ユ:拠点でそれぞれ物作り
体調不良へのお気遣いありがとうございました。
ひとまず本日お昼の分をお送りします。
夕方は様子見しつつ判断します。
早めにこなした方が良さそうなクエストも一段落ついたので、俺達は夏のイベントに向けて数日かけて準備を進めた。
相棒は早速本を書き始めた。
……とは言っても文字数の多い本格的な小説じゃない。簡単な挿絵が添えられている小さな絵本みたいな小冊子だ。
タイトルはそのまま『絆の梟幻獣のお話』と『斥候クロウ隊のお話』
お城に問い合わせたら、本にするのは快くOKをくれた。代わりに何冊か欲しいと言われたから、出来上がったら届ける予定だ。
一応当鳥のベロニカにも許可を取ったら、「す、好きにすればいいじゃない。ア、アタシは別に、興味無いけど!」と言って。その後、気になるのか執筆中の相棒の周りをウロウロしている。
小冊子は図書館で売っている写本用の紙で作った。
枕の下に入れて寝て、夢に変装していない俺達の姿が出たら困るからな。
俺もせっかくだから何か売り物を作るかと考えて、ひとつ思い付きマリーの所に行った。
「マリー、今ちょっといいか?」
「はい、大丈夫です」
最近のマリーは、自分で出した蜘蛛糸を布にするのにハマっている。
クリスタルスパイダーは水晶を糸に混ぜて丈夫にするらしく、水晶無しだと美しさも強度も数段落ちるが、それでもただの綿織物よりは綺麗で丈夫だ。
綿とシルクの中間って感じか。
……人形の体でも蜘蛛の糸が出せるのはさすがファンタジーだな。
俺はマリーに、相棒に描いてもらったスケッチを見せた。
「蜘蛛の巣みたいです」
「当たり。これはドリームキャッチャーっていう物で、蜘蛛の巣に見立てた網で悪夢を捕まえるお守りなんだ」
微睡の森の木を使って夢に関するお守りを作ったら、本当に効き目が出るんじゃないかっていう思い付きだ。
丸い輪の形にした木の中に、蜘蛛のオバケであるマリーに網を張って貰えたら良いものが出来る気がする。
ぶら下げる羽飾りは豆ニワトリの羽があるし、材料には困らない。
マリーはこの案に微笑んで賛成してくれた。
「得意分野です。やりたいです」
「よし、じゃあ作ろう。俺が丸い枠を作るから……」
「はい、そこから網を張って仕上げる所までお任せください」
……うん、やる気満々で何よりだ。俺の仕事は思ったより少なくなったけどな。……森の葉っぱで羽だの糸だのでも染めるか。
* * *
「旦那サマ〜、頼まれてた短剣出来たヨ〜」
マリーと作業をしている所へ、ジャックが頼んであった短剣を数本持ってきてくれた。
「ありがとう」
「確認してミテー」
受け取って、革の鞘から抜いてみる。
ジャックに頼んでいたのは、二つ。
まずは近接戦闘用に、コンバットナイフっぽい形と大きさで、毒液なんかを仕込める構造の物。
【薬液仕込みの黒塗りナイフ】
柄の部分に液体を入れると溝を伝って刃に届いて、切りつけた時に傷口に入るようになっている。
死の海の水は流石に飛び散ると自分も危ないから……イチコロキノコかデスポテトあたりを使う事になるか。
ダメ元でジャックに頼んでみたら「たぶん出来ルー!」と笑顔で請け負ってくれた。そして実際に出来上がってきた。
さすがファンタジーだ。
そして二つ目は狙撃用のボウガンの先端に銃剣みたいに装着するもの。
急襲された時、咄嗟に対応出来るようにしておきたかった。
どっちも問題は無さそうだ。
「うん、オッケー。良い出来だ」
「へへへー!」
そしてジャックは黙々と作業をしているマリーを見た。
「マリーは何作ってるノ?」
「夢のお守りです。夏にお店で売るのですって」
「ヘェー!」
夏のイベントの事を話すと、ジャックはワクワクとした様子で体を揺らした。
「イイナー! 旦那サマ! オレも何か作ったら売ってモラエル?」
「いいよ」
「ヤッター! デュー! デューゥウウ! 一緒に鉱山行コー!!」
ジャックはあっという間に外へと走って行った。
……鉱山って事は、レゾアニムス鋼を使った何かか?
まぁ一緒に並べる分には問題無いだろう。
「……というか、皆一緒に売りに行けばいいんじゃないか?」
前のフリーマーケットみたいに専用装備が必要な専用フィールドってわけでもない。
動く人形が一緒に店番してた露店を相棒が見たらしいし、普通に一緒に行けるだろ。
「……まぁ、行きたいって言ったらだな」
引きこもりタイプだったら無理にとは言わない。露店と戦闘は全然別のジャンルだ。
ジャックあたりはノリノリで来るだろうけど。
デューも誘われれば喜んで参加するタイプな気がする。
マリーはどうかな……お客の顔が見たいならくるかもしれないが、そんなことより作業がしたいって言うかもしれない。
……なんて考えていたら、相棒がふらりとやってきた。
「マスター?」
「どした?」
「フクロウちゃん描いてたら思い出して切なくなったから、相棒成分補給しに来たー」
そう言って、ガバリと抱きついてくる。
まぁ補給は必要だ。俺もちょうど欲しかった。
抱き寄せて、背中をさする。
ギュウギュウと抱きしめ合っていると、マリーが感心したような顔で呟いた。
「マスター達は……定期的に何かを摂取しあっているのですね」
「そだよー……これは僕らの生存に必要不可欠な事だから、気にしないで」
「わかりました」
わかったのか。
それで納得するあたり、マリーもやっぱり主ナイズされてるな。