キ:海辺の危険なフリスビー
とりあえず分かりやすい高級ファッションしてる少年少女がいたら気を付けようって事にして、僕らは王国紋章付きのテントへ向かった。
イベントクエストはどんな感じかなー……んー、大街道のクエストと似たりよったりかな?
モンスターの討伐と、港の建築関係がほとんど。
変わり種では兵士用の水着納品とか、料理人向けにアレンジ魚料理の納品みたいなのもあったけど。
(んー、相棒は『これやりたい!』っていうのはある?)
(いや、特に無いかな)
じゃあとりあえず陸のモンスターの討伐クエストを受注。
これでポイント稼いで水中呼吸の妙薬を貰うのがとりあえずの目標。
ついでにテントの兵士さんに、討伐対象のモンスターが狩りやすい場所を訊いてみる。
「現在入っている報告によると……冒険者の方々は浜辺の方へ多く調査に向かっているようですから、港建築現場方面の浜辺の方が獲物を見つけやすいかもしれません」
あ、なるほど。
この辺一帯に生息はしてるから、空いてる狩場を教えてくれたんだ。
助かる〜
じゃあさっそく行ってみようか。
* * *
建築現場を眺めながら通過して、僕らは岩場が続く海辺を歩いて行った。
岩場はだんだん低くなっていって、建築現場が木々に隠れて見えなくなるくらいまで来ると砂浜に切り替わった。
人は確かに少ないけどそこそこいるから、もう少し人気が無くなるのを期待して砂浜と森の境目を進む。
(水中戦闘ってどんな感じだろうね?)
(さぁ……後で動画でも探してみるか)
相棒は予習が上手いからすごく助かる。
進んでさらに人が減ってほとんどいなくなると、モンスターの数が目に見えて増えてきた。
この海辺は森の敵はもちろん来るんだけど、海らしい種類は主に二種類。
スローシーオッター Lv8
フリスビーシェル Lv5
二足歩行で小学校低学年くらいの体格をしたラッコと、名前の通りフリスビーみたいな大きさと丸さと平たさをした二枚貝。
最初はノンアクティブで、近づかなければ襲ってこない。
遠目に眺めていると、ラッコはラッコらしくフリスビーシェル同士を打ち付けて頑張って貝を開けて食べようとしているのが観察できる。
その動作はなんだかのんびりスローリー。
う~ん、普通に可愛い。
でも可愛さに釣られて近付くと、貝を横取りする敵とみなされるのかラッコは凶悪な顔で睨みつけてのんびりスローリーを投げ捨てる。
そしてフリスビーシェルをそのまんまフリスビーみたいに投げて攻撃してくるのだ。
初心者はラッコを置いておいて貝だけ狩ろうとするんだけど、ラッコは滅茶苦茶食い意地が張ってるらしくて相当遠くからもぶん投げてくるから、必死に飛び交う貝から逃げ回る事になるらしい。
(可愛いのになぁ……)
(可愛いだけじゃ生きていけないんだ)
(それパンダさんの前でも言えんの?)
(……なるほど?)
さて、遠距離攻撃をしてくるラッコだけど、初心者も参加するイベントの初期段階の敵だけあって、レベルは低い。
だから、相棒の矢も、僕の魔法も、どっちでもワンパンできた。
ネビュラはもちろん余裕だし、このくらいなら斥候のベロニカだって戦える。
「まずはクエスト目標数までサクッと狩ろう」
「オッケー」
* * *
サクサク狩り続けて、さらに人の少ない方へ流れて来た時だった。
確認のために先行していたベロニカが戻ってきて
「なんか……浜辺で寝てる人がいるわよ?」
そんな報告を入れてきた。
「……寝てるの? 倒れてるとかじゃなくて?」
「あれは寝てると思うわ」
そう言うベロニカも納得はしてなさそうな声色。
……まぁそうだよね。
普通にラッコが危ないからね、この浜辺。
ラッコの方から近付いて来てライン越えたとしても貝投げられるから、寝てる場合じゃない。
……とりあえず確認してみようか。
一応声変わりシロップを飲んでおいて、僕らはベロニカに先導してもらって浜辺を急ぐ。
そこには、一人の女の子がいた。
波がかからないくらいの浜辺に……綺麗に布を敷いて、その上に仰向けに横たわって、お腹の上で両手を組み、目を閉じている。
「「………………???」」
わからぬ。
何もわからぬ。
(……え、マジで寝てる)
(……近くにラッコいるが?)
(肝が座ってるのか、気付いてないのか……)
わざわざ布を敷いて寝てる時点で行き倒れとか気絶の線は消えた。
年の頃はどう見てもティーン。
綺麗なつやつやの金髪をツインテールにしていて、装備は革製の旅装って感じ。ズボンで、マントも着てるし、腰に剣もあれば、ベルトに短剣もある。
まぁ、この辺りにいてもおかしくない格好はしていた。
(……プレイヤー、かな?)
(……さぁ?)
プレイヤーはこんな敵モブの側で寝ないとは思うんだけど……だからって、NPCはもっと寝ない気がするし……?
「人の子よくわからん……」
「いや、人の子にもわからん」
誰にもわからない謎の行動をする女の子。
……そこへ恐れていた事がついに起こった。
ヒュウッと風を切る音。
飛来するフリスビーシェルは、真っ直ぐに女の子へと向かう。
「あっ! 危なっ──」
スウッ……っと横たわる女の子の片脚が持ち上がる。
そのしなやかなおみ足は、完璧なタイミングでフリスビーシェルを蹴り返した。
──ゥオッタァー!?
なんて綺麗なカウンター!
打ち返したフリスビーシェルが見事にヒットして、スローシーオッターは儚く消えていった……
(……とりあえず、寝てても心配ない強さがある事はわかった)
(……うん)