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ユ:水のフィールドの対策


 俺達は、塩焼きうどんを食べながら、海に突入していく選手達を眺めていた。


 普通に泳ぐだけなら、海エリアは人魚の独壇場になる。

 でもエフォ(EFO)は魔法の自由度がとんでもなく高いからな。変わった方法で海を渡るプレイヤーがいるかもしれない。

 戦闘の役に立つかもしれないから、このエリアは見ておきたかった。


「さぁ先頭争いはこの四人のまま、森を抜けて海エリアに突入するよ!」

「波打つ夏の海には溶岩も氷も経路を塗り替えるには至りません」


 四人は各々が別の方法で海に挑んだ。


 まずはペンギンデスマッチ。

【氷魔法】が得意らしい女性は、海でも氷を使う事を選択した。

 サーフィンボードみたいな形の氷を足に装着して、【水魔法】との併用で水面を滑って進む。


 そしてボルシチ。

 彼は近場の木を1本へし折って丸太にするとそれに跨り、【風魔法】で後ろに風を噴出して前に進む。


 次は行商人パピルスだ。

 パピルスはインベントリから……おい、嘘だろ? ヨットかそれ?

 準備してきたらしいヨットに乗ると、MPポーションを飲み干して、【風魔法】で海を進み始める。


 そして番犬ジョンは……素直に海に入り、のほほんと速さの欠片もない犬かきを始めた。


「ジョオオオオン! それで良いのかジョオオオオン!?」

「だからお前は駄犬なのですわー!!」

「この駄犬ー!!」


 お嬢様言葉の罵声が会場に飛び交う。……お嬢様のクランも同じ部屋だったのか。


 さらに追いついてきた後続も、続々と用意していた海対策を使ってトップを追いかける。人魚はその場で足を尾ビレに戻して海に飛び込んでいく。

 ……やっぱり人魚は速いな。

 魚影みたいに見える姿が、グイグイ追い上げてトップに迫っていった。


「『海之モクズ』選手、人魚だぁぁああ!! あっという間にトップ争いに参加してきたー! それを追いかける他の人魚勢! 『海之モクズ』選手と並んでもう一人速いのがいるねー!?」

「あちらは『コッパ・ミジン』選手です」

「なんでぇえええええ!? なんで人魚は船を沈めようとするのー!?」


 ……伝承的には間違ってないんだよなぁ。


 波を掻き分ける音が響くレースのトップ争い。

 ……そこに突然、リズミカルな爆音が響き始めた。


「何々!? なんの音ー!? ……って忍者だー!! 今度は忍者が海の上を走って来ましたー!!」

「あれは『雷切伝道師』選手です。足の裏から爆発系の魔法を出す事によって、反動を利用し水面ギリギリ触れる高さを走っているようですね」

「忍んでねぇえええ!! 忍べ忍ぃいいいい!!」


 文字通り爆走する忍者。

 地金が露出する実況者。


 解説のフェアリーはそんな喧しさもなんのその、涼しい顔でステージ後の海を指す。


「会場の皆様にはそろそろ……ああ、見えてきました。後ろの海をご覧ください。やや遠いですが、選手の皆さんが目視できるかと思います」


 ……ああ、見えた。


 そこそこ遠い海面を進む選手達。一番目立っているのは商人のヨット。ヨットに近付いていく、爆風で吹き上げられる海水。



 ……そして、そのあたりの海がぐるぐると渦巻き始める様子。



 陸地エリアの氷と同じだ。

 魔法によるフィールド変化の妨害。


 ダメージが入るものじゃないからだろう、広範囲の渦は選手を巻き取ってグルグルと回り続けた。


 フィールドによって妨害にも色んなやり方があるな、勉強になる。



 呑気に考えながら眺めていると、横のキーナがつんつんと腕をつついてきた。


(ねぇねぇ、相棒だったら海エリアはどうやって突破する?)

(んん?)


 俺だったら?

 そうだな……泳げはするけど、人魚には追い付けないだろうし。魔法で加速するよりは、むしろ……


(……【闇魔法】で早そうなプレイヤーの影に入って連れてってもらうかな)

(あっ、干支のネズミみたいなやつだ)

(そう)

(……それって陸エリアでも使えるよね?)

(使えるね)


 ルールは地面・海面に接して進む事。

 飛行禁止って意味なんだろうが、影はどっちも接するからルール違反にはならないはずだ。


(……まぁヘイト集めそうだし。やっぱり出なくて正解だったな)

(だねぇ)


 なんでも有りとはいえ、本気でルールの穴を突いたら悪目立ちする。

 目立ちたくないんだ俺達は。


 ……ただそれはそれとして。

 水着を推奨したり、水場でレースをさせたり、景品に船があったりするのを考えると……水場用の装備は作っておいた方がいいのかもしれないな。

 近々そういうクエストが起こる可能性がある。

 水着じゃなくても動きやすい装備は作れるだろうから、素材は入手しておくか。

 あとは水中呼吸の妙薬の確保もかな。

 イベント終わってから必要になったら絶対に高騰する。



「おおっと! ここで『番犬ジョン』選手の【水魔法】による高波だー!!」



 実況の声で思考から戻って投影画面を見ると、MP全ブッパしたような高波が選手の()()()()襲い掛かる所だった。


 ……とはいえ、PvPが無い以上、波の上方のダメージ判定部分は選手を素通りする。

 影響が出るのは下方の、海に影響する部分だけだ。

 それも船が転覆しないように、潮流となって押し流すだけのもの。


 渦潮を打ち消した波は、ぐるぐると回っていた選手を押し出し、先頭争いの選手にも追いつき、全部まとめて運んでいく。


 ステージ向こうの水平線に目をやれば、選手たちが『ああ~~!』と声を上げながら、どんぶらこと対岸へ流されていく姿が良く見えた。


(……あれって、海エリアのゴールに向かって流れてるよね?)

(だね)


 後ろから高波起こしたからな。


(ってことは、騎乗エリアは全員横並びでスタートじゃない?)

(そうなるね)


 全員一緒に流れ着くからな。


「この駄犬ー!!」

「だからお前は駄犬なのですわー!!」

『ありがとうございまぁぁああっす!!』


 罵倒に対する謎の感謝が響き渡り……波が引いた砂浜には、打ち上げられた大量の選手達が横たわっていたのだった。


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― 新着の感想 ―
マグロのせりみたいにプレイヤーが打ち上げられているイメージw
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