キ:梟幻獣の報酬
蜂さん達の見送りを受けながら、僕らは蜂のお城を後にした。
『次に相まみえた時は敵同士、全力で命の取り合いをいたしましょう』って言われながらバイバイしたんだけどさ……
「もうここに狩りになんて来れないよ」
「それな」
だって平和にお話してお姫様までお預かりしちゃったよ?
殺し合うの嫌だが???
「……でもきっと蜂の方はできるんだよねー?」
「そうだね、野生の生き物だから」
「人間の弱みだなぁー!」
「それが強みになるといいけど」
ほんとにねー
さてさて、とりあえず蜂のお姫様をこのままダンジョンの外に連れ出したら里親探しの時に面倒くさそうだからね。
ネモにカメレオンのイメージを伝えて、お姫様を隠してさっさと森に入ってもらう。
ネモは全スキル微量強化で便利だからとりあえず連れ歩くようにしてるのだ。
こういう時にとても助かる。
ネビュラには透明状態になってもらって、さっさとダンジョンを出て、森に入って合流。
効率のいいダンジョンが近いこの森は、他のプレイヤーがわざわざ入って来る事も無いみたいだから。とりあえず隠れなくても大丈夫かな。
「じゃあフクロウさんの所に戻ろっか」
「うん」
森を今度は南に歩く。
ネビュラもいるから、蜂のお姫様を守りながらでも大丈夫。
しばらく行くとニードルバードに囲まれて、もう少し行くとフクロウさんが見えてきた。
「おかえりなさい」
穏やかに迎えてくれるフクロウさん。
それに眉をひそめたのは、行きはいなくて初めてフクロウさんと会うネビュラだった。
「……おい、お前」
「黙ってちょうだい狼精霊さん。これから私がお話するのだから」
にっこりと、有無を言わせない感じの笑顔をネビュラに向けるフクロウさん。
ネビュラは不服そうな顔をしたけど、フクロウさんが譲らず笑顔のままでいると、渋々と引き下がった。
……なんだったんだろう?
僕らの疑問を他所に、フクロウさんは変わらない穏やかな雰囲気で蜂のお姫様を見た。
「ふふ、蜂の女王様のお願いを受けたのね。……じゃあ、私のお願いには何てお返事を貰ったのかしら?」
「『時間が解決する』って」
僕らは聞いた事情をそのまま伝えた。
すると、フクロウさんは驚きもしないでうんうんと頷く。
「……ですってニードルバード達。もう少しすれば蜜がたっぷりの花が見つかるわ」
ニードルバード達はそれを聞いて安心したように、チュピチュピ鳴きながら各々どこかへ飛んで行った。
──クエスト『蜂の女王への謁見』をクリアしました。
うん、クエストはあっさりクリア表記。
「これでひと安心ね」
「……フクロウさん、本当は知ってたんじゃないですか?」
「あらどうして?」
「そんな感じに頷いてるから」
僕がそう言うと、フクロウさんはニッコリと笑う。
「ふふふ、そうね」
あ、肯定するんだ?
フクロウさんはニコニコしたまま蜂のお姫様に近付くと、何かまた「ホッホゥ!ホッホゥ!」と詠唱した。
「良い相手に巡り会えますようにのおまじないよ」
蜂のお姫様は嬉しそうに8の字に飛ぶ。
良い相手って、お婿さんの事かな? それとも里親の事かな?
どっちにも効果があったら最高なんだけど……でもプレイヤー相手には難しいのかな?
おまじないを終えたフクロウさんは、今度は僕らに向き直った。
「さぁ、思い通りに働いてくれたあなた達には、きちんとお礼をいたしましょう」
「あれ、前払いじゃなかったの?」
「まさか! アレッポっちじゃとても足りないわ。きちんと後払い分もありますとも!」
ホッホゥホッホゥ。
嬉しそうに鳴くフクロウさんは……フッと穏やかな雰囲気が消えた。
「いい? よく聞いてね?」
「……ハイ」
思いがけず真剣な雰囲気に飲まれる。
フクロウさんは、ひとつひとつ、思い出しているみたいに口を開いた。
「この世界が戦っている『滅び』の、その使徒は、7体います」
……えっ?
「使徒にはね、大きく分けると二種類いるわ。そういう存在である子と、滅ぼしたいって願いを持っている子」
待って?
「願いの形は様々よ。滅ぼす側に立てば、いずれ全ての上に立てると思っている子。誰もが悪い子に違いないと決めつけている子。覚えている事に耐えられなくて、全部忘れてしまいたい子」
待って?
待って?
どうしてこんな重要そうな話がフクロウさんから出てくるの?
だってそれじゃあ……
「願いのある子はそれが強さでも弱さでもあるでしょう。……でもね、願いの無い子。ただ、そういう在り方なだけの子には、気をつけて」
だってそれじゃあ、フクロウさんは、『滅び』と関わった事があるみたいじゃない?
「関わり方を、間違えないで……私のように、なってしまうから……ね?」
こてん
と
言い終えたフクロウさんが
首を傾げたのと同時に
フクロウさんの体は
ざらりと端から砂みたいに崩れ始めて……
……ゆっくりと……倒れてしまった。