ユ:キーナお勧めの観光スポット
開拓神の聖人で前騎士団長っていう凄い人に、何故か認識されていた俺達。
そして『魔女』という言葉を聞いて反応したのは、シャーロットお嬢様の方だった。
「魔女!? お祖父様、この方々はお話に出てくる善い魔女ですの?」
「うむ、儂はそう聞いておるぞ。シャーロットの悩みも、あっという間に解決してしまうかもしれん!」
孫にデレデレの好々爺が無茶振りを言う。
お嬢様の目がニチアサヒロインを見る幼女みたいになったんだが?
「ロナウドと家には儂が連絡を入れておいてやろう。シャーロットは開拓地を見て周りたいのじゃろう? 儂が許可を出せば問題あるまい、そこな二人についておれば見咎められもせんわ」
「はい! ありがとうございます」
お嬢様的には、お祖父様の一声があれば目的半ばで連れ戻される事もなくてひと安心って感じか。
ってことは、クエストは続行だ。
ロナウドが戻って来るまで数日かかるらしく、俺達もログインの関係上ゲーム内で毎日相手が出来るわけじゃない。
とりあえず今日の残りの時間でピリオノートの案内を、次にログインした時に港の建築現場へ一緒に行くって事で話がついた。
「よろしくお願いいたしますわ」
とはいえ……俺達もそんなにピリオは詳しくないから、知ってる所に案内するしか出来ないけどな。
* * *
(観光案内ならとりあえず展望台だと思う)
そう言った相棒がお嬢様を連れて行ったのは、俺達が時々行くピリオ東のパン屋横の坂を上った所にある広場だ。
ここは防壁ほどじゃなくても高い位置にあるから、街並みがそこそこよく見える。
(防壁の上はロナウド君の方が詳しいだろうから。もし仲直りしたら案内してもらえばいいでしょ)
仲直り出来ればな。
まぁ、浮気じゃないなら……なんとかなるだろ。
立ち並ぶ屋根を見下ろして、シャーロットお嬢様は金髪のツインテールを風になびかせながら「ほぅ……」と溜め息を吐いた。
「開拓地と言っても、既に立派な街なのですね……」
「そうだねぇ」
「……何度もモンスターの襲撃が来ていると聞いていますわ」
定期的に来てるピリオ襲撃の事だな。
俺達は初回しか参加してないが、戦闘勢は今のところ全部防衛に成功している。
「ロナウド君も一緒に守ってたと思うよ」
「……私だって一緒に守りたいのに」
拗ねたような声。
……このお嬢様は、令嬢っていうより女性騎士タイプなんだろうな。
「女性騎士もいると思うけど、シャーロットお嬢様は騎士にはならないの?」
「……我が家の方針なのです。男は騎士として国を守り、女は子を産み鍛えて家を守る、と」
なんだ、女性も鍛えて騎士になる家系なのかと思ったが、そんな事もないんだな。
シャーロットお嬢様は何かを振り切るように首を横に振る。
「良いのです。それがブロニ家に生まれた娘の務め。それに騎士団入りこそ許されませんでしたが、冒険者ギルドの依頼遂行は禁止されていませんもの!」
そしてお嬢様はツンと目を閉じ顔を背けた。
「私は務めを果たしていると言うのに、ロナウドときたら開拓楽しさに婚約者としての務めを果たさないのですから! 困ったものですわ!」
……さて、ロナウドは何を考えているんだろうな。
* * *
ピリオ東に来たらパン屋には寄らないといけないっていう相棒の謎の主張により、坂を下ってパン屋へ入る。
「いらっしゃいませー!」
今日も元気な看板娘さんと女将さんが出迎えるパン屋は、焼けた小麦の匂いでいっぱいだ。
「ここの娘さんはジャム屋の息子さんと婚約してます」
「えっ、あのっ、お客さん!?」
「まぁ! 婚約者がいらっしゃるのですか!?」
「そうなんですよぉー。まぁ良い御縁に恵まれましてねぇ、うちのジャムパンシリーズはその記念なんです。明日もデートしに行くんだろ?」
「お母さん! 余計なことお客さんに言わないでってば!」
シャーロットお嬢様の目が輝いた。
「どちらへデートに向かいますの!?」
「えっ……えっと、その……ステキな花畑を教えてくれるって、まだ知らないんです……」
顔を真っ赤にして照れる看板娘さん。
感極まったように悶える貴族令嬢。
「ステキですわ! それでこそ婚約者というものですわよね!? ……店主! ジャムパン、棚にあるのを全部くださいませ! ブロニ家の名義で、城への差し入れとして配達を手配なさって!」
「あらお貴族様でしたか! まいどありがとうございます!」
家紋入りの指輪を見せながら、お嬢様が実に貴族らしい買い物をした。パン屋だけど。
(あるやつ全部! みたいな買い物初めて見たねぇ)
(完全に勢いだったけどな)
「是非お話を聞かせてくださいませ! 私、ブロニ伯爵家の三女。シャーロット・ファラ・ブロニと申します!」
「えっ、あのっ、ええええー!?」
「マナ、休憩行ってきなー」
女将さんの対応が手慣れすぎている。……実は結構貴族との取引多いなこの店?
勧められるままなし崩しで外の席を借りる事になり、俺達は休憩がてら二人の少女の恋愛トークを聞いて過ごしたのだった。