キ:栄光は誰の手に
大波で浜辺に打ち上げられた選手達。
最初に動いたのは、一人のテイマー。
ガバッと身を起こして、騎乗従魔の待機所に向かって叫んだ。
『ハバタキ突撃号!!』
クエーッ! って声と一緒に、兜を被ったダチョウっぽい大きな鳥がテイマーに駆け寄ってくる。……ってことはそれ名前なんだね。
「遭難みたいに打ち上げられた所から始まった最終エリア! いち早く現実に戻ってきたのは『バイトリーダー』選手!」
「戦闘トップ勢のテイマーです。さすが切り替えが速い」
駆け出して、ダチョウに跳び乗るテイマーさん。
他も負けじと後を追う。
こうなると自分の従魔の方が有利だね、迷わないから。
借りてるっぽい人は、どうしても合ってるかどうか確認しててタイムロスしてる。
色んな従魔にプレイヤーがどんどん跳び乗っていくのを、僕らはデザートのクレープをもひもひ食べつつサファリパーク気分で見ていた。
(あのダチョウみたいなの可愛いなぁ)
(象っぽいのもいる、どこでテイムしたんだ)
(ねー)
そして騎乗する対象は、何も従魔だけじゃない。
召喚に乗る予定のプレイヤーは、続々と魔法でモンスターを呼び出している。
『【サモンレプタイル:ラージスネイク・リベンジ】!』
……ん?
忍者スタイルの人が、なんか聞き覚えのあるモンスター名を唱えた気がする。
忍者っぽいポーズをする前で、輝く地面の魔法陣から、ものすごく見覚えのある大きな蛇さんがズルリと姿を現した!
(帰ってきた蛇さんじゃん!!)
(あいつ召喚契約できたのか)
大蛇は忍者さんを頭に乗せて満足気に舌をチロチロすると、周りの従魔を蹴散らす勢いでコースへ向かって突進する。
「うわー! すっごいの出てきたー!! 大蛇が巨体で周りを捻じ伏せるみたいにコースを制圧して進むー!」
「これは凄まじい。現在確認されている騎乗可能モンスターの中では最大ではないでしょうか」
大蛇の巨体を避けつつ速度を上げるのは難しい。
加えて道中は、最初の陸路と同じく先行プレイヤーによる【土魔法】の壁が妨害で続々と生えてくる真っ最中。
足が速くても、アスレチックみたいな悪路を走る技術が無いとまともに進めない状況になっている。
「人が乗れるサイズの飛行モンスターをテイムした冒険者はまだいないみたいなので、皆頑張って走ってねー!」
「現在先頭争いをしているのは、『バイトリーダー』選手、『海之モクズ』選手、『雷切伝道師』選手、『麺食メン子』選手の4名です」
お? 配信者のメン子ちゃんだ!
最初に滑って転んでたけど、いつの間にかトップ争いまで上がってきてる!
『バイトリーダー』はダチョウっぽい鳥に乗って。
『海之モクズ』は人魚姿のまま大きな魚に掴まり、魔法で水の道を作りながら泳いでる。
『雷切伝道師』が忍者スタイルで忍者ポーズしながら大蛇に乗ってて。
『麺食メン子』は角の大きな牛っぽい動物に必死でしがみついてた。
四人の乗ってる動物は、妨害の魔法で足場が悪くてもスピードが落ちない、そして迷いもない。
慣れてない感じのメン子ちゃん以外は、お互いバチバチに妨害魔法を撃ち合っている。
『そろそろ脱落してもらうぞ! 【ソイルクリエイト】!』
忍者がそう吠えて魔法を唱える。
【土魔法】は、コースを切断するみたいに横に長くて大きな窪みをいくつも作った。
『あ、ヤッベ!』
人魚の展開していた水の道が、うっかりって感じで溝に落ちる。
当然、そこを泳いでた魚と人魚も一緒に落ちる。
ダチョウと牛は、特に問題無く地面の窪みを飛び越えた。
蛇さんに至っては大きいから、あの程度の窪みなんて無いような物。
順位は変動しないまま、Uターンするコースのカーブを駆け抜けて、いよいよゴールが近付いてきた。
「行けぇえええ!! メン子ぉおおお!!」
「バイトリーダー!」
「後ちょっとだぞ忍者ー!!」
会場も残った三人をそれぞれ応援する声が響く。
後ろからも飛び交い始めた妨害魔法で、ますます苛烈になる先頭争い。
……なんか、メン子ちゃんの乗ってる牛? が、だんだん鼻息荒くなって速度上がってるような?
「なんかあの牛っぽいの速くなってません?? あれなんてモンスター?」
「えー、あれは『ロングロングホーンビースト』と言うそうです。怒りの蓄積によりステータスが上昇するそうですよ」
へぇー、つまり妨害にキレ散らかして俊敏上がってるんだ。
……でも名前の割にそこまで角は長くないような?
「さぁいよいよゴールが見えて来ました! 果たして優勝は誰だー!?」
『ふふ、このペースなら拙者の逃げ切りでござる!』
『露骨にRP入れてきたな?』
『それは言わないお約束……っとぉ! 危ない!』
軽口を叩き合っている所に、なんとメン子ちゃんから飛ばされた【風魔法】
突風に飛ばされかけた忍者は、なんとか蛇の頭上で踏みとどまった。
『メン子、パーティレンタルにしがみつくので精一杯かと』
『精一杯よ! でも負けらんないのよ!! アタシは……っ!』
体全体で牛にしがみつきながら、それでもメン子ちゃんはギラつく目を開いて前を向いた。
『アタシは! 皆で! 一緒に船に乗って海に行こうねって! 約束したんだからぁーーー!!』
ゴールは目前。
そこで、ただただ突進していた牛が雄叫びを上げる。
ロングロングホーンビースト。
なんだかどこかで聞いたような名前のモンスターの……
その角が……伸びた!
まさしく名前に相応しく。
固有のスキルか何かかな?
角が一瞬で、何メートルにも長く伸びて──
「ゴォオオーーーール!! 貫きましたー! 一瞬で長く伸びた角が!! ゴールテープを貫きましたぁぁーーーー!!」
「優勝は『麺食メン子』選手です!!」
ワアッ!! と湧き上がる観戦会場。
「やったぁぁああ!!」「メンメェェエエン!!」って叫びながら飛び跳ねている一部の集団。あれはメン子ちゃんのファン達かな?
カメラ判定みたいなコマ送り映像が、角の長さでゴールを掻っ攫った決定的瞬間をリピートしている。
悔しそうに崩れ落ちる、先頭争いをしていた二人。
まだ信じられないって顔をして、牛の上でポカンと座っているメン子ちゃん。
解説のフェアリーさんが、メン子ちゃんが乗っていたモンスターの説明が運営から届いて読み上げ始めた。
「えー、『ロングロングホーンビースト』は何度でも生え変わる角を戦闘に使用する生き物です。体格の割に俊敏が高く、軽やかな身のこなしで回避行動をとり、隙を見て角を伸ばして敵を貫きます。名前の由来でもあるその角の長さは──」
「「「「「最長で6メートル!」」」」」
ギャラリーに先に言われてびっくりしているフェアリーさん。
あんまり綺麗に声が揃ってるから僕もびっくりした。
(そんな有名なモンスターだった?)
(まぁ……一部では?)
(え、どこ界隈?)
(リンゴ界隈)
えっ
(『ロングロングホーンビーストの角は最長で6メートル』、フリマで誰かがリンゴから出した情報だよ)
(……マジで?)
ものすごくどうでも良さそうな情報なのに、まさかの優勝持って行っちゃったよ。