナウドを前にして、本当に浮気でもされていた場合……私、己を律する自信がございません!」
あ、そっち?
自分が暴れた時のストッパー役なのね??
「まぁそういう事なら……」
「ありがとうございますっ!」
……いざという場合にすぐ魔法が使えるように意識しておこうかな。今日も籠入りオバケは全員連れてきたし。
お嬢様がお祖父様経由で伝えた待ち合わせ場所は、最初に僕らが横たわるシャーロットお嬢様を見つけた海岸。
ロナウド君は任務の関係上ピリオまでは戻れないけど、ここにはまだ密談できるような建物が無いから、人気の無い僻地でって事になったらしい。
……結局、手柄云々はね、お家に対する建前らしいから。
クエスト名も『観光案内』だし。
ロナウド君と会えるなら、やっぱり会うのが優先って事みたいだよ。
まぁすれ違い続けて上の空になるよりはね、さっさと会って話しをして、一区切りつけてから討伐でもなんでもするようにした方がいいと思う。
そんなわけで、やってきました人気の無い海岸。
……あ、いたいた。
紫色の髪で、背がシャーロットお嬢様より高い、ピリオ兵士の鎧を着てる青年。
こっちを振り向いたその顔は……なんだろう、ショボンとしてる? 困ってるのとは少し違うような。そんな表情。
「あー、シャーロット……えっと、久しぶり」
「……ええ、久しぶりね。ロナウド」
「……」
「……」
……気まずーい!
(え、これ僕らもっと後ろで控えてた方が良かったかな!?)
(今更動けない)
(それなー!!)
貴族子女達はお互いの顔をチラチラと見ては俯くのを繰り返して……意を決したのはシャーロットの方だった。
「ねぇ、ロナウド。色々言いたいことはあるんだけど……まず私の質問に答えてちょうだい?」
「な、なんだい?」
シャーロットお嬢様は大きな深呼吸をしてから、訊いた。
「……こっちで他の女ができたり、してるの?」
「え、ええっ!? 他の女!? できるわけないよ! 君っていう婚約者がいるんだから!」
あ、浮気じゃないんだ。
青天の霹靂!みたいな顔してるし……というか、浮気してると思われてた事にショック受けて青ざめてるくらいだから、たぶんしらばっくれてるとかではなさそう?
……というか、そこに思い当たらないあたり、ロナウド君も恋愛経験値は低そうだねぇ。
訊いた当人のシャーロットお嬢様は、とりあえずホッと安堵したようだった。
……そして、なにやらものすごく覚悟を決めた顔をした。
「ならいいわ……あのねロナウド、私、色々考えたの」
「……」
「何の相談も無しに開拓地に志願して行ってしまって……それからろくな便りもなくて……でも考えてみれば、何か重要な極秘任務を受けていたとしたら何もおかしくない事なのよ」
「……シャーロット?」
「聞いて。……私ね、こっちに来て魔女様やマナさんとお話して、思ったの……」
「……何を?」
「……私だけ取り残されたみたいで悔しいし、どうしてって思ったし、私にも出来ることはあるって、それを示したいって気持ちは変わらないけど……でも、それ以上に、私がすぐに駆け付けられない場所で貴方がどうこうなってしまうのが、私は一番イヤなんだって!」
あ、それはわかりみが深い。
そうだよねぇ、離れてる間に何かあったらって思うと、せめて駆け付けられる距離にはいたいんだよ。
「だから!」
シャーロットお嬢様は、ポケットから小箱を取り出して跪いた。
「ロナウド・スワド・バークル子爵令息! 今すぐ私と結婚してちょうだい!」
な、なんだってー!?
差し出した小箱の中には結婚指輪!
シャーロットお嬢様! 渾身のプロポーズだぁー!!
そして、目を見開いて指輪を見つめていたロナウド君は……ガックリとその場に崩れ落ちて両手両膝を地につけたのだった。