キ:それはまるでひとつの演目のような
(すごいカッコいい夫婦だったね!)
(だね)
(僕らにはあのカッコよさは無理そうだねぇ)
(うちは良くも悪くも緩いから)
(それなー)
特に僕には迫力というものが欠片もない自覚があります。
さて、そんな感じでコケッコちゃん達がカッコいい夫婦に引き取って貰えてからしばらく経った頃。
蜂のお姫様の話が大きな敷地持ちの開拓勢に届いたのか、農作業してましたって雰囲気の人達が僕らの店の前にやってきた。
「おおー、結構デカいなぁ」
「養蜂やるなら本格的にやろうとは思ってたけど、これは建築も本腰いれる必要がありそうだ。うちはちょっと厳しいかな」
なんて実際の運用を考えた場合の声が聞こえてくる。
でもって、やっぱり大きさに二の足を踏んでる感じ。
うんうん、『珍しいから』なんて理由で食いつかれなくて助かる。『やっぱり無理だった』が許されない規模の蜂の巣が待ってるからね。
ただそのかわり、そう簡単に里親が見つからないって事でもあるんだけど。
もし今日でダメなら、何日かかけるか……あるいは誰かに話を広めてもらうかしないとかなー
それこそ、木材買い取って貰ってる行商人パピルスさんとか顔が広そうだし、素材とか手土産にすれば相談に乗って貰ったり出来るかもしれない。
……なんて考えてたのがフラグだったのか。
「どうも、こんにちは」
「……こんにちは」
来ちゃった。パピルスさん。
* * *
しれっと占いの列に並んでいたパピルスさん。
まぁお客様だし、占いは普通にやった。
『大蛇の入江、育てるは大海への第一歩』
なんの事かな?
パピルスさんは何か思い当たる事があるみたいで、ニンマリと意味深な笑顔を浮かべていた。
で、今のところ蜂のお姫様を引き受けるのに積極的な人もいないことだし、ちょうどいいからとパピルスさんに里親に心当たりが無いか相談してみる。
……パピルスさんは、ペカーッと輝く感じの爽やかスマイルで自信満々に胸を叩いた。
「そういう事ならお任せください! 心当たりがありますので」
あるんだ!?
はえー、人脈ガチで広いとか、本当にリアルの商人さんみたいだ。
こういう人を見ると僕は商人RPは絶対無理だなーって思う。まず顔と名前忘れちゃうもん。今みたいな露店ごっこで限界だよ。
……そしてしばらく経った頃に、その人はやってきた。
「あ、戦隊だ」
そんな誰かの呟きが聞こえて、僕もついついそっちを見た。
そこにいたのは、いつぞやのフリーマーケットで見たファンタジー風戦隊衣装の……緑色を着ている女性。
「ああ、来ましたね」
パピルスさんの言葉で、僕はその戦隊グリーンさんがパピルスさんの心当たりだとわかる。
そのグリーンさんは……溢れんばかりの大輪の百合の花束を持ってやって来ていた。
顔まですっぽり覆う装備だから顔はわからないけど、キリッとしてオシャレな装備を着ているから、花束と相まって雰囲気は完全に王子様。
その戦隊グリーンさんは……うちの露店に真っ直ぐやって来ると、パピルスさんに軽く手を上げて応え、そして蜂のお姫様の前で跪いた。
「……嗚呼、麗しき蜂の姫君よ。お会いしとうございました。広大なる世界に種を蒔き、花を咲かせ、実りを待つ我が身において。まさしく実りの女神とも言える貴方がた蜂族にお目通りが叶う機会を得られるとは、至福の喜びにございます」
なんか始まった。
戦隊グリーンさんは、大きな花束を蜂のお姫様へと差し出す。
「貴女の可憐さの前には霞んでしまうでしょうが……僭越ながら、この出会いを記念して花を選ばせていただきました。こちらは『メロリンメモリーリリー』です。私が育てました。花言葉は『蜜の如き甘き愛』。私が考えました」
花言葉も自作かい。
「嗚呼、姫君よ。どうか、どうか我が拠点へとお越し下さいませんか? 私は、必ずや貴女を守ると約束しましょう。貴女のための城を作り、貴女のための花畑を用意します。ただ望むのは永遠の繁栄。地平線まで広がる豊穣の実り。貴女が女王として君臨するその王国の、礎を築く名誉を頂きたいのです!」
このグリーンさんも中性的な声で、きっとカッコいい枠の女性。
だからかな? ものすごく、女性が男役をやる系の舞台みたいになってるのは。
花を背負って言ってる感じがするというか……昔の少女漫画みたいに、背景とか空気に花が咲いてる感じがする。
頭を垂れながら差し出した花束。
観衆が息を呑んで見守る中で……蜂のお姫様は……そっと、その花束を受け取った。
「嗚呼、姫! ありがたき幸せ!!」
ワッと沸く観客から万雷の拍手が降り注いだ。
(……なぁにこれぇ?)
(わからない。俺には何もわからない)
(僕にだってわからんよ)
でも、蜂のお姫様はちゃんとテイムに応じたらしい。
戦隊グリーンさんはお姫様の持つ蜂の巣を紳士な仕草で代わりに持ち、シャランラシャランラと蜂のお姫様と手をとってクルクル踊ってから、僕らの所にやって来た。
「この度は、良い出会いをありがとうございました」
「いえいえ、私は紹介しただけですから」
「……えっと、相性が良かったみたいで良かったです」
それはもう本当に。
──クエスト『蜂の姫君の後見探し』をクリアしました。
そして表示されるクエストクリア表記。
うん、良かった。
本当に良かった。
(……あれって、花の蜜が美味しそうだったから、食欲で受け取っただけでは?)
(シッ、いけません!)
僕はパピルスさんにお礼として、インベントリに入りっぱなしだった【満ち夢ちトマト】が10個くらい入っている籠を渡した。
パピルスさんは笑顔で受け取ったトマトの詳細を見て……一瞬ひっくり返りそうになったのを踏みとどまって、挨拶の後にすごい速さで何処かに走って行ったのだった。
このゲームにはRP補正があるので、絶対に逃したくない場面に遭遇した時、補正を知っているプレイヤーは各々のやり方で本気を出します。
ゲーマスAIもニッコリ!